~異世界の新たな領地で、水田開発に取り組みます➁~
◇
「この辺りです。お気を付け下さい。」
城の二人の衛兵が、魔物が出没したという辺りの森を案内してくれた。
僕とヴォルフ、リリィが小銃を準備してきた。ヴィーも一緒に来たがったが留守番をさせている。
「あ、いました!あそこにいます!」
衛兵が指さす先に、大木の周りをウロウロする大きな狼・黒牙狼がいた。
そして子供の泣き声が聞こえた気がして、辺りを見回してみると、その大木の上で枝にしがみ付いて泣いている子供が二人いる。
5~6歳くらいの女の子だ。よく木に登れたものだ。
「早く助けないと、黒牙狼に襲われる以前に、落ちたら大変です。」
リリィが心配の声を上げた。
「黒牙狼を倒すための銃の音に驚いて、落ちてしまう恐れもありますね‥‥。」
そう言ったヴォルフが少し考えて、
「すみませんが、黒牙狼の気を引いてもらえませんか? 俺が隙を見て、木に登って子供たちの安全を確保します。その上で、小銃で黒牙狼を仕留めましょう。」
「そうだね。その方がいいね。」
僕達のそんな話をきいて、衛兵が顔を見合わせた。
「なんで、そんな危険なマネをしてまで、見ず知らずの子供を‥‥」
「だって、子供たちが木から落ちたら大変だろう? ヴォルフ、頼むな。」
「はい。」
ヴォルフは、大木を挟んで黒牙狼の反対側に回り込むために、茂みに入って行った。
「よし、僕らも始めるか。君達は、少し離れていてくれるかな。」
「は、はい。」
二人の衛士は、ありがたいとばかりに、離れていった。
ヴォルフが黒牙狼の反対側から、大木に近付いて行くのを確認してから、
「おい、オオカミ野郎!」と、黒牙狼に向かって僕が叫んだ。
グルルル‥
僕の声に気が付いた黒牙狼が、こちらを振り返って近づいて来る。
その隙にヴォルフが、素早く木に登っていく。
そして子供たちの側まで行って「もう安心だよ」と、優しく声をかけると子供達がヴォルフにしがみついた。
それを確認して、笑顔でうなずいたリリィと僕が、小銃を構えた。
ドギュ、ドギュ、ドギュ、
黒牙狼を仕留めてから、ヴォルフが二人を抱いて木から降りて来た。
よほど怖かったのであろう。子供達はヴォルフに強くしがみ付いていたが、リリィが笑顔で「おいで」と手をかざすと、女の子の一人が安心したようにリリィに手を伸ばした。
ヴォルフとリリィが、それぞれ子供たちを抱いて帰ることにした。
◇
帰りの道中で、いつの間にか女の子は2人とも眠ってしまっていた。
「私も、抱っこするです。」
城に戻るとヴォルフから女の子をヴィーが受け取り、リリィと2人で、ソファーで抱いた。
そしてヴィーが子守歌のような歌を聞かせている。
ヴィーの澄んだ歌声はとても耳に心地良く、不思議なメロディーの歌を聞いていると、なんだかとても優しく、穏やかな気分になる。
子供のために毛布を持ってきてくれたメイドが、その歌声に聞きほれて、毛布を手渡すのを忘れて、しばらく聞き入ってしまったほどだ。
「黒牙狼を倒したことで、余計に怖がられてしまうでしょうか?」
2人の寝顔を見ながら、ヴォルフがそんなことを言った時だった。
「皆さま、助けていただいた子供の親が、お礼を申し上げたいと来ております。」
執事のカーンに声をかけられた。
「ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらいいか‥‥」
僕達に深々と頭を下げる父親の隣で、
「領主代行様は、「悪魔の様に恐ろしい」と聞いていたんですが、皆さんとってもお優しいそうですね。‥‥あっ、す、すみません! つい‥」
ちょっとのんびりした感じの奥さんが、本音を言ってから慌てて口を押えて慌てている。
「慌てないで大丈夫ですよ。悪魔のような力が使えるけど、お優しいのです。私達の主は。」
リリィが、微笑んだ。
「私以外は、みんな強いのです。でもみんな優しいのです。」
ヴィーの言葉に、
「ちょっとヴィー。ユウ様やヴォルフと一緒にしないでよ。」リリィが慌てたが、
「一緒にした方が、違和感ないよな。」
僕とヴォルフが、うなずいて同意している。
どうやら、森に同行してくれた二人の衛兵が、
「領主代行様達が、身をていして魔物から子供達を助けてくれた。」と触れ回っているらしい。
チョット照れるけど、僕らの恐ろしげなイメージの改善には良い事件になった。