15.状況と情報の整理
それから峠にたどり着いたのは、昼過ぎだった。
それまで歩きまくっていたから、ちょうど少し開けていた峠のところで、少し遅めの昼食をとることにした。
どうせなら、と最後に差し入れてもらった弁当を空間収納から出し、蓋を開ける。
いつもの黒パンにハムっぽい肉切れ、オレンジ色のサニーレタスもどき、桃に似た味の果物が入っていた。
それを、いつもの要領でサンドイッチにし、土魔法で作ったかまどでお茶を沸かしてお昼にした。
変に緊張した場面があったせいか、みんなおなかがすいていたらしい。もう、無言でパクパク。
最後に果物を食べて、一息ついた。
やっぱり、この果物はおいしい。これ、なんでリーフ王国では見かけなかったのかな。
「気候が関係しているかもしれないよ。ここは、曲がりなりにも山岳地帯だからね」
早見さんの言葉に、納得。山と平地じゃ、気候違うもんな。
涼しい山の中でないと、育たないのかもね。
ちなみにクリスは、この休憩のときにダッシュで早見さんのところに戻った。
……お前、そんなに早見さんの霊力が気に入ったのかよ……
昼休憩として、小一時間そこに滞在し、髪を染め直して再び出発。
暗くなる前に麓近くまで下りてくることが出来た。
そのあとは、無理せずに少し開けたところで野宿の準備を始める。
野宿の段取りにも、すっかり慣れた。
みんなてきぱきと準備を整え、野営地完成。
ゆっくりお湯を沸かしてお茶を入れ、簡単な調理をして夕食を作り、食べる。
誰もが、昼間の出来事を思い返してるみたいだった。もちろん、俺も。
「……なあ、あの鳥人の言ってたこと、マジかな?」
火村が、ぼそっとつぶやく。
ああ、やっぱり考えるよな。
「……私は、ほんとのことだと思うわ。だって、私たちに嘘をつく必要はないじゃない」
水谷さんが答える。
「だよね。だって、わたしたちが異世界人だってわかってて、あんなこと言ったんだもんね」
土屋さんもそう言った。
俺もそう思う。
『この争いのきっかけを作ったのは連中だが、そうなるまで追い詰めたのはきゃつらだという話だった』
これが本当のことなら、絶対にこの戦いには原因がある。
それを突き止められれば、停戦に持ち込めるかもしれない。
早見さんは、そういう考えだと話した。
「何があったのか、正確に突き止める必要がある。証拠を積み重ねて、開示しなければならないと思う。そうしなければ、双方が納得出来る妥協点を見出すのは難しいだろうと思うね」
早見さん、口調がほぼ弁護士なんですけど。そりゃ、それが本職だってことは知ってるけど、ここ、法廷じゃないんで。
「ここで大事なことは、僕たちは調査においては中立でいなければならないということだ。どちらに肩入れすることもなく、事実を探り出すんだ。どう考えても、どちらも相手に対してまずいことをやらかしているように思えるから」
あ~それは確かに。
言われた3人も、なるほどとばかりにうなずく。
いざ戦争になったら、有角族のほうが能力的にずっと上だったんで、人族があっさり打ち負かされることになったわけなんだけど。
「でも、それは結果論だ。当時は、双方に引くに引けない理由があったんだろう。その後は、勢いというやつだと思う」
早見さんは、有角族が一方的に悪いとは思ってないっぽい。
人族側も、今最前線のリーフ王国はともかく、最初にぶつかった人族の国は、きっと何かやらかしてる。
ただ、相変わらず俺たちが異世界人だってことは、他の国の人たちには伏せておきたいんだって。
知らせないでおいたほうが、やりやすいこともあるだろうからって。
「手持ちのカードは、多いに越したことはないからね。交渉に使えるのなら、いろいろ手札を持っていたほうがいい」
早見さんの言葉に、水谷さんがしみじみとつぶやいた。
「ほんとにこの人、弁護士で交渉人なのね。弁護士としてはまだ若いと思うんだけど、かなり優秀な人なんじゃないかしら」
はい、俺もそう思います。
っていうか、個人事務所立ち上げてるんだよね?
つまり、それだけまとまった収入が見込めるってことなわけでしょ?
相場はわかんないけど、部屋を借りたり、光熱費払ったりしなきゃいけないわけでしょ。自宅とは別に。
それ考えると、この若さでそれをやってるんだから、やっぱり弁護士としても優秀なんだろうって思う。
そのことを言ったら、早見さんの目が心なしか泳いだ。
……あれぇ? なんか変だな。
まあいいや、後で聞いてみよう。
とにかく、ここでゆっくり休息をとって、明日には新しい国に入ることになる。
どんなところかわからないけど、有角族の国に近づいていくんだから、ますますきっちり監視されてる可能性が高いって、早見さんが指摘してた。
だからこそ、俺たちが異世界人だとは知られないほうがいいんだって。
で、交代で見張りに立って翌朝まで何事もなく過ごし、朝食を食べた後、野営した痕跡を出来る限り消して、俺たちは出発した。
もちろん、目元は<幻術>で眼の色を変え、早見さんはクリスの糸の仮面でたれ目の印象にし、雰囲気を変えている。
……クリス、あっと言う間に早見さんのところに戻ったもんな。
それから麓に降りるまで、いくらもかからなかった。
俺たちが、道なき道をかき分けながら進むことに慣れてきたせいもあるだろうけど。
山の向こうは、心なしか風が涼しかった。
そういえば、有角族はザウードラじゃなくて、チョ〇ボもどきの鳥に乗ってたっけな。
もしかして、この辺はザウードラがあまりいないとか?
「そうかもしれないね。乗騎が違うということは、文化的な理由のほかにも、気候的に合わないというのもあるかもしれない」
早見さんがそう言うと、水谷さんが俺のほうを向く。
「よく気づいたわね。早見さんと一緒にいるから、ちょっとだけ頭の良さが移ったのかしらね」
何となく、ちょっと楽しんでるような、そんな感じの発言。




