~異世界で貴族になったので、悪い奴に落とし前を付けます③~
◇
「殿下が先行して戻るように指示された、遠征部隊500人が到着しました。」
翌日、ロメルと共に出発した騎馬部隊がファーレの街に戻って来たのだ。バイクで先行したロメルを追って約1日後というのは、500人という規模を考えると凄い速さだ。
城の中庭に集結した兵達にロメルが声を掛けた。
「皆、ご苦労であった。今日一日ゆっくり休んでくれ。明日以降出兵すると考えていて欲しい。」
その言葉に、
「いいえ殿下。俺達はこのまま出陣出来ます!」
「「そうだ! そうだ!」」
国境で「ファーレン公領が危ない」ということを聞いて急いで戻って来たが、自分達の留守中を襲われたという悔しさで、兵達はいきり立っていたのだ。
「待て! 君たちの気持ちは良く分かる。そしてファーレン公領を想う気持ちに礼を言う。しかし、敵は私達の速さに気付いていない。そして敵の動きはヤマダユウの魔道具によって監視できている。
ファーレン公領に奸計を企てたヤツを、私が逃すはずが無かろう! 明日の出陣に備えて今日は休め!」
「「ハイ!!」」
「「仰せの通りに!」」
兵達が何とか納得したようなので、ここから先はウルド直売所の出番だ。
「ミク、ルー姉さん、頼んだぞ。」
「まっかせなさーい!」
ミクが笑顔で答えると、ルー姉さん達ウルド直売所のスタッフが準備を始めた。屋台を何台も並べ始めたのだ。
「「美味しいものを用意して待ってる。」って約束だったもんね。ウルド直売所の新メニューをごちそうするよ!」
「さあ、並んでおくれ! でも慌てなくていいよ。おかわりもたっぷりあるからね!」
うおーっ!
ミクとルー姉さんの声に兵士達が湧いた。
ウルド直売所が用意したのは、新メニューの「ラーメン」だった。
のど越しが良く消化もいいので、疲れた体にもいいだろう、と考えたそうだ。そして何より、鳥と根菜出汁がベースの岩塩スープは、滋養効果もあるそうだ。
「うまい! 何だこりゃ!」
「こんなうまいもん初めて食ったぜ!」
あちこちから兵士の歓声が上がっている。
ミクの方を見ると、こちらに向かって「ドヤ顔」でピースサインをしていた。
「今回も、ミクさん大活躍ですね。」
ゾラに声を掛けられた僕は、
「そうだね。何も言わなくても、「私は何を手伝ったらいい?」「こんなこと出来るよ。」なんて言ってくれるんだよね。」
ゾラは、笑顔で配膳をして回るミクを見て、微笑みながら大きく頷いていた。
◇ ◇
「ロメルと500人の騎馬兵が、ファーレに戻るため出発したというのですか?!」
時間差があるものの、王宮の王太后にも知らせが届いた。
「国境の警備を放り出して‥‥、王宮の命に背く動きですな。直ちに陣に戻るように命令を出しましょうか?」
「お、おお‥、あ、いや。待ちなさい。少し様子を見ましょう。何か理由があるのかもしれません。」
宰相に促されたが、バーシアは、命令を出すことを保留した。
(ロメルは、なぜ戻ったのでしょうか? 王宮に来た使者を始末したのに‥‥、ロメルにも同時に使者が出されていたのか? だとしたらアヴェーラは、王宮で使者が殺される恐れがあると思っていた? それは‥‥私が今回の件に関わっていたことが‥‥アヴェーラにばれている!? そんなことは‥‥)
「‥‥様、王太后様!」
「な‥なんですか?! 大声を出して。」
宰相の呼びかけに驚いた王皇太后は、額に汗をかいており顔色も良くない。
「すみません。何度かお呼びしたのですが、お気付きにならず、‥‥お顔色も優れないようですが?」
「だ、大丈夫です。 ロ、ロメルには後で私が、直接問い正しましょう。」
バーシアは慌てて取り繕うようにしている。
そこへ、執事が慌てて飛び込んできた。
「た、大変です。ファーレの街が魔物と盗賊団に襲撃されているという連絡が入りました。」
驚いた宰相が、
「何だと! それでロメル殿下はファーレに戻ったのか?! いや、待てよ‥‥そうすると一昨日の夜のファーレンからの使者は、それを知らせるためだったのでは‥‥しかし王太后様が‥‥」
「王太后様が、「直訴」と断罪して殺してしまった」とは宰相は続けられなかった。そして王太后の方をを振り返り、
「お、王太后様‥‥か、感違いは誰にでもあります。そ、そのようにお気に病まれずに‥‥。」
宰相は、バーシアが誤って使者を殺してしまった事を悔いて顔色が優れないと思っている。
(私の周りも、こんなお人好しばかりではありません。私がアヴェーラを快く思っていなかった事を知る者は多い。何とか取り繕って、私は「知らぬ・存ぜぬ」を通さねば‥‥。そして内偵から報告があった通り、ゲランの企みによってファーレン公領から全てを奪った後で、残党どもをゲランが始末すれば‥‥全て終わりです。)
そう考えてその日は休むことにしたのだ。
しかし、翌日受けた報告によって、王太后は慌てることになる。
「ファーレン公領のヤマダユウ男爵とその騎士団が中心となって、魔物と盗賊団を打ち破り、ファーレの街を守った。」と。
(ゲラン伯爵が盗賊団との関係を否定し、もちろん私の関りも全て否定すれば、知らぬ存ぜぬを通せばそれで良いのです。)
王太后は、そう考えて気を落ち着けるしかなかった。