01.一応到着
土を踏み固めた道の向こうに、石を積み上げて壁を作り、さらに丸太を並べてその高さを増している建物のようなものが見える。
丸太の先端まで、大体7~8メートルはあるだろうか。
辺りが、草原地帯だから、余計に高く見えるんだとは思うけど。
それが、俺たちの目的地であるラミラ砦だった。今見えているのは、砦を囲む城壁みたいなものだ。あの中に、砦の建物はある。
王都を発ってから6日目の昼過ぎ、それは見えてきた。
案内役として、ここまで連れてきてくれたアマデウスさんやヴァルフさんによると、とても順調に来たそうだけど。
それでも、宿が取れたのは最初の3日くらいで、それ以降は野宿だった。
ずっと天気に恵まれたことは、はっきり言って幸いだった。
もっとも、馬車を使っていたら、最低もう1日余計にかかっていたはずだったって。
俺たちは、空間収納持ちで荷物を持ち歩く必要がないから、それでも早めに到着出来たんだそうだ。
実際、空間収納には、たっぷり荷物を詰め込んできたさ。砦への物資輸送も頼まれたからね。
他国の後方支援のおかげで、戦時中とはいえ物資が不足する、なんてことはあまりないらしい。ただ、後方支援してくれる国で手に入らないものは、こちらでも手に入らない。そう、石鹸とか、砂糖とか……
そういうのは、すでに魔族の占領下にある国が、生産を担ってたわけで。
戦ってる相手と、交易なんて無理だわな。
砦までの道中は、1回だけ魔獣に襲われた以外は、割と平穏だった。魔獣だって、あっさり撃退出来たし。
襲ってきたのは、俺たちの世界の馬によく似ている姿で、頭に10センチくらいの長さの三本の角が生えたような奴だった。
大きさも馬ぐらいだったが、10頭ぐらいの群れで襲ってきて、半分は倒し、半分は逃げ出したって感じ。
そいつの肉はうまいという話だったので、みんなで頑張って解体し、薬になるという角と、魔石は回収。肉の大半は空間収納にしまった。
みんなで食べられる分だけ、焚火の炎で焼いて夕飯にしたんだけど、本当にうまい肉だった。早見さん曰く、『ジビエ料理で食べた鹿肉みたい』だったそう。
残りの肉は、砦へのお土産ということになった。
そして、俺たちは砦にたどり着いた。
砦の周囲には、深さが大体4~5メートルありそうな堀が掘られていた。水はなかったけど、かなりの急角度なんで、落ちたら這い上がるのは難しそうだ。
それで、出入り口は1ヶ所だけ。そこには、丸太を束ねた跳ね橋があり、一応馬車も通れる幅はあるが、巻き上げてしまえば完全に通れなくなる。
跳ね橋の正面には、やはり丸太を束ねた様な門があって、ちょっとぐらいの攻撃なら、受け止められるんだろうな、と感じさせる。
俺たちは“馬”を降り、それぞれ手綱を引きながら跳ね橋を半ばまで渡り、そこで一旦足を止める。
「我、近衛騎士団所属、アマデウス・ヴァレン・フィーダンなり。ヴァルフ・ライド・ジームスとともに、勇者一行をお連れした! 開門を願う!」
先頭に立ったアマデウスさんがそう名乗ると、ほどなく砦の門が開いた。
そのすぐ奥で出迎えてくれたのは、砦に詰めている兵士や騎士、魔術師らしい黒やグレー、紺色などのローブ姿の人たち。
パッと見、大体50人ぐらい。
ほんとはもっといるんだろうけど、総出で出迎えてくれているわけじゃなさそうな雰囲気だな。
だって、砦の中って大体直径100メートルぐらいあって、その中にいくつもの建物が建っているんだ。
どう考えても、中にいるのが50人ぽっちとは思えない。
まあ、いろいろ事情はあるんだろうけど。
出迎えてくれた人たちの中で、一歩前に出ている人たちが3人。2人が騎士服で、1人が真紅のローブにワインレッドのマントを羽織っている。マントの留め具が、銀色の翼の意匠だった。
「ようこそ、勇者たち。私が、この砦の責任者のゲオルグ・ヴァン・ハモンドだ。ひとまず部屋に落ち着いてくれたまえ。こちらの詳しいことは、一息ついてから話そう」
そう言ってくれたのは、真ん中に立っている褐色の髪に灰緑色の目をした人。この人が司令官のハモンドさんか。年の頃は40代ぐらい。元々は侯爵家の三男だったそうだが、優れた才覚でここまで来た人だそうだ。
「こちらに控えているのは私の副官で、そちらから見て左手にいるのがフェルディナント・ルーヴ・ハウゼン。右手にいるのがロディアス・ボー・アルムンドだ。よろしく頼む」
金褐色の髪にライトブラウンの目をし、ローブとマントを身に着けた三十代半ばに見える人がハウゼンさん。伯爵家の出身ではあるが四男であり、実は前線からのたたき上げだそうだ。なんでも、『銀翼の魔術師団』という王国最強と言われる魔術師軍団の団長なんだって。
魔術師団のトップだけど、指揮命令系統の関係で、副官の立場にいるそうだ。
もうひとりが、くすんだ金髪に灰青色の目をした二十代後半に見える人でアルムンドさん。同じく伯爵家の三男で、この砦にほど近いところに領地を持つ、いわば“地元”の人。
それぞれ、簡単に自己紹介してくれたので、こういうことがわかったんだけど。
ただ、この副官のどちらかが、俺たちにとって“ありがたくない”人になるわけなんだが……
ハモンドさんは、落ち着いた態度で俺たちを歓迎する言葉を言ってくれた。
この人はいい。
どちらが、俺たちを軽んじているんだろうか?
ハウゼンさんは、俺たちのほうを厳しい表情でじっと見ている。
対してアルムンドさんは、穏やかな表情でこちらを見ている。
……どっちだろうな。
俺たちが空間収納に入れて持ってきた補給物資を引き渡すと、ここまで案内してくれたアマデウスさんやヴァルフさんは別室に案内され、乗ってきた“馬”たちも奥にある厩舎らしいところで引かれていった。
その後、俺たちは5人まとめて少し広めの部屋に案内された。
ただ、特に何があるわけでもない殺風景な部屋で、一応イスやテーブルがあるから、ここで客を出迎えることなんかもしてるんだろうな、と何とかわかる状態。
「これ、私たちのこと、歓迎してるのかな? それとも歓迎してないのかな?」
何となくブスッとした表情の水谷さんが、部屋を見渡しながらつぶやいている。
「あーわかるわ。オレもそんな感じするしな」
「そうそう。特にハウゼンって人だっけ、なんか睨んでるみたいで感じ悪い。あの人じゃないの、わたしたちのこと、使い潰そうとしてるほうって」
火村も土屋さんも、明らかにぶすくれている。
けど、早見さんは違った。
「もう少し、様子を見てからでも遅くないよ。見た目温厚そうで、実は腹黒だったなんて人、実際にいるんだしね」
早見さん、いやに実感こもってない? 仕事で、何かそういう人に遭遇したことある?
とはいえ、俺たちが極端にひどい扱いを受けたわけじゃない。
「そもそも男所帯だろうし、敵の脅威に直面している最前線に近いところだし、王城にいたころみたいな扱いを受けるはずはないよ。それをするには、施設も物資も人員も足りないんだから」
早見さんがみんなをなだめる。
それを聞き、さすがにみんな不服そうにしながらもうなずいた。
いよいよ次の章が始まりました。
頑張って書きますが、もしかしたら更新が途切れるかも知れません。
その時は、「あ、詰まったんだな」と流して、お待ちいただけると嬉しいです。




