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勇者として異世界召喚されたんだが、巻き込まれて一緒に召喚された人が実はヤバかった件  作者: 鷹沢綾乃
Act.1 異世界召喚

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24.フェアウェルパーティー

 それから、もう1回魔物討伐に出かけ、さらにレベルが上がったところで、いよいよ前線の砦に向かって出発することになった。

 そして、翌日は出立だという日の午後、ちょっとした壮行会というか、宴会もどきみたいなものがお城の中庭で行われた。

 集まったのは、俺たち勇者4人組と早見さん。アストリッド王女様とシャルロッテさん。

 アマデウスさんに、ヴァルフさん。

 さらに、公務の合間を縫って、短い時間の参加の王妃様とウォルフガング王子様、マーシャ様。

 あとは、何人もの使用人や侍女が、参加者に過不足なく飲み物や軽食を手配していく。

 まだ昼間だからということで、立食形式でアルコールはなし。

 さすがに、王家の人々が顔を出すようなところに、魔物を連れ出すわけにいかないので、クリスは留守番。


 短時間参加のお偉いさんたちは、最初に挨拶をして俺たちに(ねぎら)いの言葉をかけた後、『あとは気心の知れた者たちで、ゆっくり楽しむといい』とのお言葉を残し、退場された。


 そういやこの世界だと、俺たちの歳でもう飲めるそうなんだが、冷えてもいないビールっぽい飲み物とか、なんとなく濁りが残っているようなワインぽい飲み物とか、そういうのしか見かけなかったんで、飲む気がしなかった。

 火村のヤツは飲んだことがあるそうだが、ヤツ(いわ)く、『あんまり美味(うま)いと思えなかった』そうだ。

 ビールっぽいのも、ワインぽいのも、なんか酸っぱかったらしい。

 一口ずつしか飲まなかったこともあって、そう酔っぱらうことはなかったそうだけど、『あれが(アルコール)ってやつなら、なんか幻滅だなあ……』って言ってたから、本当に口に合わなかったんだろうな。

 早見さんに聞いてみたら、早見さんも、少しは飲んだことがあるらしい。


 「要は、やり方が洗練されていないんだろうね。発酵とかも、職人の勘に任せているはずだし。輸送や保管に関しても、僕らの世界ほど管理が徹底されているわけじゃないだろうし。でも、ここが魔法なんかの要素を除けば中世ヨーロッパ的な世界なんだから、仕方がないさ。僕たちの世界とは数百年分ずれがあるんだ。文化の違いもあるだろうしね……」


 小声でそう答えられて、なんとなく遠い目になったのは秘密だ。

 ちなみに、絶対に飲み過ぎないように加減して飲んでいたらしい。

 何で? って聞いたら、あまり酒癖がよろしくないらしい。

 何でも泣き上戸で、周囲の人に向かってべそべそ泣きながらひたすら愚痴るらしい。

 何度かやらかして、周囲の人が生温かい表情にしかならないんだと。うん、それは確かにうざいわ。


 で、みんなが参加したその壮行会っぽいものだけど、こじんまりとして知っている顔しかいなかったせいか、穏やかに進んだ。

 その場で知らされたことと言えば、アストリッド王女様が俺たちの帰還の方法を探すために王都に残ることと、その付き添いで、護衛騎士でもあったシャルロッテさんも残ること。

 向かう予定の砦まで、アマデウスさんとヴァルフさんが案内役として付いてきてくれるそうだ。

 まあ、地図だけ渡されて『行ってこい』と言われたって、土地勘ない人間に向かって何言ってんだとしか思わないだろう。

 その地図だって、俺たちの世界の地図と比べたら、全然正確じゃないだろうし。

 『測量技術の発達した向こう(元の世界)と比較しちゃだめだ』って早見さんは言ってたけど。

 お茶とお茶菓子だけの、本当に()()()な集まりだったんだけど、俺たち5人がちょうど一つのテーブルに集まっていた時、新たにお茶を入れ直しに来てくれたフローラさんが、真剣な顔でこう言った。


 「……私、あれから少し調べてみたんです。これから向かう砦の人たち、注意してください。司令官はちゃんとした方なんですが、2人いる副官のひとりが、どうも嫌な考えを持っている人らしいのです……」


 また“勇者召喚反対派”か? と思ったが、そうじゃないらしい。

 勇者召喚自体は認めているらしい。

 ただ、こういう考えらしいという。


 『どうせ異世界人なのだ。我々の戦力を減らさないためにも、使い潰せばいい。死んだら、また誰か召喚して来ればいいだけの話だ』


 それを聞き、俺たち全員が無表情になったのは、当然のことだろう。

 俺たちは、お前らに楽をさせるための道具じゃねえぞ。

 でも、早見さんはすぐにさもありなんって表情になった。

 充分考えられる話なんだって。


 「心の奥で、異世界人を見下していたなら、そういう考えになっても全然不思議じゃない。国の中が本当の意味で一枚岩だなんて、まずありえない。戦争が始まった当初ならともかく、長期戦になってくると、考えだって割れて来るさ」


 それにしても、よく調べられたよね、そういうこと。


 「でも、フローラさんはよくそういうこと調べられましたよね?」


 やはり同じことを思ったらしい水谷さんが、ストレートに尋ねる。


 「私、これでも姫様付きの侍女でした。だから、お城の中ではそれなりに伝手があるんです。ただ、2人いる副官のうち、どちらなのかまではわかりませんでしたが……」


 フローラさんの答えに、皆なるほどとうなずく。

 そういやそうだったな。シャルロッテさんが、元は王女付きの護衛騎士だったのと同じで、王女様付きの人ならそれなりに伝手はあるだろう。

 少なくとも、情報があるのとないのでは、全然違う。

 お茶を入れ直すと、フローラさんは一礼してその場を離れていく。それを確認してから、皆がぶつぶつ言いだした。


 「失礼しちゃうわね。わたしたちが実力を見せつければ、少しは考えが変わるかしら」

 「いや、どうかな。君たちに実力があるならあったで、『ちょうどいい。このままおだててどんどん魔族討伐に行かせよう』とか考えるかも知れないよ」


 土屋さんが口を尖らせると、早見さんが嫌な想像をかぶせてくる。うん、ありうる。


 「何それ!? ひどい!」


 土屋さんが、さらにむくれるように声を上げる。


 「相手からしたら、ある意味当然のことだよ。現実に戦っているのは、地方領主が手塩にかけて育てた騎士団なんだ。人材が失われると、その損失は大きい。勇者が来ることで、その損失を抑えられるなら、使い倒そうと考えても不思議じゃない」


 早見さんは、冷静に言葉を続ける。


 「この世界の騎士はね、一族郎党が主君に仕えているわけじゃない。個人が、主従契約を結んでいるんだ。だから、『あるじにふさわしくない』と判断すれば、契約を破棄して次の主君を求めて出て行ってしまう。騎士には、それが出来る権利があるんだ。だから、騎士団を持つ者は、騎士を大事にする。万が一騎士団の中から死者が出たとなったら、遺族が路頭に迷うことがないように、きちんと面倒を見なければならない。周りの騎士たちも、それを見ているんだ。自分に万一のことがあった時、残された家族がどうなるかを見るということだから。そこをおざなりにしようものなら、騎士たちが離れていっても文句は言えない。だからこそ、余計に人材が失われるのを嫌がるんだ」


 それを聞き、俺たちは何も言えなくなった。


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