16.真昼間からうっかりホラー展開
「あ、かもね。だったら火村さんも、早見さんと一緒にいれば、頭よくなるかもよ」
土屋さんの言葉に、火村がぶすりとした顔になる。
「オレ、そんなに頭悪くねーぞ」
……自覚ないな、お前。結構立派に脳筋だぞ。
でも、雰囲気はそんなに悪くはない。っていうか、軽口叩ける雰囲気。
もうすっかり、なじんでるんだよな。
ぎすぎすしてるようなら、一緒に旅をするのに、支障が出るからね。
それはともかく、これからどの方向へ進むか、みんなで相談。
なんせ、近くに集落らしいものはおろか、街道さえ見えないからね。早見さんも、どっちへ行くか、決めてないみたいだし。
話し合いの結果、山からまっすぐ離れる方向で進んでみることになった。
下手にずれた方向へ行ったところで、それらしいものが見つからなければ意味がない。
それよりは、素直にまっすぐ行ってみようってことになったわけ。
真後ろに山を見る形で、一応隊列を組み、出発した。
先頭が火村と土屋さん、真ん中に早見さん、後ろを俺と水谷さんという感じ。
早見さんが真ん中なのは、勘の良さをみんなが知ったから。
……実際は、勘だけじゃなく、気配を察知して最大500メートル先の異変にも気づける人だしな。
そうしてしばらく歩いていたら、遠くのほうに何かが見え、同時に地面をしっかり固めて砂利を敷いてある“道”が通っているのも見えてきた。
道はともかく、遠くに見えるものが気になるので、みんなで相談し、行ってみることになった。
なんだか、建物がいくつも建っているように見えるから、気になるんだよね。
道を横目に見ながら歩いていくと、次第にそれが、いくつもの建物が建っているけど、かなり荒れ果てていて、廃村か何かじゃないかということに気が付いた。
廃村かぁ……
廃村らしいとわかった時点で、一旦停止。
もっと近づくかどうか、話し合うことになった。
「……人、住んでなさそうなんだろ。なら、先行こうぜ」
「そうよねえ。ただ、雨風しのげるだけの建物が残っているなら、今日の野営地代わりに使ってもいいんじゃないかしらね」
「ああ、それはありかも。屋根があるだけで、だいぶ違うよね」
とはいえ、万が一誰かいたら、ということを考えて、クリスに偵察に行ってもらうことになった。
まだ、これから昼になるという時間だ。調査する時間は、充分ある。
……まあ、早見さんが何も言ってこないから、おそらく誰もいないんだろうけど、念のため。
クリスは光学迷彩を済ませると、ちょっとゆっくり目の動きで廃村に向かって進んでいく。
そして、しばらくして戻ってきた。
相変わらずの身振り手振りで、何となくわかった。
“誰もいない”
誰もいないなら、とにかく行ってみようってことになった。
それに、なんで無人になったのかも、ちょっとだけ気になるし。
それから歩いて、俺たちはその廃村に入った。
入ってから気が付いたんだけど、なんだか嫌な感じがする。これって、もしかして……
「……どうも、ここは長居しないほうがよさそうだね。廃村になったのは、かなり前みたいだし、有角族との戦争以前に廃村になっていた気配がある。ここは、野営地にはふさわしくない」
早見さんが、真顔でそう告げた。……それって、霊能者としての判断ですか?
「君も霊感があるのなら、何か感じているはずだ。ここは、生者の領域ではない」
早見さん、真顔になりすぎて、怖いんですけど……
そして、早見さんの態度で、他の3人も、廃村がヤバいと気が付いてきたらしい。
早々に、村から離れて先に進もうってことになった。
「まだ昼前だもの。いくらでも、野営地にふさわしい場所って見つかるよね」
いくらかひきつった顔で、土屋さんが無理に出したんじゃないかって妙に明るい声で、出発しようと言い出した。
「そうね。先に進みましょう」
「……でも、なんで廃村になっちまったんだろうなあ……?」
火村が、ちょっとだけ不思議そうに首をかしげる。
まあ、気になると言えば気になるんだけど、早いとこ安全圏に脱出したほうがいいと思うぞ。
すると、早見さんが真顔のままゆっくりと辺りを見回す。
「……ここは、かつて疫病が蔓延して、動けない病人を置き去りにして症状がないものが逃げ出したようだ。もちろん、今症状がないからと言って、かかっていないとは限らないから、逃げ出した連中が近隣から受け入れてもらえたとは思えないけどね。そして、村は滅んだ」
うわぁ、そういう経緯。
「そして、置き去りにされた病人は、もがき苦しみながら死んでいった。その時の悩み苦しみの念が凝ってこの地に焼き付き、死体に本人の霊が取り憑いて、死体が動き出した。長い歳月で肉は腐り落ちたが、骨となった体で人々はまだ徘徊している。今もどこかの家の中で、こちらをうかがっているね……」
それを聞き、俺を含めた全員がぞっとした顔になった。
「逃げよう。とっとと逃げよう!」
火村が、完全にビビりモードで回れ右をする。
確かに、いくら対不死者の専門家が一緒にいるからって、わざわざ相手を刺激する必要なんか、ないもんね。
ところが、早見さんは静かな口調でこう言った。
「君たちは、先に避難しているといい。僕は、自分の役目を果たすから」
はい?
それって……まさか……
皆がおそらく、俺と同じことを考えたんだろうな、誰もがそこに踏みとどまり、早見さんの顔を見た。
「……ねえ、早見さん。もしかして、不死者をどうにかしようとか、思ってる?」
土屋さんが、思いっきり疑ってますって顔で、そう聞いた。
俺も、それ思った。
確かに、霊能者としては気になるのかもしれないけど、何もわざわざ面倒ごとに首突っ込まなくても……
「……どうやら、向こうは待ってくれなかったようだね……」
早見さんが、ある方向を見た。
つられてそちらを見たら……何体もの骸骨が、歩く速さでこちらに近づいてきているのが見えた。
うわ、動く骸骨!?
でも、まだ昼前なのにぃ!?




