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~異世界で貴族になったので、悪い奴に落とし前を付けます⑧~

誤字、てにをはを少し直しました。

      ◇


 腕組をしたバートが、僕らの顔を交互に見て、小さくため息をついた。

「さて、どうしましょうかね。ヴォルフの腕試しに、ちょうどいい相手だと思ったのですが、かなり危険な闘いになりそうですね。」

「でも、俺はやってみたいです。それに師匠が侮られたままで、黙っていたくありません。」

 ヴォルフは拳を握って主張している。


「バルガスって剣豪五指なんですよね。強いことは強いんですね?」

 僕が尋ねるとバートは、

「強いです。しかし、油断をしているでしょうし、人を侮る悪い癖は相変わらずです。ここを突けば、今のヴォルフなら、いい勝負になると思います。」


   ◇


「ではこれより、聖騎士バルガス殿とヤマダユウ男爵・ヴォルフ騎士爵の手合わせを行います。立会人として、俺、フリード子爵家のドルクと‥‥」

「‥王宮警備隊副隊長の、ボルケスが立ち会わせていただきます。」

 普通、立会人は、中立的な立場の者が務めるが、今回は双方から一人ずつとした。


「おや、王太后様は、ご覧にならないのか?」

 バルガスが会場をキョロキョロと見回している。バルガスをたき付けた張本人の王太后の姿がみえない。観覧の予定だったらしく豪華な椅子が用意してあるが、

「バルガスとヤマダユウが、手合わせの前に揉めたらしい。」と聞くと、

「私は用事ができました。」

 そう言って、自室に戻ってしまったそうだ。

   

 王太后は自室のソファーでクッションを被っていた。

「バルガスの馬鹿者め‥‥。ちょっと手合わせをしてバートかロメルを打ち負かせば、私の溜飲も少しは下がるというものを‥‥。なんでヤマダユウなんかと揉めるのですか。私は巻き込まれるのはごめんです。」

 

  ◇


「では、手合わせを開始します。双方、準備よろしいか?」

 僕とヴォルフは、バルガスと王宮の中庭で向き合っている。


「僕は後ろに下がっています。まずはヴォルフとお手合わせをお願いします。」

 僕が後ろに下がると、

「なにぃ? お前達二人がかりで良いと言っただろう。まあいい、順番に片づけてやる。」

 バルガスは文句を言いながらも自信たっぷりだ。


「お互いの木刀を、改めさせていただきます。」

 ドルクが手を出すと、

「無礼者め、改めなどいらん!」

 立会人による改めを拒否した。


 バルガスの木刀は、装飾の様なのだが、鉄のびょうが打ってあるように見える。それだけでも危険なのに、何か細工がしてあるのではないか? という懸念が消えない。


 その様子を見たバートが、

「ヴォルフ、木刀に「気」を込めなさい。」と指示した。

「はい。」

 答えたヴォルフが目を閉じると、何か陽炎のようなものが、その体から沸き立つように見えた。


 そしてヴォルフが木刀を構えると、その陽炎が木刀に巻き付きながら吸収されていくように見える。そして次第に木刀が淡い光に包まれた。

「ほ、ほう‥、少しはやるようだな。」

(こいつ、剣に「威力」をまとわせられるのか、俺の方は、最近出来なくなってしまったというのに‥‥。)


「おい、バートさん。ヴォルフはいつの間に、あんなことまで出来る様になったんだい。」

 バルクが驚きの声を上げた。

「若い者の成長の速さには、驚くばかりです。」

(本当にです。「威力」をまとわせるのはムリだとしても、それに近い事が出来れば、木刀が強化出来るのでは、と思いましたが、まさか出来てしまうとは‥‥。)

 バートが顎に手を当てて、何度も頷いていた。


「しかし、それによって、バルガスが木刀に細工したであろう、不正も見破りにくくなったのではないか?」

 ロメルが腕を組んで呟く。

 


「始め!」

 ドルクの掛け声で試合が始まった。


「うおおっ!」

 バルガスが打ち込んで来るのを、

 ガシッ! 

 ヴォルフの木刀が受け止めた。

 バルガスの木刀からは、木刀ではありえない硬質な感触が伝わって来たが、ヴォルフの木刀は刀身を包み込む「威力」がそれを軽減している。


(くそっ! この一撃で、木刀ごとヤツの額を割って終わりのはずだったのに‥‥。まぁいい、ぶっ飛ばしてやる。)

「ふん!」

 距離を詰めたバルガスが四肢に力を込めた。鍔迫り合いからヴォルフをふっ飛ばそうとしたのだ。

(吹っ飛んだところに、とどめを入れてやる。)


 しかし、バルガスが力を込めた次の瞬間、

「うおっ!」

 よろけたのは自分の方だった。

(お、俺が、ブチかましで負けるなんて、ありえないぜ‥‥。)


(「ヴォルフ、鍔迫り合いは、相手を吹っ飛ばすつもりでやりなさい」)

 ヴォルフは、バートとの鍛錬で言われた事を思い出していた。


「くそうっ‥」

 バルガスが体制を立て直すと、そこにはヴォルフの振り下ろした木刀が待っていた。

「うおっ!」

 かろうじてそれをかわすと、かわした先にヴォルフがいる。

「こ、このヤロウっ‥。」


(「僕からも、剣を通じて君に伝えたいことがあるんだ。」)

(殿下のおかげで‥‥「威力」が使えるようになりました。)

 ヴォルフはロメルとの鍛錬で剣に威力を込められるようになっていたのだ。


 バルガスが、よろけて手を付いた。

 しかし、次の瞬間、

 ババッ

 バルガスが、地面から砂を掴んヴォルフの目を狙って投げつけたのだ。


「うおっ‥‥」

 それがヴォルフの目を直撃した。


「へへっ、スキありだぜ。」

 バルガスが下から繰り出した木刀が、ヴォルフの脇腹を直撃した。


 ゴキッ

「うがっ!」

 明らかに木刀ではない衝撃が、ヴォルフのあばら骨を襲った。


「あのヤロウ! そもそも只の木刀じゃねえんだろう! ドルク、反則だ! やめさせろ!」

 観覧席のバルクが叫んだ。

「うるせえ! ヴォルフが、やる気なんだ!外野は黙ってろ!」

 立会人のドルクはバルクに怒鳴りながら、

(ヴォルフ、がんばれ‥‥)密かに声援を送っていた。


 脇を押さえながら足を使って下がるヴォルフを、ここぞとばかりにバルガスが追い立てる。

「へっへっへ、とどめだぜ!」

 バルガスが振り下ろす木刀に堪えるため、ヴォルフが再び木刀に威力を込める。


 ガシッ

 ヴォルフが片手で構える木刀に、再び受け止められたことに驚きながらもバルガスは、

「これで、本当のとどめだぜ!」

 ヴォルフの負傷した脇腹に蹴りを入れようと足を振り上げた。


 ヴォルフは、バルガスの蹴りを上体を反らしてギリギリでかわすと、脇を押さえていた腕で腰に差してあった予備の木刀を掴んだ。

(「私からは、二刀流を伝授しましょう。」)

 その刹那、ヴォルフは、リーファとの鍛錬を思い出していた。


 次の瞬間、

 ひゅっ、

 という音が後から聞こえてくるほどに鋭い「居合い抜き」がバルガスの首を襲った。当然、これにも威力が込められている。


「いかん!止めろ!! ヴォルフ!」

 立会人のドルクが慌てた。いくら木刀でも、達人の威力が込められれば、首が飛ぶかもしれない。


 ピタ‥‥

 ヴォルフの木刀は、バルガスの首にふれたところで、寸止めされた。


「そこまで! 勝者、ヴォルフ!!」

 高らかとドルクが宣言した。


 ドス‥‥

 それを聞いて、バルガスが放心したように尻もちを着いた。


 ヴォルフは、バルガスにというより、試合会場に一礼して振り返り、戻ろうとした瞬間、よろけて膝を付いた。

「ヴォルフ、しっかりしろ!」

 僕は慌ててヴォルフに駆け寄った。木刀とは名ばかりのヤバい武器で、あばら骨をやられたのだ。ただでは済まないだろう。


 そこへ、

「ちくしょう、このヤロウ!」

 バルガスが、木刀を振り上げて襲いかかって来た。


 パン、パン、

(自分でも良く反応出来たと、後で感心したのだが)

 僕が、懐から取り出した拳銃で、バルガスの両足の太腿を撃ちぬいた。


「うがぁーっ!」

 バルガスは叫び声を上げて後ろに倒れ込んだ。そして目を見開いた驚きの表情で、自分の足と僕を交互に見つめて後ずさりしながら、

「い、今!?‥‥呪文の詠唱をしなかったではないか?!貴様、無詠唱で魔法を使うのか!?」

 なにか勝手に驚いているバルガスに、

「‥‥どうでもいいけど、まだやりますか? やるなら、今度は頭に撃ち込むよ。」

「ま、待ってくれ!降参だ、降参する!!」

 今度は本当に勝負が着いたようだ。 


「ヴォルフ、良くやりましたね。」

 バートがねぎらいながら、抱きかかえると、

「師匠の‥‥師匠たちのおかげです。」

 ヴォルフは、苦痛に顔を歪めながらも笑った。


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