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~異世界で貴族になったので、街を守って戦います⑦~

    ◇


 「ゾラ君、市民の被害はどうなっている?」

 「残念ながら‥15人が亡くなりました。ケガ人は20人ほどいます。」

 城に戻ったゾラ達がユウに報告している。


 「奴らは「はぐれ者」なのですか?」

 ドルクがユウに尋ねた。

 「そのようですね。皆さんが出かけた後、直ぐに影の手に魔物の動向を確認させましたが、魔物の部隊は森から動いていませんでした。」

 「はぐれ者」というのは、魔獣使いの言うことを聞かずに、部隊を離れて勝手に動いてしまう魔物の事だ。先の大戦でもそういう事があったそうだ。


 「しかし、影の手が魔物の情報を入れてくれていたのに‥‥、油断があったことは確かです。早急に警備体制を作りましょう。まずは、夜襲に備えたいと思います。」

 「おお、ユウ様は、魔物との戦い方を分かっているのか?」

 ドルクが太い腕を組んで感心している。

 「いや、公爵様から言われました。「魔物の夜襲は心身共に疲弊するから、夜襲対策をしてくれ。」と。」


 魔物は人より夜目が効く。ただでさえ人に恐れを抱かせる夜の闇に紛れて魔物が来るかもしれない。夜襲の恐怖の中で眠れずに過ごす日が続けば、心身ともに疲弊していく、というのだ。


 「夜襲対策をしておきました。センサー‥‥えーと、動く物を感じ取って魔法のタブレットに映し出してくれる魔道具を奴らの周りに仕掛けておきました。音で知らせてくれますから、交代できちんと休めます。」

 僕はさらに、街を守る外壁の周辺でも夜襲対策を進めることにしていた。今日の「はぐれ者」が撃退された情報が敵に入れば、いくら魔物の部隊を持っていても攻め方を考えるだろう。


 恐らく最初の攻撃は、夜襲で来るだろう。


    ◇ 


 翌日、

 「日が暮れる前に、出来ることは全てやっておくんだ。」

 僕は、昨日はぐれ者の魔物を退治した後、亡くなった市民の亡骸を一時的に倉庫に保管した。それらの遺体を丁重に大教会へ運び、大司教様に弔いをお願いした。

 一般市民の弔いを、男爵の僕が直々に大司教様へお願いしたことに、公爵家の人達も市民も驚いていた。僕の感覚では当たり前のことだが、封建社会のこの世界・この国では異常な事なのかも知れない。

 しかし、僕は、これからも自分の感覚で自分の思うようにやって行きたい、と強く心に決めていた。


 なお、ファーレ市民約3万人の避難は、準備を含めて大変な作業になるだろうと考えていたが「私達に手伝わせて下さい。」と協力を申し出てくれる人達が大勢いた。


 まずウルドの村長が、

 「避難民の食料はウルドにお任せ下さい。そんなに長くは持ちませんが一定期間は持たせて見せます。」

 そして運河ギルドをはじめとする各ギルドが、

 「市民の避難誘導と確認は、ギルド連合に任せて下さい。」


 中でも職人ギルドのギルド長・ドワーフのベルガは、この騒ぎを聞きつけて直ぐに駆け付けてくれたので、昨日のうちから作業をお願いしている。

 「敵への備えを手伝わせて下さい。大急ぎの仕事は得意ですから。」と言ってくれたので、ある物の製作をお願いした。


 これらによって僕は、今夜以降来るであろう、夜襲への備えに集中することが出来たのだ。


   ◇    ◇



 王都・王宮は、夜を迎えていた。


 「王太后様、夜分に申し訳ございません。ファーレン公爵家から使いが来ております。早馬で来たので「一刻も早くお目通りをお願いしたい」と申しておりますが‥‥」

 「このような時刻にですか?」

 夕食を済ませた王宮にアヴェーラ公爵が送った使いが到着した。

 「私が話を聞いておきましょうか?」

 宰相が気を使って訪ねてきたが、

 「いや‥‥よい。会いましょう。」

 王太后は自ら謁見の間で使者に会うことにした。


 王太后は、ゲラン伯爵領に送った間者からの情報で、ファーレン公爵領の窮地は知っていた。

 いざ事が起こってみても不思議と現実味が無かったが、こうしてアヴェーラからの使者がやって来たことで、現実に起こっていることを改めて確認していた。

 王太后は謁見の間に向かう廊下で、ふと何か思いついたように立ち止まるとニヤリと唇の端を吊り上げた。


 「恐れながら、王太后様にお伝えしたいことがございます。」

 ファーレン公爵の使者は、衛士隊の青年だった。

 王太后は、その青年を睨みつけると、

 「そなたが真にアヴェーラ公爵の使者であれば、公爵からの親書を預かっておるでしょう。それを置いていきなさい。そなたは平民の衛士であろう。そなたの話を聞くことは、直訴を聞くことと同じになります。親書を置いていきなさい。」


 これは王太后が考えた策略だった。「突然訪れた平民の話など聞けない。」これは王族としては正論だ。また、親書を整えている時間などなかったであろう。と王太后は考えていた。


 「では、これを至急お読み下さるようにお願いいたします。」

 衛士が親書を手にするのを見た王太后の顔が、一瞬強張ったがような気がした次の瞬間、

 「無礼者! こんな夜更けに謁見に来ること自体無礼であるのに、直ちに読めとは! そなたは何様なのですか!」


 「そ、そんな! ファーレン公爵領が窮地に陥っております! なにとぞ、なにとぞ兵をお戻し頂きたく‥!」

 「この者を捕えなさい! 直訴の大罪人です。」

 「そ、そんな‥‥王太后様!」

 衛士が王太后に駆け寄ろうとした時、


 「うぐっ‥‥」

 低い叫び声と共に衛士の青年は倒れた。王太后の側近の剣に刺されたのだ。

 「王太后様、ご無事ですか?」

 「ええ‥‥、助かりました。」


 王太后は、この謁見を受ける前に側近に伝えていた。

 「夜にやって来る使者なぞ、怪しいことこの上ないではありませんか。もしも私に近づくようであれば、必ずや私を守るのですよ。」と。


 王太后バーシアは、謁見の間を後にした。

 「今起きていることは、全て‥‥全てゲランが、私利私欲に駆られてやっていることです。私は何も知らない。アヴェーラからの親書も‥‥私には届かなかったのですから‥‥。」

 独り言をいうと、唇の端を吊り上げた。



 (あっ‥、あれは使者の衛士?)

 影の手のベニは、使者の様子を確認するため、王宮の庭から宮殿の中をうかがっていたのだ。

 使者の衛士とみられる遺体?を王宮の衛士2人が運んで来たのだ。そして庭の木陰に隠すと、

 「後は明日片付けようぜ。」等と話して帰って行った。


 ベニは、アヴェーラ公爵から「王宮で使者に「もしもの事」があったら、公爵領で起きていることを直接ロメルに伝えてくれ。」との命を受けて、使者の後を付けて来ていた。


 辺りに人気が無い事を確認すると、ベニは運ばれて来た衛士の元へ駆け込んだ。そして首に触れて微かだが温もりを確認すると、上半身を抱き起した。

 「しっかりして、どうしたの?」

 何度か声を掛けると、ゆっくりと薄目を開けた衛士が、

 「だ、大事なお知らせに‥来たのに‥‥じ、直訴の罪人だっ‥て、は、話を‥き‥聞いてもらえませんで‥‥した。」

 そこまで言うと涙を一筋流して、こと切れた。


 ベニは、衛士を強く抱きしめて、

 「あなたの役目は、私が引き継ぐからね。」

 噛みしめる様に言うと、衛士の胸から小さな装置を外して、それを懐にしまった。そして衛士をそっと地面に横たえると、

 シュッ と闇に消えた。


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