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龍維伝  作者: 啝賀絡太
第二章
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第二節

「探し物はなんですか?」


「うーん、見つけにくい物だね」


 そんな冗談を言いながら、女性はこちらを見向きもせず、川の中で手を動かしている。最中、魚に触れ小さく悲鳴をあげながら。


「ここら辺は茂みが多くて、私の目をもっても見つけられないのが難点だなぁ」


「手伝いましょうか?」


「当たり前。腕時計のようなものを見つけたら私に報告してくれ」


 少々図々しくも感じる物言いで女性は藤崎に返した。が、ここで断る理由もない。なにより、その女性の声と後ろ姿に心当たりがあった藤崎は、手伝ったら何か情報をくれるかもしれないと考えた。


 藤崎は女性がリクエストした、腕時計っぽいものというのを探す。川の方ではなく、そばに生い茂る雑草の方を見る。しかしそこは一匹の蟻がミミズ相手に懸命に戦っていただけだった。


 蟻は続々とあつまり、ミミズを覆う。その光景を見た藤崎は鳥肌が立ち、余計に草を重ねた。


 他に目ぼしい場所はなく、地面にはなさそうだと判断した。


 今度は見上げてみる。上は線路が敷かれていた。この橋は、列車が通る為に建てられた物のようで、川の両隣に建てられたのは、柱だった。


 柱の上に敷かれた線路の隙間に、小さく長細いベルトのようなものが見える。それがなんなのか目を凝らして見ようとすると、ちょうど電車が通りかかり、揺れた拍子に見ていた物が藤崎の目の前に落ちてきた。


 足元に落ちてきたそれを拾う。液晶ディスプレイが取り付けられたそれは、藤崎が一度画面をタップすると、ロックを解除するよう文章が表示された。


「結構頑丈なんだな……」


 呟いた藤崎に、女性は探し続けながら反応する。


「見つけたのかい?」


「腕時計のようなものはありませんでした」


「そうか、それは残念だ……じゃあ何を見つけたの?」


「デバイス腕時計、その物なら」


 女性は動かしていた手を止め考えたあと、それだよと叫ぶ。女性はその時、初めて藤崎と対面した。


 白いパーカーに青い模様が入ったTシャツ。少しサイズの大きいカーゴパンツを履いた彼は、どうみても子供だった。


「君は……鑑識の人間じゃないな?」


「何を今更……」


「悪いけど、部外者は帰ってくれないか」


「何を今更」


 女性の方は勘違いだったらしい。しかし、藤崎にとっては想像していた通りの人物だった。


 その人は大男が病院に強襲した際に、黒刀を持って助太刀してくれた女性だった。


「というか、何故君がここにいるんだい?八坂くんとの話はもう終わったのか?」



 女性の問いに、藤崎は首をゆっくりと傾げた。八坂は藤崎には聞きなじみのない名前だった。


「おかしいな……この前の件も含めて今日は八坂君が君の家に行くって……紗代さんに……」


 頭の中を整理しているうちに、連絡した記憶がない事に気がついたそうだ。しまったと声を出し頭を抱えている。


「あの、大丈夫ですか……?」


「だ、大丈夫……ちょっとやらかしただけだから……私だって徹夜続きだったし許してくれる……と……いいなぁ……はは」


 藤崎の問いに、女性はそう答えたが、次に漏れ出たのは苦笑いだった。


「それはそれとして、探し物を見つけてくれてありがとう。さぁ、それを私に」


 女性は腕を伸ばし腕時計型のデバイスを渡すよう促したが、藤崎はそれを渡されないようしっかりと握りしめる。


「これってこの前のデカブツの物だったりしませんか」


 藤崎の問いに、女性は黙ったままだった。


「アイツは今どこにいるんですか」


「うーん……部外者には言えないな」


「部外者じゃないでしょう、俺も、東雲も。またいつ狙われるかわからない」


「それはもう大丈夫だろう。君も知っての通り、小判塚医院には警備を配備している」


 少し声が感情的になった藤崎を宥めるように女性は言った。彼女の言う通り、藤崎が入院していた小判塚医院には、複数人の警備が配備されていた。


 医院長が依頼したと藤崎は聞いていたが、おそらく依頼先は彼女達だったのだろうか。


 だが、警備をしてもらっているからといって、藤崎は安心出来ていなかった。現に、例の大男はまだ捕まっていないのではないだろうか。


「俺にも、知る権利はあると思います。自衛の力だって……」


 藤崎がそう言うと、一瞬女性の目が鋭くなった気がした。


「自衛というのは、一人で勝手に暴走した乱暴な行いのことを指しているかい?」


「乱暴って……でも、俺は現に刀を手にして……!」


「あれは君がたまたま近くにあった鋭利なものを使って抵抗しただけさ。そうじゃなかったら、君はとんでもない力を持ってる事になる」


 女性の言葉、そしてそれを届けた声色に藤崎は息を飲んだ。だがもし彼女の言葉が本当にそれ相応の意味を持つならば、自分のあの体験を、朧気な意識の中で生み出した妄想としておくのもまた奇妙だった。


「二回目だったんです……刀を出したのは」


「なんだって?」


「確かに覚えてます。病院に来た時ともう一度、東雲と初めて会った時も……これが妄想だというならば、それこそ病院にかからなきゃいけない」


 藤崎は女性を真っ直ぐに見つめて問う。


「貴方なら知っているんでしょう。なら、教えてください。俺が一体どうなってしまったのか」


 尋ねられた女性は目を瞑り、大きく息を吐いた。


「そこまで自覚があるならば、隠す事は出来まいな……」


 女性はそう呟くと、川から上がり、藤崎に手招きをする。


「良いお店を知っているんだ。それを探してくれたお礼も兼ねて、そこで話をしよう」

 

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