~異世界で貴族になったので、悪い奴に落とし前を付けます➈~
◇
控室に運ばれたバルガスを僕とロメルが訪ねると、仰向けになって止血をしながら、うんうんと唸っていた。
「なんだ。俺を笑い者にしに来たのか?」
バルガスは、部屋を訪ねた僕に気付くと、横を向いている。
「そんなことしないさ。ポーション(現世の薬)を持って来たんだ。」
「な、なんと、ポーション(魔法薬)だと。」
驚くバルガスに、僕が穏やかに声を掛けた。
「僕が使うポーションを飲めば、痛みが和らぎ、破傷風などの病気が防げるし、傷も驚く程早く治るんだよ。」
丸薬を見せて僕が微笑むと、バルガスは観念したように手を伸ばした。
「お待たせしましたバルガス殿。道具を持って来ましたぞ。」
医師が大きなカバンを抱えて控え室にやって来た。
先ほど、バルガスが負傷したと聞いて治療にやってきた医師が、傷を見るなり「これはヒドイ!」と言って道具を取りに戻っていたのだ。
「おや、出血が収まっていますな。痛みも先程より、治まっているようですが?」
首を傾げる医師に、
「それはな‥‥」
語り始めたバルガスに、僕が口の前に人差し指を立てて、「しーっ」と促すと、
「お、俺は、‥‥怪我の直りが早い体質なんだ。」
「それはそれは‥‥さすがはバルガス殿、と言ったところですかな。」
感心している医師と微笑むユウの顔を見ながら、バルガスは何か思いついたように大きくうなずいていた。
応急処置を済ませた医師が帰ると、
「ヤマダユウ殿、聞いてくれ。いや、‥これはロメル殿下に聞いて頂いた方が良いかな。」
バルガスが、従者の手を借りて体を起こして、居ずまいを正している。
「俺は、剣豪五指の名を返上しようと思うんだ。」
バルガスの顔を見ると、手合わせの時とは打って変わって、とても穏やかな表情をしていた。
◇
「む、無理です! お断りします。」
ヴォルフが首を振っている。
王都公爵邸に戻った僕らは、バルガスからの言葉「剣豪五指を返上し、代わりにヴォルフを推薦したい。」を皆に伝えたのだ。
「ふむ、師匠のバートがお墨付きを出せば、私は賛成なんだけどな。」とロメル。
「俺も賛成だな。」とドルク。
「リーファ姫も喜ぶぜ。」とバルク。
最後にバートが、
「ヴォルフ、これからも稽古を続けなさい。君は、これからもっと強くなります。私はそれをもって、賛成とします。」
「ヴォルフ、諦めろ。剣豪五指の全員の推薦だ。」
僕が促すと、全員の顔を見回したヴォルフは、
「皆さんの顔に泥を塗らないように、これからも励みます。」
深々と頭を下げた。
「無礼な申し出だったが、受けて良かったな。最後に良い「おまけ」がついた。」
アヴェーラ公爵も上機嫌だった。
◇ ◇
「まあ! ヴォルフさんが、剣豪五指になられたのですか?」
公爵家に戻った僕達から話を聞いて、リーファ姫が目を丸くしている。
「私との鍛錬も、効果があったのではないですか?」
「はい。二刀流の鍛錬によって、ヴォルフの剣技に厚みが加わったのは間違いありませんし、最後の決め技は、まさにリーファ様の太刀筋でした。」
バートの言葉に満面の笑みを浮かべるリーファを見て、ドルクとバルクが顔を見合わせて微笑んでいる。
部屋の壁際で話を聞いていたリリィが、僕らに向かって何度も何度も頭を下げていた。