~異世界で貴族になったので、街を守って戦います⑥~
◇
「大変です! 街で魔物が暴れて多くの市民が‥‥こ、殺されているという連絡が入りました!」
街を囲む外壁を乗り越えて来たオーガ2体と黒牙狼2頭が、街で暴れているというのだ。
駆け込んできた衛士の報告を聞いた僕は、「影の手」のシアンを呼んだ。急いで敵の動きを確認しなければならない。
そして魔物への対応は、僕の直属騎士団の副隊長ゾラが団員5名を連れて向かうことにして、ドルクさんの同行をお願いした。
「ちきしょう‥‥、ヒドイな。」
ゾラ達が現場に向かうと、黒牙狼にかみ殺されたのであろう市民の遺体が点々としている。
「キャーッ!」
「誰か、助けてくれーっ!」
悲鳴の方向を振り向くと、逃げ惑う市民の向こうに、牛よりも一回り大きいくらいの巨大な狼がいた。
ガルルルッ
壁際に追いこまれて逃げ場を失った市民が3人いる。黒牙狼が大きな口を開けると、真っ赤な口の中に、その名の通り黒くて大きな牙が見えた。
「キャーッ!」
それを見た女性の悲鳴が聞こえた時、
おりゃー!
叫び声と共に、塀の上から飛び降りてくるクマのような影があった。
「うわーっ! 今度は上から魔物がぁ!‥‥いや、あれは?!」
叫び声をあげた市民の顔が、恐怖から安堵に変わる。
ズドッ!
クマのような大男ドルクの大剣が黒牙狼の首を一刀両断にしたのだ。
「ドルクさんだ! ドルクさんが来てくれたぞ!」
グルルルッ
ドルクの姿を見つけたもう一体の黒牙狼が唸り声をあげながら近づいて来る。そこへ、
「ドルクさん! オーガも来ます!」
人の背丈の倍程もあるオーガが、ドルクを挟む様に反対側からのっしのっしと大股で近づいて来る。
「くそう、実戦は久しぶりだからなぁ。魔物2体同時はキツイかな‥‥」
ドルクが、どちらを先に相手にしようかと考えていると、
「ドルクさん! オーガの方はおまかせ下さい!」
ゾラの声だ。
「ゾラか? じゃあ任せるぞ!」
「はい!」
「みんな! 落ち着いて構えろ! 訓練通りにやるんだ!」
騎士団が一斉に戦闘態勢に移るが、若い衛士の一人が紐で肩に掛けた小銃を下ろすのに手こずっていると、
ヴォラァ!
オーガが野太い叫び声をあげながら、その衛士に飛びかかった。
ドギュ、ドギュ
ゾラが放った銃弾がオーガの腕と肩に当たった。
「イデエナ‥‥、 ゴノヤロウ!」
オーガが血を流しながら振り向いて、ゾラに向かっていく。
「首と頭を狙って、撃てーっ!」
ドギュ、ドギュ、ドギュ
首と頭に数発の銃弾を受けて、オーガはその場に立ったまま動かなくなったが、
ズズン。
一瞬の間の後に倒れ込んだ。
「うおーっ! 俺達が‥‥俺達がオーガを倒せたぞ!」
オーガが倒れるとその向こうで、ドルクが二体目の黒牙狼を倒すところだ。
ドスッ
首に大剣を突き刺された黒牙狼が、ズズン、と地響きを立てて倒れ込む。
「うわーっ! すげえぞ。魔物をあっという間に倒したぞ。」
「ロメル殿下達がいないから、もうダメかと思ったぜ。」
市民たちが安堵の表情を浮かべていると、
「誰か助けてくれーッ! うちの娘がオーガに攫われちまったーっ!」
二体のオーガが街を襲ったという報告だったので、もう一体いたのだ。
「オーガが向かった先は分かりますか?」
「外壁を飛び越えて行っちまった。壁の上から見たけど、もう見えなくなっていて何処へ連れていかれたかも分らねぇ‥‥」
打ちひしがれた父親は、しゃがみ込んでしまった。
「探しに行ってみよう!」
「闇雲に探し回るわけにもいかないだろう。」
「そんなこと言っている場合じゃないだろう! オーガに攫われた娘さんが、どんな目に合うのか分かるだろ‥‥あ。」
父親が震えながら衛士達を見上げている。
「す、すいません。無神経なことを‥‥。」
「お、おい、みんな。あれを見てくれ。」
父親に頭を下げる衛士やその場の皆に、ゾラが声を掛けた。
背の高い男が何かを抱えて近づいてくる。抱えているのは少女のようだ。
「お父さーん!」
男が抱きかかえていたのは、攫われた少女だった。
その男・ヴォルフが、抱えていた少女を優しく下ろすと、少女はこちらに向かって駆け出した。
「お父さん!」
「お、おお、無事だったのか?!」
ヴォルフは、固く抱きしめ合う親子を横目で見ながら、
「オーガが、何かを抱えて外壁を飛び越えたので、もしもと思って追いかけてみたんだ。」
「さすがヴォルフさんだ。ありがとうございます。」
「それよりもケガ人の手当てをしよう。ユウ様のポーションなら、まだ助けられる人がいるかもしれないぞ。」
「は、はい!」
そのやり取りを見ていたドルクが、
「ヴォルフか‥‥やるではないか。」
満足そうに頷いていた。