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~異世界で貴族になったので、街を守って戦います⑩~

    ◇


 「ユウ、今夜の戦いは、本当に完全勝利なのか!?」

 「はい。今夜の夜襲については。」

 僕はアヴェーラ公爵に戦況を報告するため、城に来ていた。


 「それにしては浮かない顔だな。」

 「はい、問題が無いわけでは無いのです。」


 僕が現世から「仕入れて」来ていた小銃は15丁、弾丸は1000発程度だ。

 元々、街の防犯体制強化として小銃を導入したので、弾丸は訓練の分も含めて当面充分だと思っていた。随時補充すれば良いと考えていたのに、いきなり本格的な戦いで使用しているのだ。


 「弾丸が足りません。魔物の数は、残り少ないですが大物も残っています。それは新しく仕入れた武器で対抗しますが‥‥」

 「ゲラン領と残党どもの連合部隊に使うには、足りない。ということか?」

 「はい。」

 「ふーむ、‥‥しかしな、先程こんなことがあったのだ。」


 アヴェーラは、先程の城の中庭での出来事、民衆との対話について僕に説明してくれた。

 ミリア姫とリーファ姫の健気な覚悟を聞いて、心を動かされた民衆の中には「戦いに参加したい」と申し出る者が大勢いるということだ。


 「それは良いかも知れません。僕の方もドワーフ工房に頼んだものがあるので、それを急いで確認してみます。ひょっとしたら大きな戦力になるかもしれません。」


    ◇


 僕は明け方近いファーレの街に、バイクを走らせていた。ドワーフの職人ギルド長・ベルガの工房へ向かっていたのだ。


 ベルガの工房に着くと、灯りが点いていた。誰かいるかもしれない。こんな時間でも来てよかったと思いながら僕はドアを叩いた。


 ドン、ドン

 「こんな時間にすいません。ヤマダユウです。誰かいますか?」


 しばらくして、扉が明けられた。

 「あ、ああ‥‥ユウ様‥、ちょうど、私もご連絡に行こうかと思ったんですが‥‥」

 疲れ切った様子のベルガが、虚ろな目で出て来た。


 「どうしたんですかベルガさん? 体の具合でも悪いんですか?」

 「いやね、久しぶりの急ぎの仕事だったもんで、少しばかり無理をしまして‥‥、まあ、入って下さい。」


 工房の中に入って行くと、何人ものドワーフの若者たちが倒れている。

 「ど、どうしたんですか?! ここも襲われたんですか?」

 「えっ? ‥‥ああ。」


 するとベルガさんは「ほら、どけ!」と、

 乱暴に通路に倒れている若者を転がした。


 「うーん‥」

 転がされて仰向けになった若者は、瞼をこすりながら起き上がり、のそのそと通路を開けた。


 「徹夜仕事の後の工房は、こんなもんですよ。それより見て下さいよ。」

 僕はベルガさんの指さす先を見て、息を吞んだ。


 「1日で、これ全部作ったんですか?」

 「はい。でも急ごしらえだからって、手は抜いていませんよ。」


 目の前におびただしい数のボウガン(クロスボウ)が積み上げられていた。

 僕がベルガさんに制作を依頼したのは、ずっと前に現世から持ってきていたボウガンだ。

 「これと同じものを出来るだけ作って欲しい。」と二日前にお願いしてあったのだ。


 「「ぼうがん」というヤツが150丁、弓が三千本あります。足りますか?」

 「あ、ありがとうございます。」

 僕はベルガさんの手を両手で強く握りしめた。


    ◇


 「レンガや石を集めろ! 上から落とせば十分武器になる。」

 「弓を使ったことがある人は、こちらに集まって下さーい!」


 翌朝、公爵家の城の中庭では、様々な作業や準備をする人達で、ごった返していた。


 そんな喧騒の中、城の応接室ではソファーに座るヴィーの膝枕の上で、ユウは安らか寝息を立てていた。

 「あらぁ、ユウ。こんなところで良い御身分じゃなーい?」

 「そうだな。気持ちよさそうにしておって。」

 ユウを見つけて、ミリア姫とアヴェーラ公爵が、ユウの頬をつつきだした。


 「公爵様、ユウ様が起きちゃうです。少し休ませてあげて下さいです。」

 ヴィーが心配そうに訴えると、アヴェーラとミリアは手を止めて、相向かいのソファーに腰かけた。

 「本当にこやつは、大したヤツだな。」


 明け方に、城にやって来たユウは、ドワーフ工房で作った大量のボウガンを城に持ってきたのだ。そして、ボウガンの使い方を自らの騎士団に教えながら、

 「この武器は、素人にも正確に強力に矢が撃ち出せます。戦うことを申し出てくれた市民の中から、弓矢を使ったことがある人を優先して、練習をさせておいて下さい。」

 騎士団に指示すると、少し休むことにしたのだ。


 「でも、私は心配なのです。ユウ様はいつも頑張りすぎちゃうのです。」

 ヴィーが、ユウの髪を愛おしそうに撫でている。それを見つめるミリアの表情がほんの少し寂しそうにも見えて、

 (ほう‥‥。少しはミリアにも、ユウを想う気持ちが芽生えているのだろうか?)

 ミリアの横顔を見ながら、アヴェーラは考えていた。


    ◇


 ピーッ、ピーッ

 「敵が動きました。接近して来ます!」

 センサーが敵の接近を知らせたため、僕達は迎撃の準備を襲いだ。


 「見えてきました。デカイのがいます」

 双眼鏡を覗くとジャイアントオーガというヤツが3体見える。肩にオーガを乗せているようだ。

 背丈は6~7m位だろうか?


 オーガは、ジャイアントオーガの肩に乗っている3体だけ、そして黒牙狼は「魔獣使い」を乗せたヤツを含めて3頭いる。昨日の夜襲で数を減らしておいて良かった。


 しかし、今日の問題は、その後方から様子を伺いながら前進して来る奴ら、残党とゲラン伯爵領の混成部隊だ。当初の報告では砦で準備する兵士は300人程度だったが、明らかにそれよりも多い。500人を超える規模に見える。

 混成部隊は昨夜の夜襲の後、急きょ増員されたのだった。


 実は当初の計画では、魔物による夜襲の後、夜明けとともに混成部隊が突入する計画だったのだ。


    ◇


 昨夜のゲラン軍の陣地の状況はこうだった。


 残党とゲラン伯爵領の混成部隊が待機する森の陣地に急報が入った。

 「うおい! 夜襲をかけた魔物の部隊が全滅したらしいぜ!」

 「そんなバカな!?」

 「急いでみんなに伝えろ! 夜明けの突入は中止だ!」

 「どうするんだ?」

 「とりあえず、直ぐに増援体制を確認だ!」


 魔物の夜襲によって混乱・疲弊したファーレの街を夜明けとともに襲い、やすやすと領主の城まで突入し、財宝と娘達を略奪する、という当初の計画が狂ってしまった。

 しかしゲラン伯爵に「とある悪だくみ」があったため、直ぐに増員が可能だったのだ。


 その悪だくみの概要は、次のような内容だ。

 ファーレを襲った混成部隊が、略奪を終えて帰って来た時、

 盗賊団とハラー男爵家の残党だけを「盗賊たち」としてゲラン伯爵が退治する、という計画だ。

 ファーレの街を襲った「盗賊」を退治するという名目で、城から略奪した「戦利品」を横取りする、計画だったのだ。


 その計画の一部が変更され、「盗賊たち」を誅するために砦に潜んでいたゲラン伯爵領の兵士を増員に向ければ良いだけだ。


 「しかし、夜襲をかけた魔物の部隊を全滅させるほどの相手に、俺達は勝てるのか?」

 「大丈夫だ! こちらにはとっておきの化け物「ジャイアントオーガ」が付いているんだ!」


 そんな経緯もあって、500人を超える混成部隊が、残りの魔物と共闘する部隊となっていたのだ。


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