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勇者として異世界召喚されたんだが、巻き込まれて一緒に召喚された人が実はヤバかった件  作者: 鷹沢綾乃
Act.2 戦乱の先へ

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11.現実は待ってくれない

 ぼかしたものですが、死体の描写があります。

 ご注意ください。


 俺は思わず顔が引きつったが、他3人もそれは同様だった。


 「君たちが[撃ち落とした]んだ。確認するべきだろう」


 そう言うと、早見さんは自分から並べられた死体の側に行き、その傍らに跪いてその様子を確認し始めた。

 ……なんで、そんなこと出来るの!?


 焦りまくる俺たちに向かって、早見さんが顔を上げて手招きをする。


 「君たちが戦う相手だ。ちゃんと確認しなさい」


 うえぇ~ん、逃がしてくれない~

 俺たちは互いに目線でどうしようかと相談し合い、諦めて早見さんに近づいていった。

 早見さんに近づくっていうことは、死体にも近づくってことで……

 魔法を乱射してた時には、少し遠くて暗いし、一瞬しか見えなくてほぼシルエットになってたんで、あれが[生きている存在]だとあまり意識はしてなかったんで、割りと平気だったんだけど……

 目を逸らしたかったが、早見さんの無言の圧力に負けた。


 そうして初めて見た“魔族”の死体に、俺は……いや、俺だけじゃない。他のメンツもみんな、衝撃を受けた。

 墜落死になるから、当然体に傷はあるし、骨折しているんだとわかる、手足が異様な角度に曲がっている死体もあった。もちろん、俺たちが魔法を撃ちまくったんで、それによる傷もある。

 ただ、一番ショックだったのは、髪の色や目の色が所謂(いわゆる)アニメカラーっていうだけで、顔立ちや体つきは、俺たちとほとんど同じだったってことだ。血の色も、俺たちと変わらない赤。

 特に、ひとりは俺たちと同じくらいの年齢に見える女の子だった。

 明らかに首の骨が折れてるとわかるその子は、ピンク色のふわふわした髪で、半開きの目はきれいなルビーレッドだった。(うつ)ろなその目は、当然何も映していない。

 側頭部のくるりと丸まった角が、髪飾りにさえ見えた。

 生前はきっと、『かわいい』と思えるような子だったんだ、となんとなくわかった。

 ああ、本当に、俺たちとなんら変わりはしないんだ!!

 魔獣や魔物なんかと戦って、血と肉に慣れていなければ、精神的におかしくなっていたかもしれない。


 俺たちが茫然としているうちに、早見さんが手を伸ばし、ひとりひとりの目を閉じさせ、足蹴にされて歪んだ身体の姿勢を、まっすぐに直してやっていた。


 ねえ、何でそうやって、平然としていられるの?


 俺の、いや俺()()の心の声にこたえるように、早見さんは5人全員の体を真っ直ぐにしたところで立ち上がり、言った。


 「僕は、司法修習生時代に、本物の死体見分に立ち会ったことがある。それと、写真だけだが交通事故の犠牲者の、もっとひどい状態の遺体の様子も見ている。慣れるまではいかないが、初めて見たわけじゃないんだよ」


 冷静な口調だった。一応、近寄りがたいような威圧は、おさまっていた。

 そして、もう一度死体のほうに目をやると、右手を胸に当て、眼を閉じて黙とうした。

 あ、そうか。あれは、弔いなんだ。


 「……もう少ししたら、死後硬直が始まる。そうなってしまうと、きちんとした形に直してあげることが出来なくなるからね……」


 黙とうが終わった後、早見さんが淡々とそう言った。


 さっきまで死体を足蹴にしていた連中は、すでに遠巻きに様子を見ているだけで、誰も口を利かないし、誰も動こうとしない。

 どうやら、さっきの威圧の余韻らしい。

 信じられないものを見た様な顔で、早見さんを見ている。

 だって、みんな気圧(けお)されてたもんな。

 やっぱりあの威圧、普通じゃなかったみたい。


 それは、勇者仲間の3人も同じだったみたいで、早見さんが目と顎で指示し、それに押された連中が人が包めるほどの大きさの布に、5体の死体をそれぞれ包む作業を始めるのを見ながら、どこか呆然としていた。


 「……早見さんって、何者なんだ? 何、あの威圧。オレ、マジでビビったわ……」

 「あの人、ずっとただの足手まといだと思ってた。なんで、戦う力もない人が、最前線までくっついてくるんだろうって、そう思ってた。でも、あれを見たら……」

 「……わたし、わかんなくなっちゃったよ。あの人、絶対只者じゃないよね。あんなに、場を支配出来るなんて……」


 そりゃ、そう思うのも当然だと思う。あの人の本性知ったら、きっとびっくりするとと同時に、納得すると思うんだ。

 ……よほどのことがない限り、本性出さないだろうけど。


 そして、初めて見た“敵”の姿にも、俺たちは困惑するのと同時に、すごく重いものが胸に残った。

 あれと戦うんだ、俺たちは。

 しかも、そうしなきゃならない時間は、刻々と近づいている。


 やがて、布に包まれた5体の死体は、兵士たちの手によって、陣地の片隅にきれいに並べて横たえられる。

 話を聞いたら、これから来る敵襲をしのいだら、穴を掘って埋葬するのだそうだ。

 やっぱり、一時的にテンションが上がってああいうことをしてしまったようなんだけど、早見さんの一喝で冷静になったらしい。


 そうだな、もうすぐ敵の本隊が来るって言ってたもんな、早見さん。

 何となく、そういう流れでみんな動いてるけど、どうして早見さんがそう言ったのか、誰も深く考えてないみたい。

 それも、やはり<隠蔽>効果なのかねえ……


 そういや、騎士と兵士って何が違うんだろ?

 疑問に思ったところで、まるで心を読んだみたいに、早見さんが答えてくれた。


 「騎士は、文字通り“騎士の叙勲”を受けたもので、騎士爵という爵位持ちだ。兵士というのは、“騎士の叙勲”を受けておらず、ザウードラに乗って戦うことが出来ない者たち。ただ、訓練して“軍馬”として使えるようになった“馬”には乗れる場合があるんで、歩兵と騎兵にわかれることになる。騎士は、元々は隊長格の人が多かったんだけど……」


 長年の戦いの結果、兵士たちの数が減ってしまい、本来騎士だった人たちまで、兵士の役割をしなくてはならなくなったんだそうな。


 「だから今現在は、騎兵イコール騎士になってしまっているようだね。そして、歩兵が兵士ということになる」


 だから、騎士団の一部が最前線まで出張ることになってるんだね。

 王都から来た人たちが隊長格となり、地元で招集した土地の領主の騎士団や兵士たちがその指揮下に入っていると。

 それがラミラ砦で、次のドープ砦には、テコ入れのために騎士団の一部が入り、この陣地にはさらに選抜された面子が派遣されていると。

 何となく納得した。


 「でも、歩兵というのも重要なんだ。弓兵は歩兵の中から選抜されるらしいし」


 え、“馬”に乗ったまま弓を使うんじゃないの?


 「ああ、古式馬術だね。あれは、日本の伝統的なもので、馬上であれだけ巧みに矢を射る技術があるというのは、世界でも多くない。流鏑馬(やぶさめ)だって、神事にはなっているけど、元々はそういう技術だしね」


 少なくとも、ヨーロッパの馬術とは、まったく方向性が違うんだそうな。



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