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龍維伝  作者: 啝賀絡太
第四章
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第四節

 藤崎達が小判塚医院から離れてから一時間以内に青星と八坂が訪れた。


 八坂は受付に近づき、来院の経緯を話す。一方で青星はまっすぐに通り過ぎ、手術へ向かった。手術室前で座っていた不良達が、青星を見るや一斉に立ち上がった。


「怪異人種犯罪対策機関の青星です。君達が藤崎君の言っていた、京島与伴さんの知り合い?」


 一番手前にいた不良が唇をかみながらぎこちなく頷いた。


「少し聞きたい事もあるんだけど、それより仲間さんは?」


「一命はとりとめたようで、今は上の病室で安静にしている……」


「そうか、それはなによりだ」


 小さく答えた不良に青星はそう答えた。直後、八坂が急ぎ足で近づいてきて青星に声をかける。


「班長、事情徴収として二階の多目的室使っていいそうです。鍵を開けに行ってもらったんで、いつでも」


 報告した八坂に青星は礼を言い、再び不良達に声をかけた。


「詳しい事は上で聞いてもいいかな。なるべく時間をかけるつもりはないから」


 青星の言葉に不良達は静かに頷いた。


 多目的室に移動し、机といすを並べ、不良達から改めて事情を確認した。


「寺島のアニキが急に強くなったのが、二週間ほど前だった……」


 全員が椅子に座った後、不良の一人が打ち明けた。他の者も続けて告白する。


「最初はなんかキメたのかと思ったんだけど、アニキはそんな事してねぇって否定してて。訳を聞いたら、気がついたら身体が強くなっていたって」


 一般人が怪異人種となるトリガーが何なのかは、細かく判明していない。


 本人の意志によって覚醒するのではないかという説が浮かび上がっていたが、未だ論理的な仕組みが判明していない状況だった。


 その状況下で青星が想定出来たのは、藤崎と同様に寺島も窮地に立たされ覚醒した説だった。


 青星が思案している一方で、八坂が質問を投げた。


「今日まで入院していた少女を誘拐する事件を龏信会から請け負ったらしいが……計画はいつから?」


 八坂がその質問を投げると、不良達は顔を見合わせていた。


「六日前にこの病院に来ていただろう。私はお前達の顔を覚えているぞ」


 青星は首を傾げ当惑の素振りを見せる男達に冷たく告げた。彼らは弱々しく首を横に振って弁明する。


「い、いや。本当にわからないんだ、六日前の事は……アニキが顔を真っ赤にしてついて来いって言ってきたもんだから」


「それよりも、儲かる話だって言ってた事が先じゃないか?ほら、先週の頭にアニキが話していた……」


「あぁ、急に羽振り良く奢ってくれたから、何事かって思ったんだわ」


 仲間内で記憶を合わせるように会話を重ねる。会話内容を手繰り合わせる。


 寺島が依頼を受けたのは、彼が怪異人種に覚醒した四日後であり、未遂となった東雲誘拐事件の二日前だった。


 彼は龏信会と名乗る団体から羽振りの良い仕事の依頼が来たと言っていたようだが、詳細までは仲間達には教えてくれなかったらしい。


「最初は、アニキだけが行く約束だったらしいんだ。だから俺達は誰も行かなかった。そしたら」


「奴はお縄にかかった、と」


「さっきいた奴が仕事の邪魔をしたんだろ?」


「寺島がやっていたのは仕事ではなくて犯罪だけどね」


 悪態をついた一人に青星は刺すように告げた。


「それは君達も同じだ。一度お縄についた後、君達は再びこの病院に来た」


「誘拐するなんて聞いてなかったんだよ!ただ、戻ってきたアニキが凄い怒ってて、俺を騙しやがったって怒ってて、ブチギレながら俺達についてくるよう言ったんだよ!」


 弁明する不良の言葉を聞いて、青星は眉をひそめた。


「そうすると、君達は状況もわからず東雲君の誘拐の手助けをしていたのか?」


「それは……まさか人攫いに手を貸していたなんて……」


「班長、何もそこまで言わなくても……」


「ごめん。責めてるつもりで聞いたわけじゃないんだ。ただ……」


 青星は一言そう言ったあと、口元から下を右手で覆うように重ね、再び考えを巡らせていた。


 思い出すのは、二回目の襲撃を逃したあの日。藤崎が再び刀を具現化し寺島を追い払った後、青星は車のナンバーを八坂達に伝えてから自分も後を追った。結局逃げられてしまったのだが、車種と車のナンバープレートから。


 その後、井之頭公園で追い詰めたのだが、あと一歩で寺島に逃げられた。その際に青星は、誰かに邪魔をされた気がしていた。それが同じグループの仲間だったのだと自己完結していたが、その予想は違ったようだ。

 

 ともすれば、あの時寺島の逃走を手助けしていた者は龏信会くらいだろう。だがそうするとその後の出来事に疑問が残る。


「この病院で寺島がいなくなってからは?一緒に逃げていただろう」


 青星がそう尋ねると全員が俯いてしまった。


「それは……逃げた後、知らない奴らに連れて行かれて……」


「そいつらが龏信会って言っていたのは覚えているんだ。だから、その後にアニキが殺されたって聞いた時、あいつらがやったんだなってわかったんだ。赤の魔女についての噂は聞いていたしさ」


「赤の魔女ねぇ……」


 八坂がそうぼやきながら青星の事を見た。


 青星は寺島の遺体を確認しているが、それを目の前の彼らに話すつもりはなかった。寺島の話から逸らす為に、京島について尋ねる。


「それで、京島は赤の魔女が犯人だと特定して……その日、彼は何をしていた?」


「井之頭公園で解散してからは特に知らねぇ……けど、解散前に龏信会が多摩川沿いに出没しているって情報を聞いてたから、それを共有したんだ」


「多摩川って言っても、あんな東京を横断しているような長い川からよく龏信会を探そうとしたな」


 青星は呟きながらため息をついた。八坂も何度か頷き、経緯の確認を続けた。


「それで、見事龏信会の信徒を二人殺害している……と。その後お前達のアジトに帰ってきたが、今朝方赤の魔女に拉致された」


「あぁ……アジトに千住以外は特に見当たらなかったし、車がどこかへ行くのを見かけたから、それに乗せられてるんじゃないかと思う」


「車のナンバーは?」


「ナンバーはわからねぇ……とにかくアジトが燃やされていた事に意識がいっちまって」


「車種や特徴は?」


「グレーの軽だった気がするが……特にステッカーとかもなかったし」


「そんなもの沢山あるぞ」


 青星は頭を掻きながら嘆いた。


「ひとまず、この子らのアジト周辺からいろいろ聞くしかないっすかねぇ」


 八坂がそう呟くと、不良の一人がおそるおそる尋ねた。


「な、なぁ……その、京島は本当に人を殺害したのか?」


「……少なくとも昨日と一昨日で遺体を見つけたし、彼は容疑を認めていたよ」


「そう……なのか」


 八坂にそう返され、不良達は肩を落としていた。どうかしたのかと青星が尋ねても、曖昧な返事しかしない。


「信じられないのか。彼が殺害をすることが」


「そ、そりゃそうさ。俺達はそりゃ殴り合う事があっても、人殺しまではしていなかったんだから。まさかそんな──」


「どうだか。殴り合いも殺しも変わらないと思うけど」


 不良の言葉を青星が静止する。


「少女を誘拐する事に加担していた、君達は知らなかったと言っていたが、それでも君達は藤崎君に対し東雲君を人質にしたよな?私に対しても」


 青星の言葉に不良達は黙ってしまった。八坂は青星に落ち着いてもらおうとアイコンタクトを送ったつもりだが、彼女は気にせず話を続ける。


「結局のところ、自分達の為に他人を傷つける事を厭わない連中なんだろう。それは反省すべきだ。ゆっくりとな」


 青星が告げたと同時に、別の男が入ってきて、全員に対し聞こえるように挨拶をした。


「失礼します、二班の雪下です!」


「ああ、ちょうど良かった。この子達を署までよろしく」


「わかりました」


 雪下は優しくそう答えた。


 青星は首をかしげながら腕を組んで雪下に尋ねた。


「なぁ、見張りは二人体制だったと聞くが、もう一人は?」


「内藤ならつい先ほど、護衛対象を送り届ける為に出たと思いますが」


「彼女が?いや、しかし……」


 青星が何かを理由に否定しようとした。その途中で、彼女の言葉は途切れ、一時停止したかのように立ち止まる。直後、青星は目を一瞬開き、部屋から飛び出してしまった。


 八坂と雪下が彼女の名を呼んでも、気にせずに。

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