~異世界で貴族になったので、悪い奴には落とし前を付けます➁~
ドドド‥‥
僕とロメル殿下がバイクで城の城門をくぐって玄関へ向かうと、玄関前に人影が見えた。アヴェーラ公爵を先頭に二人の姫、お側付きや使用人の皆さん達だ。
バイクを止めて僕達はそこへ向かって歩いた。
「ユウ。ご苦労であった。そして見事であった! ‥‥お、ロメルではないか、帰って来たのか。早かったな。」
「はい。ベニから報告を受けて‥一刻も早くと思ってバイクを飛ばして帰ってきました。でも、僕が帰ってこなくても大丈夫だったみたいですね。」
アヴェーラの言葉に、ロメルは少し拗ねた表情を見せている。
「そんなことないですよ‥‥ほら。」
僕が手をかざした先には、ロメルの姿を見つけて輝くような笑顔で駆けてくる二人の姫の姿があった。
「お兄様―っ!」「ロメル様―っ!」
ミリアとリーファ、二人の姫はロメルの胸に飛び込むと、
「お帰りな‥さ‥‥うう‥」
「お兄さ‥‥う、うわーん!」
喋り出そうと口を開いた途端に泣き出したのだ。
「ど、どうしたというのだ、二人とも‥‥」
「それはな‥‥」
アヴェーラは一昨日の夜の出来事、二人の姫の命を賭けた呼びかけによって、民衆が奮起したことをロメルに語った。
「何と! そんなことが‥‥。」
ロメルはもう一度二人の姫を抱き寄せると、その髪に頬を寄せて、
「留守にしてすまなかった‥‥すまなかった。」
何度も繰り返していた。
「ユウ様―っ!」
僕を呼ぶ声に振り向くと、ヴィーが駆け寄って来る。
「ユウ様っ! ご無事で‥‥ご無事でよかった‥‥よかったのですうーっ!」
僕は涙を流すヴィーを強く抱きしめた。
その様子をロメルの懐で見ていたミリアは、リーファを残してロメルから離れると、僕に駆け寄って来た。
ヴィーを抱きしめる僕の肩に手を置くと「ありがとう、信じていたわ。」と小声で言ってから、
「みんなーっ! 今日はお祝いよーっ!」
メイド達の輪の中に駆けて行った。
その様子を目で追って笑いながら歩み寄って来たアヴェーラが、
「ユウ、私は思ったのだ。ヴィーはお前と似ておる。どんなに困難な時でも民衆のためを思い、自分に何が出来るかを考えて行動しようとする。お前の妻に相応しい娘だ。」
ヴィーは、一昨日の夜から先程まで、避難民の「迷子引受け所」を作って子供達の面倒を見ていたのだ。
「私には、その位しか出来ないのです。でもこういう大変な時は、一人一人が出来ることをした方が良いのです。そうすればユウ様や公爵様達のお仕事が減らせるのです。」
「うん。今回もみんなが僕を助けてくれたから、僕は戦いに集中できたんだ。」
僕とヴィーのやり取りを聞いて、ロメルが腕を組んで考えた。
(なるほど。今回の戦いは、ギルド連合やウルド村の者達が役割を分担してユウを助けたと聞いた。そして最後は街の人まで使ってユウは勝った‥‥。少数の衛士だけで勝てたのは、多くの助けがあったからなのだな。そしてそれを生み出せたのも‥‥ユウ、君だからだ。)
ロメルは改めて皆の顔を見回して感慨深げに何度も頷いてから、表情を引き締めると、
「みんな、大変な思いをしたところ申し訳ないが、ベニが届けてくれたこれを、急いで確認しておきたいんだ。ユウ、頼めるかな。」
ロメルが手にしていたのは、ウエアラブルカメラだ。僕が王宮へ送った使者の衛士に付けさせたものだ。そして「もしもの場合には、これだけでも回収してきてくれ。」とベニに頼んであったのだ。
会議室に公爵家の面々とリーファ姫、ドルクとバルクだけ入れた。
「王宮の中で何が起こっていたのか‥‥この小さな魔道具の中に記録が入っています。そして、同じ魔道具をゲラン伯爵領の砦にも仕掛けておきました。砦の中での伯爵の会話が記録できていました。まずは、それから聞いてもらいます。」
僕はモニターに映像記録を映し出した。
◇
盗賊や兵士達が出撃準備を進めるゲラン伯爵領の砦は、ガヤガヤという喧騒に包まれていた。その中で、木陰で話をする二人の男の映像がクローズアップされた。
「‥‥本当にこんなことが、許されるのですか?」
「許されるわけがないだろう。しかし、これはハラー男爵家の残党と盗賊団どもがやることなのだ。我々は戦いと略奪が済んだら、その者たちを裏切り、ファーレを襲った盗賊団として誅殺すれば良いのだ。そして財宝と娘達は私がもらう。」
話をしているのは、ゲラン伯爵と執事と思われる男だ。
「しかし、そんな話が通るのでしょうか?」
「案ずることは無い。王太后様はこの件を初めからご承知なのだ。王太后様が事実と認めて下さるさ。」
バン!
「なんだと!」
記録画像を再生中に、アヴェーラが、テーブルを叩いて立ち上がった。
「ユウ、これは事実なのか‥‥? 本当に‥本当に、この者達は、こんなことを言っていたのか?」
怒りに震えながら僕の方を振り向いた。
「はい、この道具は事実の記録をするだけです。虚偽を造り出すなんてことは出来ません。」
ドサッ
椅子に座り込んだアヴェーラの目は、怒りに燃えていた。
「次に、使者として王宮に送った衛士の胸に付けておいた魔道具の記録を見ましょう。」
◇
王宮の謁見室と思われる部屋で、正面の玉座に王太后が座ったところから映像が再生された。
「恐れながら、王太后様にお伝えしたいことがございます。」
「そなたが真にアヴェーラ公爵の使者であれば、公爵からの親書を預かっておるでしょう。それを置いていきなさい。そなたは平民の衛士であろう。そなたの話を聞くことは、直訴を聞くことと同じになります。親書を置いていきなさい。」
「では、これを至急お読み下さるようにお願いいたします。」
王太后の顔が、一瞬強張った次の瞬間、
「無礼者! こんな夜更けに謁見に来ること自体無礼であるのに、直ちに読めとは! そなたは何様なのですか!」
王太后が厳しい顔で使者を強く叱責した。
「そ、そんな! ファーレン公爵領が窮地に陥っております! なにとぞ、なにとぞ兵をお戻し頂きたく‥!」
「この者を捕えなさい! 直訴の大罪人です。」
「そ、そんな‥‥王太后様!」「うぐっ‥‥」
王太后に駆け寄ろうとした衛士の青年は、剣で刺されて前のめりに倒れたようだ。映像も謁見室の床の画像を最後に切れていた。
◇
「バーシアは‥‥バーシアはファーレの窮地を知った上で、このような仕打ちをしたのか‥‥。なぜだ!? なぜだ、バーシアーッ!」
アヴェーラがテーブルの上に何度も拳を叩きつけた。
「お母様!」
ミリアが駆け寄って、その肩を抱いた。
ミリアの手に自らの手を重ねて「大丈夫だ」と呟いてから、
「事実は分かった。しかし皆の者、今は、まずは休め。やらねばならんことがあるが、今日は休め。休んで‥‥戦いに備えよ!」
最後は凄みのある表情で皆に指示した。
「ユウ、少し話さないか?」
皆が会議室を後にする中、僕はロメルに呼び止められた。
「殿下、お疲れじゃないですか? 夜通し走って来て。」
「疲れているのは君も同じだろう。でも、この後の事を少し相談してからでないと、眠れそうにないんだ。」
「分りました。少し話しましょう。」
僕は殿下とテーブルに着いた。
「‥‥じゃあ、私も。」
ミリアが少し離れた椅子に腰かけた。
「邪魔はしないから、安心してね。」
「では私もご一緒いたします。」
リーファもミリアの隣に座った。
ロメルとユウは相談を始めると、姫達の事は全く気にならないかのように議論を始めた。
そんな二人の姿を微笑んで見つめるミリアの横顔を、リーファは見ていた。
(ミリア様は、このお二人が議論されるのを見るのが、本当にお好きなのですね。側付きメイドのマリナさんの言う通りです。)
結局、二人の議論は夜が更けるまで続いた。