~異世界で貴族になったので、悪い奴には落とし前を付けます⑤~
◇ ◇
「ゲランの奴めは、全て喋ったのか?」
「はい、概ね。」
ファーレの城に戻った僕らは、ゲラン伯爵を地下牢に拘留してアヴェーラ公爵に報告をした。
伯爵の自白により、王太后は、王子とロメル殿下を比べられての逆恨みから、アヴェーラ公爵を強く妬んでいたことや、あらかじめゲラン伯爵領は出兵免除とする密約があったことまで確認できた。
アヴェーラは、黙ってその報告を聞いた後で、
「そうか‥‥。私がロメルを摂政に推したのは、経験を積ませたかっただけなのだが‥‥。人の心という物は読めんものだ。」
少し考えて、ふと思い出したように、
「それからな、お前達が、出かけている間に連絡があったぞ。国境近くの魔族は散開を始めたそうだ。概ね帰るのを確認したら兵は戻らせる。そしてバートは王宮に立ち寄らせ、王宮に私からの言付けを渡すように命じた。」
「どのような言付けですか?」
ロメルが尋ねると、
「此度の件について話があるので、近いうちに王宮へ出向く。その時には、ゲランをし拘束して行く。と伝えておく様にした。」
アヴェーラは続けて、
「だからな‥‥、我々が王宮に要求する「落とし前」について考えておかねばならん。」
鼻息が荒いアヴェーラを見た僕は(少し話しておこう。)と思い、
「では、少し聞いて下さい。僕は良く「先の事」をロメル殿下と相談させてもらっています。まだ考えがまとまっていませんのでお話できませんが、ファーレン公爵領はさらに力を付けて、国内での発言力を増しておくべきだと思っています。」
それを聞いたロメルは、二日前の夜、ユウと話し合ったことを思い出していた。
◇
二人の議論が「国の将来のあり方」に及んだ時、ユウが切り出した話だ。
「近い将来、この国を二つに分けて治めませんか? 我々は民が豊かに暮らせる、民を中心に考えた政を行いたい。しかし多くの貴族は、これに賛同しないでしょうから、国を二つに分けて治めるのです。その場合、ロメル殿下に一方の王になって頂きたいです。」
一瞬の間を置いて、
「ユウ。君は何を言い出すのだ! 二人きりで話しているわけではないのだぞ。滅多なことをいうものではない。」
ロメルは、二人の姫が「国に仇なす」かのような話を聞くことで、害が及ぶことを心配したのだ。
「あら、お兄様。他人行儀なご心配をするのですね。私が同席するのは、ユウとお兄様のお話を聞くのが大好きだからです。」
ミリアがすまし顔で言った後、微笑んで見せて続けた。
「二人はいつも民の事を想って、領内を‥‥そしてこの国を、どうしていけば良いか、真剣に話していますよね。そのお話を聞くのが‥‥、その二人のお志が、私は大好きだから、この場に居るのです。リーファ、あなたもそうよね?」
ミリアの問いに、リーファが真剣な顔で大きくうなずく。
(ミリアは、いつの間にこれ程大人びた事を言う様になったのだ。お転婆で、いつまでも子供の様な妹だと思っていたのに‥‥。いや、成長したからこそ、民衆を奮起させるような呼びかけが出来たのか‥。)
ロメルは、満足げに何度もうなずいていたが、ふと我に返った。
「すまんユウ、続けてくれ。」
「調べてみたのですが、西方にアルトラーン双王国という国がありますね。国王と教会の法王がそれぞれ対等な立場で国を治めている。また、周辺の国でも双王国という王朝の歴史を持つ国があります。」
「そうだな。実際にあるな。ところで、その場合にどんな国造りになるのか、聞かせてくれないか。」
ロメルは不思議な気分で自分を客観視していた。封建社会のこの世界で、君主を裏切る様な話をしているのに、なぜかワクワクしてしょうがない。‥‥そんな自分を。
「はい。すべての民がもっと暮らしやすく、豊かに生きていける国にしたいのです。」
「うむ、我が領内をそのようにしたいという話は、二人で良くしているよな。‥しかし、それを国単位でやろうとすれば、収入が減るとして反対する貴族が多いだろう。それに‥‥以前話した時は、貴族自体の数も減らさないといけないだろうと、なったよな。」
「はい。貴族は与えられた領地を治め、領地を運営するために税金を徴収しますが、まず税の取り立てありきの領主がほとんどです。本来は、民の暮らしが成り立つような政が出来た領主が、領民の収入に応じた税金を取るのが正しいのです。」
「ふむ、そういう話だったな。」
ロメルは目を閉じてうなずいている。
「領地を治める‥‥地方行政のために少数の領主は必要ですね。しかし現在は、貴族に分け与えるために領地が分けてあるのでしょうから、細か過ぎますね。そもそも特権階級としてだけの貴族なら、不要だと思っていますからね。」
「ユウ。私は、君のその考え方に同意出来るが、多くの貴族は、ついてこないだろう。本当に国を割ってしまうぞ。いや‥‥、異なる意見によって国が割れても体裁を保つため‥‥! そうか、そのための双王国か? 」
「はい。いきなり独立国になって、周りの国全部を敵に回すのは、キツイですからね。」
「しかし、そういうことなら我々は、圧倒的な力を持って、現王宮に「国を割らずにいてやるから、協力していこう。」という立場を造り出さねばならんな?! そういう事だな、ユウ!」
ロメルが一人で突っ込んで一人で答えを出しているので、ユウが説明する必要は無かった。
「しかし、この話は母上には、まだ‥‥」
「はい、まだ少し早いと思います。まずは、ファーレン公爵領が王宮に十分対抗できる力を付けてから、機会を待ちましょう。」
ユウとロメルは二日前に、このような話をしたところだったのだ。
◇
ユウとアヴェーラのやり取りを笑顔で見ていたロメルが、
「私もユウの意見に賛成です。母上の言う「落とし前」について、領主が不在となったゲラン伯爵領を当面の間、公爵家で預かることを主張しましょう。事実上の併合です。いかがですか?」
アヴェーラが「ほう」という表情でロメルを見た。
「そしてファーレン公爵家の力が、更に強められるようにする提案もあります。」
この日、僕達は時間をかけて、この先の事について話し合いをした。