~異世界でいろいろありましたが、結婚しました。➁~
◇
「おい、ミク! みっともないから止めろよ。」
「うるさいやい! リア充達に、私の気持ちが分かってたまるかーっ!」
神聖な大聖堂での式を終えた僕達は、教会の庭に会場を移して「ブーケトス」の準備をしていたのだが、花嫁の前に集まった人だかりの一番前で、ミクが柄の長い網を構えている。まるで「グルルル」と唸り声をあげて獲物を狙うケモノのように‥‥。
「じゃあ、投げますよーっ。」
僕の掛け声で、背中を向けた二人の花嫁が、同時に花束を高く放った。
わーっ!
その瞬間、集まっていた人達に後ろから押されて、ミクは前につんのめってしまい、網は空振りして花束は誰かの手に握られてしまった。
「ああっ‥‥。」
花束を取れずに唇を尖らせたミクが、下を向いて「ちぇっ」と、小さく呟いた時だった。
「ミクさん!」
声を掛けられてミクが振り向くと、花束を手にしたゾラが立っていた。ブーケトスはこの国の習慣に無かったので、男女問わず参加可としたらしい。
(「男も参加して良し」なんてするから取られちゃうのよ。でもゾラ君てば、カッコいいなぁ‥‥。)
そんなことを考えてゾラをボーっと見ていたミクの前に、ゾラがひざまずいて花束を差し出した。
「???」
状況を理解できずにいるミクに、ゾラが大きな声で、
「ミクさん! あなたの事が好きです。あなたの誰隔てなく注がれるやさしさと明るさが大好きです。結婚を前提にして、‥‥俺と付き合ってください!」
驚いた僕が、ミクに駆け寄って肩に手をかけて、
「おい、ミク。返事は? 返事をしろよ!」
しかしミクは、硬直してしまっている。
少しの間を置いて、
「ビャ‥‥」
硬直したミクから変な声が聞こえて来た、と思った瞬間、
ビャーン! ビャーン!
ミクは、滝の様に涙を流して大声で泣き始めた。
「えっ‥ええっ?」
これにはゾラも驚くばかりだった。
ビャーン! ビャーン!
「ミク、驚いたのは分かったから返事をしろよ返事。 返事!」
ビャ‥‥ビャーン! ビャーン!
ミクはしばらくの間、大声で泣いてから、コク、コク と小さく頷いていた。
「ゾラ君、OKみたいだよ。」
ヒック、ヒック、と鼻を鳴らしながら泣き止み始めたミクを僕がなだめていると、ヴィーとリリィ、そしてウルド領の仲間達が、笑顔でミクの元に駆け寄った。