22.やっぱり新たな魔法を覚えたい
この練習は、純粋に魔力を操るだけだから、特に派手なことは起こらない。
だから、ほかの人の様子を見ても、別に面白いことは何もない。
よって、反応は2つにわかれた。
そのまま練習に没頭して、延々練習を続けちゃう人と、だんだん飽きて、おざなりになってくるヤツと。
没頭組は土屋さん。水谷さんも、どっちかって言えばそっち。
おざなり組は、当然火村。俺は……おざなりまではいかないけど、没頭まではしてないかなあ。
火村のヤツ、元サッカー部だっただけに体を動かすのは好きらしいんだけど、じっと座って精神集中するのは、あまり得意じゃないらしい。
だろうな、って感じはするけど。
頑張れ。脳筋扱いされたくなけりゃな。
しばらく続けて、それぞれ程よく疲れたところで、今回は終了。
さすがに、集中してやってた土屋さんは、なんか掴んだっぽい顔してたけど、火村はなあ。
俺の目から見ても、結構いい加減だったもんな。
……やっぱりこいつ、武器ぶん回してるほうが性に合ってるんじゃないの?
前に、『自分も新しい魔法の系統を覚えたい』って言ってた気がするんだけど、だったらもうちょっと真面目にやろうな。
「とにかくお疲れさま。夕飯は作っておいたから、さっさと食べてゆっくり休むといいよ」
早見さんが、声をかけてくれる。
早見さんが、肉と野菜を煮込んで、塩とハーブで味を調えたポトフもどきを作っておいてくれた。
最近、あらかじめ肉や野菜を刻んだ状態で空間収納に入れておけば、早見さんでも結構おいしくポトフもどきを作れるんだと気づいて、刻み済みの材料をストックしておくことになったんだよね。
……かなり器用に作るんだわ、この人。きっと、元の世界でもそれなりにやってたんだろうなって感じるくらい。
だんだん暗くなってくるのに合わせて、<光珠>を封じたランタンの明かりの下、夕飯を食べることになった俺たち。
早見さん謹製のポトフもどきは、結構おいしかった。
みんな、パクパクと食べ、おいしいおいしいと口に出していた。
それを見ている早見さんの表情は、穏やかで優しい。とても、“魔王の力を持つ半神”とは思えない。
まあ、こっちの面も、間違いなく早見さんのもう一つの貌なんだろうって思う。
きっと、家族にために頑張るお父さんの面が、必ずあるはずなんだから。
……あの見た目のせいで、なんだかピンと来ないんだけどな……
一応、女子と男子でわかれて、交代で夜の見張りに立つことにして、前半が女子、後半を男子と決める。
特にとんでもないことは起こらないと思うけど、念のためだね。
全員で寝ちゃったら、万が一何かあったときに対処が遅れるもん。誰かが起きていれば、蹴り起してでも行動に移れるんだから。
実際、もしもの時は、蹴飛ばしてでも起こせってことになってる。
女子組の前半が何事もなく終わって、見張りを交代する。
火村はあくびを噛み殺しながら、座ったままのんびりとあたりを見回している。
俺と早見さんは、同じく座ったまま主に火村とは反対の方向を、ゆっくりと見ている。
もっとも、早見さんが探っているなら、半径500メートルは抑えているはずだから、俺や火村の出番はないんだけど。
すると、早見さんが小声でぼそりとつぶやく。
「村の中で、有角族の兵士が、見回りを始めたみたいだね。本当に、真面目に治安維持に取り組んでるみたいだ。そうなると、本当にうかつに接触は出来ない」
あ、そうですか……
あの村、500メートルの範囲内に入ってるのね。
それで、村の中の人の動きも気配でわかる、と……
……この人が本気になったら、俺たちいらなくね? っていうか、確実にいらんと思う。
この人ひとりで、全部出来る。
でも、あえて俺たちにやらせてるんだな。
そんなこんなで、特に大きなこともなく、夜明けを迎えた。
その後、朝食を食べた後、俺たちがいた痕跡を消しまくってから、いったん出発した。
相談した結果、これ以降も結界は張られていないんじゃないかってことで、もうちょっと大きい街を目指したほうがいいんじゃないかってことになったんだ。
大きい街なら、人の流れもあるんじゃないか、人の流れに紛れて、町に入る隙もあるんじゃないか、って話がまとまったんだ。
もっとも、それまでの間に水谷さんの<幻術>で有角族に見せかけて誤魔化すか、土屋さんが“心理的透明”を自分のものにするかしないと、どっちにしろ入れないけどね。
俺たちは、明らかなよそ者なんだから、下手に顔を覚えられると危険だって、早見さんに指摘されたんだ。
一応目の色は変えてたりするけど、勘がいいなら直感的に『同一人物じゃないか?』と感じる場合があるっていうんだ。
こういう細かいことに気が付くから、みんな早見さんについていくんだよな、なんだかんだで。
……マジで、早見さんについてきてもらってよかったって思うわ。
やっぱり街道を避けて、先へ進んでいく俺たち。
あの廃村から距離が離れるにつれて、次第に街道が活気づいていくのがわかる。
あの廃村、やっぱり相当影響を及ぼしてたみたい。
まあ、近づくのさえヤバいって思わせるありさまだったんだから、あの村から離れれば離れるほど、人の流れが戻ってくるのは、ある意味当然なんだろうな。
でも、それだけに余計に街道に近づけなくなってきた。
実際、山向こうでは街道を移動してたのは、有角族のキャラバンぐらいだったけど、このあたりになると明らかに人族の行商人だって感じの人を、時たま見かけるようになったもんな。
もっとも数はいないし、ほんとに時たまだから、俺たちがしれっと混ざれるほどはいない。
……もっと数がいれば、<幻術>で目の色を変えるぐらいで、うまく紛れて街中に入ることも出来たかもしれないんだよな。
このくらいの数じゃ、まだ難しいって早見さん、言ってたし。
なので、ちょうどちょっとした森が広がってるところで森に入り、そこで集中的に魔法の練習をしようってことになったんだ。
水谷さんは、<幻術>による“光学迷彩”を、土屋さんは闇魔法を応用した“心理的透明”を、それぞれ精度高く出来るように頑張る。
その他は、自分たちで出来ることをやって、2人をフォローする、って決まった。
まず、人目につかない場所であることを確認してから、昼食を食べ、さっそく練習が始まった。
水谷さんのほうは、すでにある程度土台は出来ているので、奮闘するのは土屋さんってことになるわけで。
で、2人の近くで、なぜか火村のヤツが魔力を制御する例の練習を始めた。
……前にやったときは、すぐに飽きておざなりになったくせに。
どうやら、自分だけ新しい魔法の系統を覚えてないので、それが悔しいらしい。
確かに、水谷さんは光魔法、土屋さんは闇魔法、俺は風魔法の派生である<電撃>を覚えている。
でも、火村は火魔法のバリエーションが増えただけなんだよな。
……ほんとはあいつ、魔法じゃなくて武器をふるって盾役になるほうが向いてると思うんだけどなぁ……
でも、止めるほどのことでもないので、放っておくつもりだけど。
早見さんはというと、ちょっと昼寝するって言って、近くの木の根元で木に寄り掛かるような格好で目を閉じている。
……また、偵察に行ったのかな。
あれ絶対、本体が身体を抜け出してるんだぜ。
クリスは、近距離でないと、偵察に出ないからなあ。今だって、早見さんの左脇腹にくっついたまんまだしな。




