~異世界で貴族になったので、街を守って戦います⑪~
◇
ファーレの街、外壁の上で敵を見張るユウ達は緊張していた。
今日は、昼間からの攻撃なので、城壁の外に罠は仕掛けにくい。そして心もとない銃弾と装備で敵を迎え撃たなくてはならないのだ。
「まず魔物から、確実に仕留めていこう。」
「はい!」
今日は、城壁の上で小銃を構える者は少ない。リリィと騎士団員の二人、そして対物ライフルを構えるヴォルフだ。
弾丸の数が残り少なくなってきたため、射手は腕の良い者だけに絞った。
また10人の団員が、小銃をボウガンに持ち替えて城壁の上にいる。
そして、ゾラを中心とする残りの団員は、城壁の中で大勢の市民と共に市街戦の準備をしていた。
「敵の魔物が接近してきたぞ。リリィ、あのデカイ奴を撃て!」
「はい!」
ドギュ、ドギュ、
ジャイアントオーガに銃弾が当たっているようだが、その歩みが止まる気配はない。
「当たっていますが、効いていないようです。」
「分かった。次、ヴォルフ撃て!」
「はい!」
ドウッ
ジャイアントオーガを狙ったヴォルフの対物ライフルが、低く大きな発砲音を立てた次の瞬間、
バゴン!
ジャイアントオーガが、右手に持っていた「こん棒」の真ん中が砕けた。
「ウゴ‥?」
何が起きたのか分からず、ジャイアントオーガが驚いている。
「すいません。外しました。次撃ちます。」
ドウッ
チッ
今度の弾は、折れたこん棒の先をかすった様だ。
「すいません。また外しました。」
ヴォルフが続けて外すなんておかしいな、と思っていると、
「ヴォルフ、ジャイアントオーガの頭一つ分だけ左側を撃ってみて。それで胸に当たるはずよ。」
リリィが、いつの間にかヴォルフに寄り添っている。
「あなたが2発続けて外すなんて、きっと銃の照準の方が狂っているのよ。」
「お‥‥おう!」
「頭一つ分左側、撃ちます!」
ドウッ
ドシュッ!
ジャイアントオーガの胸から血が噴き出し、
ズズン‥
という地響きをたてながら巨体が倒れた。
「やったぞ!」
「ジャイアントオーガを倒したぞーっ!」
城壁の上が湧き立つが、
「いや、まだだ‥‥」
ヴォルフがつぶやくと、
むっくりと、巨体が起き上がって来た。
「今度は頭を狙います。」
ドウッ
ヴォルフの宣言通り、頭から血を噴き出させたジャイアントオーガは、今度は起き上がってこなかった。
「やったーっ!」
歓声が沸き上がる中、リリィは、キュッと一瞬だけヴォルフの胴に抱きついて「よかった」とつぶやくと、ヴォルフから離れて自分の持ち場についた。
魔物の軍団は、ジャイアントオーガが倒れたことに驚いていたが、何が起こったのかを良く理解していないようだ。
ドウッ
次の攻撃によって、頭を打たれたジャイアントオーガが倒れ、ようやく攻撃を理解した。
「敵の遠距離魔法攻撃だ!」
グガッ
3体目のジャイアントオーガが、盾を頭の前にかざした瞬間、
ガキーン! という大きな音が響いた。
鉄の盾に弾丸が弾かれたのだ。
「散開しろーっ!」
魔物の部隊を先頭に一直線に突撃してきた敵が、横に広がって散開を始めた。
それを見た城壁上の衛士が叫ぶ。
「敵は散開を始めました!」
「こちらの作戦は変わらない。魔物から減らしていこう。デカイ奴が盾を構えたので、次は予定通りに魔獣使いを狙え。」
僕の指示で小銃を構えたリリィが、黒牙狼に跨った魔獣使いに的を絞った。
ドギュ、
発砲すると次の瞬間には、魔獣使いが黒牙狼から転落していく。
「すごい! 一発で仕留めたぞ!」
すると、3頭並んでこちらに向かって突進して来ていた黒牙狼の動きに変化が生じた。突進を止めて立ち止まってしまったのだ。
しかし、後ろからはオーガが、さらにその後ろからは残党とゲラン領の混成部隊が突進してくる。
黒牙狼の1頭が、
ウォォーン、 と大きく咆哮すると、
三頭の黒牙狼が、それぞれ思い思いの方向へと走り出した。うち2頭は逆方向、混成部隊の方へ走った。
「うおぃ! 黒牙狼がこっちへ向かってくるぞ!」
黒牙狼は、混成部隊の騎馬の兵士に向かって飛びかかると、その兵士の上半身を食いちぎった。
「うわぁーっ! 黒牙狼が襲って来たぞーっ!」
これも作戦だった。コントロールを失った黒牙狼に敵中で暴れさせたのだ。
「うわーっ! 来るなーっ!」
2頭の黒牙狼は、混成部隊の中で暴れている。
そして残りの1頭は城壁の方へ向かって来た。
ドギュ、ドギュ
こちらへ向かってくる黒牙狼とオーガは、ヴォルフとリリィが仕留めた。しかし、
「騎馬の兵士が入ってきます!」
城壁の上の衛士が叫ぶ。
魔物に気を取られているうちに、数十騎ずつの騎馬兵士が、2箇所の城門から城壁内に入って来てしまったのだ。
「大丈夫だ! 仲間を信じよう!」
「はい!」
城門は昨夜と同じ、1箇所はバリケードと大男のバルクが待ち伏せしている。
それに加えてもう1箇所は、細い路地に誘導するようにバリケードが配置してある。
最初に入った数十騎は、バリケードに沿って細い路地に誘導された。
しかし、少し進むと路地の途中で道がふさがれていた。
「くそう‥つまらん小細工を‥‥、引き返すぞーっ!」
先頭の騎馬兵が声を上げた瞬間だった。
ゴスッ!
「グギャッ!」
レンガが、声を上げた兵士の頭を直撃した。
ゴスッ!
ドガッ!
「うわーっ!」
レンガや大石が、建物の窓から雨の様に降り注ぎ、騎馬兵達を襲ったのだ。
「弓だーッ! 後列の者は弓を引けーッ!」
騎馬兵の列の後方で、この攻撃を受けずに済んだ兵達が弓の準備を始めたが、
「やらせるな! ボウガン撃てーッ!」
弓の準備をしている兵士に、今度は一斉にボウガンの矢が放たれた。建物内に隠れていた市民達が一斉にボウガンの矢を放った。
「ギャッ!」
「ぐわっ!」
ボウガンの矢は、一発で致命傷にはならないものの、敵兵たちは弓の準備どころではなくなった。
そこへ再び、レンガと大石の雨が降る。
「引けーッ! 罠だーッ! 引けーッ!」
ほうほうのていで退却を試みるが、逃げおおせたのは極僅かな兵士だった。
もう一方の城門から入った兵士が、どうなったかというと、
「バケモノだ! バケモノみたいに強いヤツがいるぞ!」
ドルクに待ち伏せされた兵士たちは、次々にやられていく。ドルクは、城門の出口付近で待ち構えており、敵方は狭い城門内を通過してくるため、一度に1騎か2騎ずつしか入って来れず、大勢で取り囲むような戦術が取れないのだ。
ドルクに押されて城門が滞留してしまうため、騎馬兵は城壁の上からのボウガンにさらされることになった。
「た、退却だーッ!」
魔物はヴォルフとリリィの銃撃によってすでに全滅し、混成部隊も残り百人を切るようになってしまった敵方兵士は、ちりじりになりながら逃げて行った。
「やったーッ!!」
「俺達の勝ちだーッ!」
うおーっ!
うおーっ!
あちこちで勝どきが上がった。
戦いは、僕らの完全勝利で終わったのだ。