01.始まり~いきなりの召喚
新しく、物語が始まりました。
とはいえ、“なろう”でよく書かれる召喚勇者の物語ではなく、私が考えた“召喚勇者もの”ですので、思いっきりずれている可能性が高いです。
そのことをあらかじめ念頭に置き、お読みください。
もし、「あ、だめだ」と思った方は、ブラウザバックでお願いします。
では、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
俺、風間翔太は今、たった1分前の自分を殴りつけたい気分だった。
なんで、やっちゃったんだ、俺。
傍らには、超絶イケメンのお兄さんが、眼が笑っていない笑顔で俺を見ている。
「だから言っただろう? 『プライバシーの侵害になるからやめろ』と」
* * * * *
それは、高校からの下校時に起こった。
俺がたまたま落とした学生証を、超絶イケメンのスーツ姿のお兄さんが、拾って手渡してくれた時だった。
俺の足元で、いきなり光の輪が広がった。光の輪の中には、よくわからない文字のような記号のようなものも浮かんでいた。
前から、何度もラノベとか読んでいたから、もしかしてこれ、召喚陣じゃないの!? と思った直後に、辺りが真っ白に光って何も見えなくなった。
そうして、光が収まって周りが見える様になったら、灰色の石壁に囲まれた教室ぐらいの大きさの部屋の真ん中に立っていた。
周囲には、どう見ても中世ヨーロッパを思わせる、いわゆるファンタジーの世界っぽい恰好の人が何人もいた。
武骨な……あれ、鎖帷子ってやつかな。そういう鎧と、金属のバケツに穴をあけた様な兜をかぶった人とか、ローブっていうのかな、ゆったりしたデザインの服を着ている人とか。
そして、真正面にいたのは、真紅のローブに身を包んだ金髪碧眼の美少女。年恰好は、俺と同じくらいの10代後半って感じ。
さらに、斜め後ろには、明らかに場違いな、俺と同じような制服を着た同じくらいの年の男女3人がいた。こいつらも、召喚されてきたんだな、と直感した。
ところで、その場にいた全員の眼が、俺とは少しずれた位置を見て目を丸くしている。
もしかして、と思ってその方を見たら、俺のすぐ隣に、スーツ姿の人が呆気にとられた表情で立っていた。例の、超絶イケメンのお兄さんだった。ああ、巻き込まれちゃったんだな。
しかも、はっきり言って、この場の誰よりも美形だった。
そりゃ目立つ。
「……あの、勇者……様ですよね?」
目の前の真紅のローブの美少女が、恐る恐るといった感じで尋ねてくる。
「あ、やっぱり俺、勇者として召喚されたんだ……」
聞けば、ここは召喚の術を執り行うための部屋で、窓もないのは、万が一術が失敗して暴走した時に、周囲に被害を広げないため地下室に設置されていたからだと知らされた。
部屋の真ん中には、焼き付けたように床に刻まれた魔法陣があり、そこに出現したということらしい。
で、事情説明のために別な場所に案内された。
その途中、俺たちは互いに自己紹介していた。その結果、何と全員が少しずつ世界線の違う“現代日本”から召喚されたとわかった。そして、イケメンのお兄さんが完全な巻き込まれだということも。
俺以外のちょっとガタイの良い男子が『火村吉輝』、女子2人がショートヘアの『水谷瑞穂』とツインテールの『土屋藍』。で、俺が『風間翔太』。……なんだかいろいろ揃っているような……
そして、巻き込まれたイケメンお兄さんが『早見晃』。で、既婚者で1歳の娘がいるそうな。
見せてもらったスマホのホーム画面が、家族の写真になっていた。
1歳くらいのかわいい女の子を膝の上に乗せて微笑んでいる、優しそうな女の人が映っていた。
写真を見る早見さんの顔は、優しく微笑んでいた。あ~家族が大切なんだな。
早見さんが既婚者だと知った途端、女の子2人が心なしか残念そうな顔をしていたのは、絶対気のせいじゃない。
石造りの廊下を通り、案内された部屋はちょっとした広間で、大勢の少しきらびやかな揃いの服を着た衛兵らしい人たちずらりと並び、まるで通路のように絨毯が敷かれていた。ちょうど赤っぽい色をしていたので、文字通りの“レッドカーペット”だ。
そして、この国の王妃様だという蜂蜜色の髪に緑がかった目の女性と、側妃だという金褐色の髪に鳶色の目の女性、王子だという俺たちより年下っぽい金髪翠眼の少年が、一段高い場所で俺たちを待っていた。
そこに、俺たちと一緒にここにやってきた真紅のローブの美少女が加わる。なんと彼女、王女様だった。
皆椅子に座ってはいるが、玉座とわかる椅子には、誰も座っていない。
まず、互いに名乗り合う。
王妃様がエルザ・リシェラ・マーロンド・リーフェルテイン。
側妃様がマーシャ・ロランド・リーフェルテイン。
王女様がアストリッド・シェリナ・ヴァルド・リーフェルテイン。
王子様がウォルフガング・レオナルド・ヴァルド・リーフェルテイン。
そしてこの国の名は『リーフ王国』。
そうして語られた事情。それは、今、人族は、魔族の襲撃を受け、窮地に立っている。どうか、勇者として人族を守り、魔族を打ち倒し、魔王を討ち果たしてほしい、というある意味お約束の話だった。
王様は、魔族との戦いで気を張り詰め過ぎて倒れ、今は自室をほとんど出られない状態が続いているそうで、王妃様と側妃様、宰相だという麦わら色の髪に灰色の目の中年の男性で、何とか国を回しているのだという。
誰も、どこか疲れたような顔をしていて、王妃や側妃、王子はそれなりに華やかなドレスや、いかにも王族の男子って恰好なんだけど、王族にしては装飾品も少なく感じる。最低限の身だしなみは整えているが、全体的にくたびれている、という印象なんだ。
案内された部屋も、きちんと掃除こそされているものの、どこか暗い印象がある。
これ、マジで結構ヤバい状態なんじゃないか?
王女様も含めた王族全員で、『どうか、力を貸してほしい。元の世界に帰る方法は、何とか探し出すので』と頭を下げられ、周囲の人たちが慌てていた。
何でも、普通王族が頭を下げることなどありえないのだそうだ。俺たちは、特別ってことらしい。
それはともかく、こういうシチュエーションなら、やっぱり返事はイエス一択でしょ。
他の勇者たちも、当然うなずいた。
そういうわけで、俺たちはどういう力を持っているのか、【鑑定】を受けることになった。本当は、俺たち自身【鑑定】の力を持っているらしいのだけど、それだとこの国の人たちがわからないから、ってことらしい。
【鑑定】の魔力が込められた鏡に姿を映すと、鏡に能力が映し出されるというものだった。
で、それぞれの名前が暗示してたかのように、火村は火の精霊神の加護を受けていて、水谷さんは水の精霊神の加護を、土屋さんは土の精霊神の加護を、俺は風の精霊神の加護を受けているとわかった。
考えてみれば、異世界の言葉がちゃんと通じることや、文字が普通に読めることも、かなりのチートなんだが、魔法の能力なんかもますますチートっぽい
そこまではよかったんだ。いかにも勇者って感じだし。
試しにお約束の『ステータス』と心の中で叫んでみたら、本当にゲームみたいな能力値が書かれた透明なパネルのようなものがポンと目の前に現れたのだ。
「風間 翔太」
異世界の勇者(1Lv)
――――――――^
STR(筋力) 156
DEX(敏捷) 166
INT(知力) 80
VIT(体力) 145
MAG(魔力) 150
PER(知覚) 170
――――――――
HP 190
MP 200
――――――――
<風の精霊神の加護>
<神聖魔法>
これが、今現在の俺のステータスだ。他の人の能力値を聞いたら、そう大きくは変わらないらしい。
ちなみに、一般成人の能力値は大体50前後なんだそうだ。
それで、問題は俺に巻き込まれた早見さんだった。
着ていたスーツの襟につけられていたのは、いわゆる弁護士バッジってやつ。肩から斜め掛けにショルダーバッグをかけていたので、仕事中だったんだろうな、ってすぐにわかる状態。
試しに早見さんも【鑑定】してもらったんだけど、一部の能力値を除いて一般人より少し上、って程度で、特に魔力が低いため、魔法を使う力もなく―魔法を使うには、最低でも魔力40は必要なんだそうだが、早見さんは25だった―、本人のぶっちゃけ話で隻眼隻腕だとわかった。
これは、どう考えても俺たちの足手まといにしかならないな。と、この時は思ってしまったんだ。
この時点でもう夕方だということで、取りあえず、それぞれの部屋に案内されて、詳しい話はまた明日、ということになり、侍女さんに案内してもらったんだけど……
そこで、申し訳なさそうにこう言われた。
「……大変申し訳ありませんが……実は、勇者様の人数は4人ということで、きちんとお客様を迎えられるようにしてある部屋の数が、4つしかございません。どなたか、相部屋ということになってしまうのですが……」
その途端、他の勇者3人の目が、俺に集中した。
「なあ風間、お前がその人巻き込んで来ちまったんだよな? だったら、お前が責任取って、その人の面倒を見るべきじゃね?」
「そうよね。どちらにしろ、成人男性が女子高生と同室には、なれるわけないんだし」
「そうそう。確かに見た目は素敵だし、ちょっと中性的な雰囲気の人だけど、子供がいるってことは、ちゃんと男性ってことでしょ。女の子と一緒は、あり得ないわよねえ」
順番に、火村、水谷さん、土屋さんのセリフ。
うん、言いたいことは充分わかる。俺が第三者の立場だったら、やっぱり同じ選択をしたと思うし。
結局、俺と早見さんは同部屋になった。部屋の広さは、いわゆるワンルームマンションぐらいだが、バス・トイレは別。場所は一応聞いてはいる。
ベッドだけは、大急ぎで埃を払ったものらしいヤツが、運び込まれてきた。
食事は、後程運ばれてくるという。
ちょっと狭っ苦しい感じだが、元の世界の自分の部屋を考えたら、大差はないと割り切った。
そこで一息ついて、俺は早見さんと話をしたんだ。巻き込まれて、大変でしたねって。
すると早見さんは、何だか妙に落ち着いていた。そして、言ったんだ。
「僕は僕なりのやり方で、この世界がどうなっているのか見極めるつもりだ。だから、君たちも自分の目でちゃんと見たほうがいいよ」
この時俺は、後から考えればちょっと尊大になってた。どうせ足手まといなんだし、と侮っていたんだ。
で、余計なことをやった。
早見さんを、【鑑定】したんだ。一応、こっちの世界の人が、【鑑定】しているのは見ていた。でも、俺は具体的な数字は見てなかったし。もちろん、早見さんは拒んだ。『勝手に見るな。プライバシーの侵害だぞ』と。
でも、どうせ誰かに守ってもらわなきゃ、この世界で生きていけないんだろうから、ちゃんと見極めてやる、って思ったんだ。それで、【鑑定】を使ったんだけど……
「早見 晃」
巻き込まれた 異世界の半神
異世界の一般人(1Lv) /(UNKNOWN Lv)
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STR(筋力) 55 / UNKNOWN
DEX(敏捷) 60 / UNKNOWN
INT(知力) 195 / UNKNOWN
VIT(体力) 50 / UNKNOWN
MAG(魔力) 25 / UNKNOWN
PER(知覚) 205 / UNKNOWN
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HP 160 / UNKNOWN
MP 85 / UNKNOWN
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<霊能力> / <念動>
/ <存在の根源を喰らう力>
/ <神術>
…なんだ、これ……。半神って何……!?
その時、俺の直感が告げた。この人は、足手まといなんかじゃない。
大体<存在の根源を喰らう力>って何!?
ヤバすぎでしょ、このワード! どう見たって、“魔王”か何かが持ってそうな力じゃん!
「だから言っただろう? 『プライバシーの侵害になるからやめろ』と」
ショックで硬直した俺に、口元だけ笑みの形に歪めた早見さんが、俺のほうをじっと見ている。正直、冷や汗が止まらないんだけど……
俺、いきなり地雷踏んだかも……
新しい話が始まりました。
次は人物紹介で、今日中にアップします。
その次は、前作と同じく毎週木曜日に更新します。
頑張って書き続けるつもりですが、更新されなかったら「詰まったんだな」と温かく見守ってくださるとありがたいです。