23.発想の方向性の個人差ってやつかなぁ……
しばらく、魔力制御の鍛錬をしていたんだけど、小一時間も経ったころかな、3人がひとまず休止ということでだらんと体勢を崩した。
やっぱり、魔力制御を集中してやると、疲れるんだよな。
昨日俺もやったけど、やっぱ疲れるもん。
そのうち、昼寝をしていた早見さんも起きてきた。
大きく伸びをして、いかにも目が覚めましたって感じで寄り掛かっていた体を起こしている。
そして、休憩に入っている3人のほうを見、穏やかに話しかける。
「……魔力制御、うまく出来るようになった?」
それに対して水谷さんと土屋さんは当然とばかりに胸を張ったけど、火村は頭をかいている。
「……何回やっても、なんだかよくわかんねーんだよなあ……」
それを聞いた女子2人が、揃って溜め息をつく。
「やっぱり、魔法を細かく制御するの、向いてないんだよ、火村さんは。斧槍振るって相手をなぎ倒すほうが、向いてるんだよ」
土屋さんが、あっさりとそう言った。
当然火村がぶすくれる。それを見た早見さんが、あちゃーという表情になる。
「一所懸命努力してる人のことを、そんな風にぶった切ることはないんじゃないかなあ……」
なだめるような口調だな、早見さん。確かに、火村の気持ち考えるとな。
でも、向いてないもんは向いてないんだから、早めに切り替えて斧槍の鍛錬したほうがいいとは思うんだ。
そういう意味では土屋さんの発言、間違ってはいない。
いないんだけど……
言われた火村、女子2人に背を向けて、すっかりいじけちゃったっぽい。
「……どうせオレは、魔法なんか大雑把だよ……」
すっかり拗ねてるぅ……
「……諦める必要はないんじゃないかな?」
早見さんが、火村の前にしゃがみ込み、もう一度声をかける。
「ここで諦めるのは簡単だけど、聞いたことはないかい? 『成功する人とは、成功するまでやり続けた人だ』って話」
それを聞いた火村、まだ拗ね気味だったけど、それでも顔を上げた。で、早見さんの顔が意外に近いところにあったみたいで、一瞬だけビクッてなった。
「それに、やみくもに何とかしようとするんじゃなくて。君の得意な属性は“火”だろう? なら、それから何が連想出来るか、考えてみてもいいんじゃないかな」
「連想……?」
言われて考え込む火村と、それを静かに見ている早見さん。
火村、しばらく考えてたけど、ぼそっと言った。
「“火”って、燃やす以外になんかあったっけ?」
目の前の早見さんが、軽くこけた。そう返してくるとは思わなかったらしい。
……火村の脳筋ぶりには、さすがの早見さんもガクッと来たみたい。
当然、今までのやり取りを聞いていた女子2人も、なんだか呆れたような、哀れなものを見るような、そんな目をしている。
だよな。もうちょっと連想頑張ろうぜ……
「……君、サッカー部だろう? サッカーはプレイ中、結構自発的に考えて、選手が動くものじゃないのかな?」
早見さんが、ちょっと遠い目になりながら火村に問いかける。
「サッカーなら、試合の流れでなんとなくどう動くといいか、わかるんだ。でも、これってサッカーじゃねーし」
火村の返答に、早見さんが深々と溜め息をつく。
「……もうちょっと連想してくれると思ったんだけど……。例えば、“火”っていえば、熱と光を発するものだ。それぐらいはわかるよね?」
早見さんの口調は、小さい子に言い聞かせるような感じになっていた。
「光は別に光魔法があるから置いといて、熱は広げる余地があるんじゃないかな?」
「広げる余地ぃ~?」
火村は首をひねってるけど、早見さんは言葉を続ける。はっきり言わないとだめだと思ったらしい。
「熱、つまり温度を操れるようになれるんじゃないかなってことさ。なにも、熱するばかりが温度操作ではないよ。対象の温度を下げることだって、出来るんじゃないのかな」
言われた火村、ポカンとした顔をしている。
「……温度下げるって……それで何が出来るんだよ。氷魔法でも使えるようになるってのか?」
「いや、氷魔法とは似て非なるものだと思う。氷魔法は、周囲を凍らせて、対象を氷の中に閉じ込めるという感じになるはず。温度操作で冷却する場合、やり方によっては対象の内側から凍結させることが出来るかもしれない」
それを聞いた水谷さんはハッとしたような顔をしてたし、土屋さんもあれっと何かに気づいたような顔になってたけど、肝心の火村がピンと来てないみたい。
氷魔法は、まず間違いなく水魔法の派生だ。だから、水谷さんはその力に目覚めると思う。
でも、それと温度操作は違うって、火村、お前気づいてないな。
「誰かに向かって氷魔法を放つとして、どうなるかといったら、氷を叩きつけるか、対象を氷で包んで氷の中に閉じ込める、ってことは出来ると思う。温度操作なら、内側から凍らせることが出来ると思うから、ちょっとえぐい言い方をすれば、心臓や脳といった致命的なところを内側から凍結させて殺すことも出来ると思うよ。もちろん、温度を上げて、内側から焼き尽くすこともね」
それを聞いた火村、ちょっと引いた。うん、早見さん、はっきり言いすぎ。でも、温度操作で人を殺せる可能性があるってことか。
……こういう場合、容赦がないのはほんとに魔王様だなぁ……
「……ちょっと早見さん、物騒なこと言いださないでほしいわ。ドキッとするでしょう!?」
水谷さんの顔も、心なしか引きつっている。土屋さんも、なんだか顔色が悪い。どうやら、想像しちゃったらしい。
「もちろん、もっと穏便な使い方だってあって、暑いときや寒いときに、それを緩和して過ごしやすい温度に保つことだって出来ると思うよ」
……先に、そっちを例題として挙げてくれませんかねえ、早見さん……
ほんとに、“人間だったころの記憶と倫理観がそのままだった”から人として生きていけるって、マジだよな。




