恋人つなぎ
次の日、教室が賑やかだった。
隣のクラスから来ている三年生の加奈ちゃんが話題の中心になっていた。
二年生に仲の良い子がいるのでよくこちらの教室に来ている。
ちなみに、小学校は一・二年合同で一クラス六人、隣のクラスは三・四年生五人、五・六年生七人という感じの小さな学校だ。
中学校は隣の建物で一学年一クラスだ。
加奈ちゃんがキラキラとして年下組に自慢げに話している。
「中学のお姉ちゃんから聞いたの。これが( 恋人つなぎ )なんだって!」と言いながら、両手を自分の胸の前で右手の指と左手の指を絡ませ、みんなに見せていた。
女の子はキラキラとした目をして聞いていた。
「いいなぁ」ぽつりと私も呟いた。
周りの子も加奈ちゃんの話題に興味津々だった。
帰り道、私は陽くんに「温泉に行きたい」と言った。
「どこか具合悪い?」心配そうな顔だ。
「そうじゃないけど……だめ?」ちょっと恥ずかしい。
「いいよ……。目を閉じて」手を繋ぐと目を閉じた。
いつものように気がつくと深い霧の中に御神木があり、御神木の下の洞の中に入る。
洞穴を歩いて行く時、私は手をずらしながら、恋人つなぎをした。
陽くんは初め驚いたような顔をしたが、耳を真っ赤にしながら、しっかりと手を握ってくれた。
「もう恋人だよ」温泉に浸かりながら言うと、無口な陽くんは黙ってこっくりと肯いた。
二人だけの秘密はそれからも数回続いた。
私はこの秘密の温泉を〈神様の湯〉と呼んだ。
この温泉に入るようになってから、走っても発作を起こすことが無くなった。
熱を出すこともほとんど無くなった。
私は楽しくて仕方が無かった。
だから、入学式から三ヵ月ぶりに来た両親に、この温泉のことを何気なく話してしまった。
秘密だったのに……。
東京に戻って、何気なく『秘密の温泉』のことを父が弟の明叔父さんに話した事など私は知りもしなかった。
この温泉の話に一番興味を示したのは、明叔父さんだった。