表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/86

02.いろいろ直面する日々

 何だかんだで、数日が過ぎた。

 早見さんが、『同郷の勇者と一緒にいたほうが安心感がある』とかのたまって、俺と早見さんの同室は、一時的なものじゃなく、これからずっとそうなることが確定した。


 で、肝心の早見さんとは、和解したというか、なんと言うか。

 そもそも早見さんは<隠蔽>や<認識阻害>の術をかけて、自分の素性を悟られないようにしていたらしい。

 ただ、元の世界と切り離されてしまったせいで、神としての権能に制限がかかり、同郷の俺には、かえって誤魔化し切れなくなってしまったのだそうだ。

 確かに、早見さんは魔法が使えない。でもそれは、そういう術が全く使えないということではないのだという。


  「僕の場合、()()()()()()()()使()()()()()()で、実際<隠蔽>や<認識阻害>の術はちゃんとかけているんだ。……君にはうまく効いてくれなかっただけで」


 そう、半神(デミ・ゴッド)といっても、早見さんの場合は本当に“見習いの神”という意味での半神(デミ・ゴッド)であり、ある程度の“神の力”が使えるのだそうだ。

 身体(からだ)はただの依り代で、そこに宿る精神体が本体。

 この体が年老いたりして滅んだら、すでに決まっているとある(やしろ)に神として鎮まることになっているという。

 それで俺、訊いてみた。例の、ヤバすぎな名前の力のことを。


 「その……<存在の根源を喰らう力>って……具体的にどういう力?」

 「そのまんまだよ。あるものがこの世に存在するための根源の力、それを喰らうことによって、それを消滅させる力さ。……別に、持ちたくて持った力じゃないんだけどね……」

 「消滅させるって……」

 「本当に試したわけじゃないけど、おそらくは森羅万象あらゆるものを喰らい尽くせる力だろうね」


 ……マジで魔王の力だ……。でも、試したことがなくて、よくそんな力だとわかるね?

 内心そんな疑問を持った俺に、早見さんが真顔で告げる。


 「これの前身というか、下位互換みたいな力を元々持っていたから、自分でわかるんだ。あれはそういう力だと」


 何だか、わけわからんこと言いだしたぞ、この人。

 あんな物騒な力に似てる力を、元々持ってた? いくら今は半神(デミ・ゴッド)だからって言っても、元は人間だったわけだよね。

 今依り代にしている体は、人間だった時の自分の身体だって、自分で言ってたもんな。

 ってことは、人間だった頃に、すでにちょびっと物騒な力を持っていたってことになるんだけど?


 「ああ、その通り。当時の力は『魂喰らい』と呼ばれる力だった」


 『魂喰らい』がどんな力かと言うと、ずばり妖怪変化なんかを喰らって消滅させる力で、これ、恐ろしいことに生きている人間にも使うことが出来て、その魂と命運―いわば寿命のようなもの―を喰らい尽くして消滅させることによって、“喰い殺す”ことが出来る力だったという。

 何、その物騒な力!?

 それが、半神(デミ・ゴッド)になれるだけの力を持った時に、いわば“進化”してこうなったというんだ。

 ……ほんとにこの人、半神(デミ・ゴッド)? 魔王じゃなくて?


 「……まあ、いろいろあったんだよ」


 苦笑するような表情で、早見さんが小さく溜め息を()く。

 でも、他の勇者たちにばれたら大変なことに、と思ったら……


 「他の勇者がいくら【鑑定】したところで、僕の本性は見抜けないだろうね」


 早見さんが、そう言って笑った。じゃあ、見抜いちゃった俺は……


 「諦めるんだね。悪いようにはしないよ。同郷なんだし」


 仮に俺が本当のことを言ったところで、誰もそれを確認出来ず、信じてはもらえないだろうと早見さんに言い切られた。

 ああん、やっぱりあの時やめときゃよかった。

 精神的に、落ち着かないよ……


 そしてその数日で、俺たちは現実を突きつけられていた。

 いや~こういう異世界って、中世ヨーロッパっぽい世界でも、インフラに当たるところって、案外近代的で、日本に近い環境だったりするじゃん?

 でも、ここは違うんだ……


 まず、夜が暗い。何当たり前のことを、と思われるかもしれないけど、灯りが暗いんだ。

 だって、ろうそくとかランタンとか、そういうものしか灯りがないんだもの。

 そうじゃなかったら、松明(たいまつ)とか。

 向こう(元の世界)でLEDの光を見慣れてるからか、ものすごく薄暗く感じる。

 早見さんは『間接照明だと思えばいいんじゃないかな』なんて言ってたけどさ、なんか暗すぎて、なんとなく気味悪いんだよね。


 そして、部屋に毎朝水差しが運ばれてくるんだけど、『この水以外生水は飲まないでください』と言われた。

 お城の敷地内にいくつも井戸はあるが、飲むためには一度沸かして湯冷ましにしないといけないらしい。


 「何も不思議なことはないよ。向こう(元の世界)だって、水道の蛇口から出てきた水を、そのまま飲める国の方が珍しいんだし」


 早見さんに言われ、俺は面食らった。

 え、そうなの……?


 「そうだよ。国連に加盟している国と地域は約200ほどあるけど、水道水をそのまま飲める国は、1桁しかないと聞いたことがある。もっと多く言われている数字でも、やっと11~12ヶ国。大多数の国は、水道水(生水)はそのまま飲めない。日本は、数少ない例外の国だ」


 ……知らんかった……。マジですか、それ?


 「正真正銘、マジ話。国内にいると、それが当たり前で意識しないだろうけどね。それにこの国が、水資源が豊かかどうか、わからないだろう? まだ、ここに来て日が浅いからね」


 うわあ、マジかぁ……

 だからこの世界の水事情が悪くても、不思議じゃないってことなんだな。


 そういうことなら、他の水回りがちょっと不自由なのも、仕方ないってことなのか。

 そういやお城のトイレは、壁に腰かけられるようなでっぱりがあり、そこに穴が開いてるっていう代物だった。穴を覗いてみたら、下の木々が見えて、風が吹きあがってきたよ……(泣)。

 拭くのも、半干しされた葉っぱだったし。

 お城の1階部分は、お城を守る兵士の詰め所があったりして、いわゆる住居部分は2階以上にしかないせいなんだけど。


 風呂も、大きなタライにしか見えないものにお湯を溜めて、汗を流す感じの物。おまけに石鹸がひどかった。

 木の器に入った、白っぽいペースト状のもので、肉の臭みを何倍にも濃縮したような、よろしくない臭いがする。

 聞けば、以前は固形で嫌な臭いもしない石鹸が交易品として入ってきていたんだけど、魔族との争いのせいで入ってこなくなってしまい、今は王侯貴族でさえ手に入らないんだそうだ。

 早見さんは『おそらく、獣脂を使ってる石鹸なんだと思うよ。諦めるしかないね』と苦笑してたけど。


 食事だって、肉と野菜を煮込んだポトフみたいなものの味は塩だけだし、パンは向こう(元の世界)の黒パンみたいなやつで、少し硬くて酸っぱい。これ、王族の人たちも同じものを食べてるんだわ。

 ……いくら普段の食事とはいえ、王族の食事の内容がこれか……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ