13.有翼族が現れた!
「貴様らは、人族だろう! 人族など、信用出来るかっ!」
相手の返事に、早見さんが真顔になる。
「……もしかしたら、彼らは有翼族かもしれない。100年ほど前に、人族の前から姿を消した、獣人族の亜種だ」
あの~毎度思うんだけど、早見さんは、そういう知識、どこから仕入れてくるわけ?
お城にいたころ、書庫に入り浸ってたっていうから、その時仕入れたんだろうけど……なんでそう、ピンポイントで知識を披露出来るわけ?
さすがに今の発言は、普通の音量の声だったもんで、3人が『えっ!?』とばかりにこっちを向いた。
「ちょっと早見さん! 今の話、ほんと?」
土屋さんが、問い詰めるような口調で聞いてくる。
「ああ、本当だ。何となく、情報をぼかしたような書き方になっていたんで、おそらく人族側がやらかしたせいで、有翼族は姿を消したんじゃないかって、僕は考えてる」
早見さん、真顔で答えてる。この会話だって、相手は聞いてるはずだ。だから、雰囲気は仕事モードなんだろうな。
その時だった。
「何をっ! 他人事のような顔で、ふざけるなっ!!」
どうやら、相手は気に食わなかったらしい。さらに、怒ったような声が返ってきた。
「残念ながら、我々は本当に完全に無関係なのです。我々は、最近異世界からこの世界に召喚されてきた異世界人なので」
「はぁっ!?」
相手の声が裏返った。
どうやら、意表を突かれたらしい。
そりゃ、自分たちは異世界人だなんていきなり言われても、混乱するわな。
「信じられないかもしれないが、本当のことです。髪は染め粉で染めていますが、実は黒髪なのですよ。全員がね」
それはマジ。
早見さんに目で促され、水谷さんが水魔法で全員分の手ぬぐい状の布を濡らし、それをみんなに渡す。全員それで髪を拭くと、染め粉が落ちて、本来の髪色が見えてきた。
元の髪色に戻ると、見事に全員黒い髪。
そう、この世界にはいない、黒髪……
さらには、早見さんがクリスの糸の仮面をはぎ取ったため、切れ長の黒目が姿を現す。
そして早見さんは、ふっという感じで上を見上げる。……早見さん、連中が上空にいることに気付いてるからね。
ほどなくして、数メートル先の藪ががさりと音を立てて揺れた。
早見さんが、さりげなく顔を藪のほうに向けたんで、おそらく上空にいたヤツのひとりが、地上に降りてきたんだと思う。
早見さんは、気配を追いかけられるから、動きを追跡出来たんだろうね。
でも、その動きに相手が気づいたら……なんか、ありそうな予感。
藪が音を立てて揺れて間もなく、薮の向こうから弓を手にしたままの人物が、姿を現した。
見た目は、人族とそう大差はない。その背中に、鳥のような翼が生えている以外は。
ただ、人族なら耳があるだろう辺りから、鳥の羽根そっくりのものが固まって生えている。いわゆる飾り羽根ってやつかな。まるで、羽根で出来た耳みたい。
見た目は20代半ばくらい。顔立ちは、イケメンの部類なんだけど……
早見さんの素顔を見慣れてると、『あ~イケメンだな(笑)』で流せるから、慣れってコワイ。
女の子たちも、そういう意味では騒いでないもんな。
それはともかく。
髪の色は銀髪で、肌はちょっと浅黒く、目は澄んだ緑色。エメラルドグリーンってヤツだな。羽の色は先端から胴体に近いほうへ、薄い茶色から白のグラデーションで、簡易な作りの革鎧を身に着けている。足元は、革で出来たサンダルを、ひもで足にきっちり固定している。
全体的に、細身で華奢な印象だな。
……空を飛ぶのに、軽いほうが絶対いいもんな。
「……貴様ら、その髪色は、本物か?」
先ほども聞いた声が、質問してくる。さっきから、しゃべってたのはこの人か。
「本物ですよ。何なら、触ってみてくれても、かまいません」
早見さんが一歩前に出て、相手をまっすぐに見ながらそう答える。
相手は、早見さんの様子を見て、さらに困惑したような表情になる。
「……貴様、その眼の色も、本物なのか?」
「さっき、私が仮面を剥がしたのは見たはずです。本物ですよ」
言いながら、早見さんが自分ではぎ取ったクリス謹製の白い糸で出来た仮面を相手に見せた。
それを確認し、相手はさらに困惑するというか、戸惑ったような顔になる。
そりゃそうだよな。
「……それに、先ほど貴様は、おれの動きが見えていたかのようにしていただろう。本当に見えていたのか?」
あ~やっぱり気づいたか。どう答えるんだろう、早見さん。
「私は、生まれつき勘がいいのです。見えていたわけではありませんが、何となくそこにいるのではないか、と感じていましたから」
早見さん、しれっとそう言い切った。
相手はというと、今一つ信じられないって顔してるけど。
やがて、相手は口を開いた。
「わかった。実際に触って、確認させてもらう。ただ、妙な真似をしたら……」
相手が言葉を切った途端、横手の藪がガサガサっと音を立てたかと思うと、もうひとりが姿を現した。
そいつの姿は、最初の人物とは全然違う容姿だった。
頭が、猛禽類を思わせる鳥の頭になっていて、頭にも翼にも濃い褐色の羽毛が生えている。
腕はほぼ人族だが、足は人のそれと鳥の足が混ざったような形で、うろこ状のものに覆われていた。そういう作りのせいか、サンダルさえ履いてなくて、裸足だ。
こっちは、文字通りの“鳥人”だわ。
そしてこいつも、手に弓を持ち、矢をつがえた状態のまま、こっちを見ている。
要は、こっちが変な動きをしたら、容赦なく撃つぞってことか。
俺は、勇者3人のほうを見た。
最初は急激に進んでいく事態に言葉も出ない状態だったみたいだけど、やっと精神的に持ち直したか、周囲を見回して、明らかに警戒の色が濃い表情になっている。
特に火村は、自分が喧嘩腰で怒鳴ったのがきっかけだと思ってるのか、ものすごく真剣な顔で早見さんと相手のやり取りを見つめてる。
すっごい緊張感の中、最初に姿を現した男が、すぐにでも弓を構えられる体勢のまま、早見さんに近づいていく。
まだ上空には、姿を隠したままの仲間がいるはずなんで、こっちは下手に動けない。




