17.また無双する早見さんと罰当たりな後始末
俺たち4人が慌てて逃げようとした時、早見さんが強い口調でそれを止めた。
「だめだ!! 僕から離れてはいけない! ここは、『生者の領域ではない』と言っただろう!!」
言われた俺たち、はっと足が止まった。
そして、互いに顔を見合わせた後、早見さんの顔を見る。
早見さんは、例のごとく指を2本揃えると、空中に何かの形を描くかのように動かした。
「ここは、かつての村人の残留思念が土地に焼き付き、ある種の結界のようになっているんだ。彼らが姿を現す前なら、逃げ出せたかもしれないが、今はだめだ。逃げようとしても、元の場所に戻ってきてしまうだろう。彼ら全員を浄化して祓わない限り、脱出は無理だ」
早見さんが、きっぱりと言った。
そして、先ほどの動作は、動く骸骨が近づけないように早見さんの周囲に結界を張ったんだそうだ。
「僕から2メートル以上離れてはいけない。護り切れなくなる」
そう言われると、その場にとどまるしかない。
俺たちが早見さんの近くに固まったままなのを確認すると、早見さんは俺たちを包囲するかのように広がりながら近づく動く骸骨を見据えた。
「……安らかに、黄泉路へと旅立てるように……」
早見さんは静かにそう言うと、揃えた2本の指を、まるで突きつけるように動く骸骨に向けた。
次の瞬間、右腕を真横に構えるや否や、まるで空間を切り裂くように素早く真横に振り抜かれると同時に、早木さんの気合の声があたりに響く。
「てぃやあああああぁーーーっ!!」
それは、いつぞやのゾンビの群れに対峙した時の再現だった。
動く骸骨が、次々と骨がばらばらになって崩れ落ちていく。
ただ、迷宮と違って、地面に山になった骨が消えていくことはないんだけど。
けど、そのたった一撃で、ほとんどの動く骸骨が崩れ落ちた。残ったのは、片手で数えられる程度の数。
それでも、動く骸骨はこちらに近寄ってこようとしているんだけど……早見さんの次の一撃で完全にすべて崩れ落ちた。
直後、何となく感じてた重苦しい感じとか、嫌な感じがほとんどなくなった。
あ~祓っちゃったわけですね。
ホントにこの人、不死者に対して化け物だな。……裏に回れば、マジもんの人外ですが。
「……しかし、さすがに迷宮ではないから、崩れ落ちた骨が消えるわけじゃない。責任もって、埋葬してあげないとね……」
早見さんの言葉に、全員アッという表情になった。
そうだよ。ばらばらになった骨の山が、それこそ動く骸骨の数だけ出来ちゃってるんだ。これ、放置も出来ないよね……
「うっわぁ……。そういうことになるなら、祓わなきゃよかったんじゃねえの?」
火村が結構嫌そうにつぶやく。まあ、気持ちはわかるが。
「だから最初に『先に避難しろ』と言ったんだ。僕がそう言ったタイミングでここを離れていれば、動く骸骨には遭遇しなかったのに」
あぁ、あの時のセリフは、そういうことだったのか。でも、俺たちも残る選択しちゃったんだよな。
……考えてみれば、早見さんひとりなら、<念動>でいくらでも埋葬出来るはずなんだよな。小鬼だって、あっさり埋めちゃったんだし。
でも、この人みんながいる前で<念動>を使うつもりはないから、みんなで埋葬って話になったわけで。
俺以外誰も気づいてないけど、いわば自業自得ってことかぁ~?
「で、でも、そうしたら早見さんひとりで埋葬っていうか、この骨の山をどうにかしないといけなくなってたんでしょ? それって大変じゃない!」
土屋さんが、やっぱりちょっと嫌そうにしながらも、早見さんのことを案じる。
水谷さんもうなずいた。
「そうよ。これだけの数の仏様、ひとりで埋葬するつもりだったの?」
水谷さんの疑問の声には、早見さんは微苦笑したような顔で答えた。
「まあ、多少はツテというか、何とか出来なくもないものはある。ただ、人前でそれを使うわけにいかない制約があってね。君たちが嫌なら、先に村の外で待っていてくれていい。僕が何とかするから」
そりゃ、あの<念動>超精密制御なんてやって見せたら、あっと言う間に『足手まとい完全返上』だ。それは絶対やらんわな。
けど、結局早見さんひとりに押し付けるのは良心が咎めるってことで、みんなで埋葬を手伝うことになった。
よく見るとこの動く骸骨、ボロボロになった服の残骸を着ていたり、ほぼミイラ化した肉がまだ骨にまとわりついてたり、なんてのが結構多い。
そういうのを見ると、気持ち悪いというか、薄気味悪いというか、直接手を触れたくなくなるというか……
とにかくみんなで相談し、まず近くに大きめの穴を掘ってから、まとめて埋めてしまえってことになった。
早見さん曰く、『体を動かしていたのは、生前の人格を失った霊であり、それを祓ったのだから、残った骨は特に祟るような存在ではない』から、集団埋葬でも問題ない、とのこと。
出来るだけ骨の近くに、土魔法で大穴を掘った。これは、俺以外の3人が頑張った。
そして、穴と骨が一直線になる位置に俺が立ち、風魔法で骨を吹き飛ばして穴に落とし込む、という、ある意味罰当たりな方法を取ることになった。
……なんかやりたくな~い……
「まあ、そう言わない。それが嫌なら、骨を1本1本拾って穴に入れるかい? そのほうが嫌だろう?」
言いながら早見さんが、もう一度指を揃えて骨の山ひとつひとつに何かをぽそりと言いながら真上で指を振り、浄化していった。
浄化された骨は、不思議と白さが増したように見えた。
ただ、他の3人が何も言わないところを見ると、俺にしかそう見えていないのかもしれない。俺だって、一応霊感はあるんだしな。
何となく骨の存在感が軽くなったというか、少しは罰当たり感が減ったというか。
それを感じて、俺は精神を集中して思いっきり地を這うような位置で風を吹かせた。
風に飛ばされた骨が、転がりながら穴に落ちていく。
ほどなくして、すべての骨が、穴の中に納まった。
……それでも、なんだか夢に見そうな光景だったけどなぁ……
「お疲れさま。よく頑張ったね」
早見さんがそう言って、俺の肩を優しくポンポンと叩く。その時、叩かれたところが微かに暖かかくなったような気がした。
すると、さっきまでの“嫌な気分”が薄れてくる。
……もしかして、早見さんなんかやった?




