18.まあ、いろいろと
でも、俺も早見さんも、ふっと視線に気がついてそちらをちらりと見、そろって顔がこわばった。
……土屋さんが、妙にニコニコしながらこっちを見ていたから。
「……しまった。燃料投下したか……」
早見さんが、小声でぼそりとつぶやく。ああ。そうだった。土屋さん、腐ってたんだったぁ……
……この人も、たまにやらかすからなあ。
どうすんのさ。明らかにこれ、ネタにしてくるぞ。まあ、まさかノートを盗み読みされたとは思ってないだろうけど。
でも、もう今更なんだよな。
さっきの“肩ポンポン”を、なかったことには出来ないしな。
ただ、まだ骨を穴に入れただけ。これから穴に土をかぶせないと、埋葬にはならない。
それをみんなわかっていたので、また穴を作った3人で、土をかぶせて穴を埋め、地面が平らになるまできっちり土を入れた。
こうして平らにならしてしまうと、土がなじんだらどこに埋めたかわからなくなるな。
それでみんなで考え、近くの廃屋から廃材を持ってきて、穴だった場所の周囲に廃材を刺して、小さな柵を作った。
また誰かが訪れるかどうかわからないけど、骨を埋めたところを知らずに踏んずけないように。
最後にみんなで手を合わせて冥福を祈り、村を後にする。
……最後のお祈りって、全員向こうのお祈りの仕方で祈ってたけど、大丈夫だよね?
「心を込めることが大事なんだから、大丈夫だよ」
早見さんが、そう言って笑う。
それを聞き、みんなほっと肩の力を抜いた。
「なんか、気になってたんだよな。あれでいいのかなって。早見さんがそういうなら、安心だよな」
火村が、いかにもほっとしたという顔になる。
「そうね。霊能者にそう言ってもらえると、気が楽になるわ」
「ほんと。やっぱり、仏様の扱い、あれでいいのかなって思ったもん。でも、早見さんが大丈夫っていうなら、大丈夫なんだよね」
水谷さんも、土屋さんも、そう言って笑った。
……半神が浄化したんだ、ちゃんとあの世へ行ってると思うよ。
ところで……歩きながら、疑問に思ったことを、周囲に聞かれないように早見さんに聞いてみる。
「……ねえ。あの動く骸骨、元は肉のある死体だったんだよね? ゾンビと、どう違うの?」
「ああ。この世界のゾンビはね、感染るものなんだよ。死霊術で操られている者もゾンビとは呼ばれるけど、正確には“動く死体”なんだ。そして、それがある意味自然発生したんだよ、この村」
「自然発生!?」
何とか大声を出さずに済ませた俺。
「どうもこの世界、魔素が悪い意味で色々働いてるみたいでね、魔法がもたらされる代わりに、不死者が自然発生するらしい」
何それ……
「この村は特殊条件だけど、死体に人格を持たない霊が取り憑き、その体を動かすのが“動く死体”だ。ゾンビは自分の体の腐敗を苦痛として感知し、それを遅らせるために生きている者を襲う。でも、“動く死体”は体の腐敗を気にしない。だから、動き回っているうちに肉が腐れ落ち、動く骸骨になっていくこともある。ただ、そうなる前に霊が自然に離れて、ただの死体に戻ることも結構あると“視た”」
実際に“視た”からの、推測なわけね。
霊能者としてのこの人の実力は、もう別格というか規格外な感じがするから、まず間違いないんだろうなって感じがする。
でもまあ、ここに来たのが、俺たちでよかったんだろうな。
近隣の人たちが様子を見に来たりしてたら、巻き込まれてたかも知れないもんな。
俺が思ったことは、他の人も思ったらしく、同じようなことを土屋さんと水谷さんが、会話の中で話してるのが聞こえた。
「……いや、何人かは、すでに巻き込まれてるよ。あの動く骸骨の何体かは、悲劇があってそう日が経たないときに入り込んだ、近隣の村人みたいだったよ。まあ、もうちょっと日が経ってから巻き込まれたっぽいのもいたみたいだけど」
いきなりそんなことを言い出した早見さんに、皆がぎょっとした顔を向ける。
あ、やっぱり巻き込まれって、出てたんだ……
でも、早見さん曰く、『悲劇そのものから20年近く、巻き込まれた人たちが命を落としてああなってからだって、もう最低でも10年近く経っているはずだ』って。
そうでなきゃ、村の建物があれだけ風化してないはずだって。
でも、結構村の跡っぽい感じは残ってたよ。
ホントにそんなに経ってたの?
「……日本はね、森林再生能力が高い国なんだよ。湿度が高くて、雨が割と多い。だから、放っておくと木々が生えてきて森が再生していくんだ。特に、日本の場合廃村って大体山村だったりするから、山の木々に飲み込まれてしまって、どこに村があったのか、よくわからなくなってしまう場合が多いんだ。ここは、そうじゃないだけだよ」
はあ、そんなもんかね。
でも、確かに空気がさらっというか、からっとしてるのは間違いないな。
道と並行するように、薮伝いにしばらく進んでいると、また古ぼけた建物がひとつ、道沿いに建っているのが見えてきた。
何だあれ?
レンガかなんかで作られてる、平屋建ての建物っぽいんだけど。
近づいてみると、街道のほうに入口が開いた、シェルターみたいな建物だった。
調べてみると、かつて街道で普通に旅人が行き来してた時に使われていた、野営用の建物だってわかった。
マジで、ほぼシェルター。
建物の内部の空間は、高さと奥行きは2メートルくらいあって、幅はその倍くらい。
建物の入り口に、火を焚ける場所があって、焼けた土が少し残っていた。
雨風をしのげ、入口で火を焚いていれば、火を恐れる動物は近寄ってこない。
魔獣は、魔獣除けの香があるから、そう強力なものじゃない限り、それを一緒に焚いておけば近寄らない。
安全は保たれるな、うん。
ここはかつて、結構重要な街道だったんだろうな。でなきゃ、こんなシェルター施設、わざわざ作らないもんな。
でも、せっかくこういう場所を見つけたんだから、ここで休んでもいいんじゃないかって話になった。
このあたりの村々も、結界で閉ざされているなら、人の行き来なんてないだろうし。




