~異世界で貴族になったので、街を守って戦います③~
◇ ◇
「ユウ様、行ってらっしゃいませ。」
「ああ、いってくるよ。頼んだ件、よろしくな。」
「はい、ロメル殿下にお伝えしておくです。」
僕は、ヴィーに見送られて現世日本へ向かった。
今回の目的は二つ。
ヴィーとリリィの婚礼衣装についてアヴェーラ公爵から「向こうの世界の婚礼衣装が見てみたい」と言われ調達すること。
そしてもう一つ。
今あるよりもさらに強力な武器の調達だ。
僕は、ファーレン公爵に仕えることになって、ファーレの街を活性化させることに成功したが、ファーレの街が豊かになればなるほど、反面、不安も出て来た。
今度はその富を狙う輩が出てくるのではないか? ということだ。
そして王都事変以来、動きを見せないゾーディアック卿のことも気になっていたのだ。
僕は、まず横須賀の○メリカ軍基地を訪ねた。武器の仕入れお願いしている「J」に先月依頼しておいた武器を置け取るためだ。
基地内A2倉庫には頼んでおいたものが揃っていた。
「君に頼まれた時には驚いたけど、一応アレも手に入ったよ。新品ではないけど勘弁してくれ。もちろん前回と同じ型の小銃は全て新品だ。」
僕はJに依頼金を渡して武器を受け取った。
取引場所である倉庫を出ていく僕を、Jが詮索しないでいてくれるのが助かる。
荷台を押した僕が、野外トイレの中に消えていくのだから。
アパートに荷物を置いて次に僕が向かったのは、ネットで見つけたウェディングドレスの直売店だ。
思ったよりも安価で買えたので、ヴィーとリリィが着ることをイメージして何着か選んだ。
◇ ◇
ファーレン公爵領の宿舎に戻ると、ヴィーを通じて手配してもらった衛士隊が来てくれていたので、荷物の運搬を手伝ってもらった。副隊長のゾラもいたので、彼に頼んでロメル殿下を呼んで来てもらった。
「ユウ、これはヴォルフやリリィが使っている強力な「魔道具」じゃないのか? 随分たくさん持って来たんだな。」
「はい、殿下。そのことで相談がありまして‥‥」
「なんだ、話してくれ。」
僕は今後の街の防衛体制の強化やゾーディアック卿が魔物を使ってくることに備えて、現世の武器を備えた「特殊部隊」的な戦力が衛士隊の中に必要だと思っていたのだ。
「ほう、それは凄いな。魔物に立ち向かう特別な部隊か‥‥。よし、ユウ。君直属の騎士団を作ろう。」
「えっ、いや、僕直属というのはどうなんでしょうか‥‥、だいたい僕みたいなヘタレの下に付いてくれる衛士なんていますかねぇ?」
「あのう、すみません。聞こえてしまったのですが‥‥、俺はユウ様の下で働きたいです。第一ユウ様はファーレン公爵領の英雄です。ご自分の事を「ヘタレ」なんて言わないで下さい。」
横から口を挟んだのは、衛士隊副隊長のゾラだった。
ロメル殿下はゾラの顔を見てから、僕に向き直って「ほらな」という顔をして見せた。
「あ、でも殿下。基本的な訓練は衛士隊の方でお願いしますね。」
やや締まらない感じだが、僕直属の騎士団が出来ることになった。
◇ ◇
王都ガーラ、王宮のすぐそばにある高級菓子店。その店の奥にある貴賓室に王太后バーシアは来ていた。バーシアは時々お忍びで王都の街に出ていたが、お気に入りのこの店には街に出た時は必ず立ち寄ることにしていた。
しかし、今日王太后が来たのは、スイーツを楽しむ為ではなかった。ある人物と会うためだ。
その人物はゲラン伯爵。ファーレン公爵領と隣接する領地を持つ領主である。
王太后はゲラン伯爵から事前に手紙を受け取っていた。その内容は「ファーレン公爵領の事で相談がある。王家にとっても悪い話ではないと思います。」というものだった。
王太后は、ゲラン伯爵領が最近、隣接するファーレン公爵領の事で頭を痛めていることは知っていた。ウルドで生産される優良な農作物に押されて自国の農作物の売れ行きが悪くなっていたし、景気が良く税率の低いファーレン公爵領へと密入領しようとする領民が後を絶たなかったのだ。
そんなゲラン伯爵から「良い話」と言われて、王太后は色々思いを巡らせていた。
「王太后様には御機嫌麗しゅうございます。」
ゲラン伯爵は、ロマンスグレイの紳士という見た目の男であったが、目つきは鋭く油断のない感じの雰囲気を漂わせている。そんな伯爵から形通りの挨拶の言葉を受けたバーシアは「フン」と鼻を鳴らした後で、
「私の機嫌がそれほど麗しくないのは、そなたも分かっておるのでしょう?」
挨拶を返すと、その真意を探るように伯爵の目を見た。
「はっはっは、失礼いたしました。では、早速話に入らせて頂きます。私はとある情報筋から「魔国が近く国境近くの森に兵を集める」という話を聞きました。」
「なんですって‥‥。とある情報筋とはなんですか。そなた、魔国と通じているのではないでしょうね。」
「魔国の情報に詳しい、という者から情報を得たのです。そこでご相談があるのですが、その際はファーレン公領を中心に出兵を要請して頂けませんか。」
「そのような事になれば、近隣領地に均等に負担してもらうのが、これまでのやり方ですが‥‥」
「このところファーレン公爵領は、景気が良さそうですからね。」
バーシアは伯爵の唇が一瞬散り上がるのを見て、
(この男、ファーレン公爵領に負担を押し付けたいだけ? それとも他に企てがあるのか‥‥)
一瞬、思いを巡らせたが、
「分った。そのように手配しましょう。」
「ありがとうございます。」
そのような話をして短い会合を終えたバーシアは、ゲラン伯爵が帰るのを見送ると直ぐに側近を呼んだ。
「しばらくの間、ゲラン伯爵領に間者を送っておきなさい。変わった動きがあったら逐次報告なさい。」
「はっ!」
命を受けた側近が去るとバーシアは紅茶を飲みながら、小さくため息をついた。
「はて、どのように事が転ぶものでしょう。いずれにせよ私が考えることはただ一つ。クラン王子の先行きが安泰なことだけ‥‥。それ以外は‥‥どうでも良い事です。」
「いかがでございましたか王太后様の方は?」
「おう、卿の言う通りであった。出兵要請はファーレン公爵領中心に行われることになろう。」
ゲラン伯爵は、王都の外れの茶屋で怪しげな二人組と話し合っていた。
一人はルガーノという男。もう一人は、顔に火傷をしてしまったとして、口元意外の顔面に包帯を巻いた男だった。
「それは良うございました。実は、伯爵様には一つお願いしたいことがございまして‥‥いや、伯爵さまのご負担になる様な事ではございません。むしろ結果的に利を得られるやも知れないお話でございます。」
3人は少し話し込んでから、ゲラン伯爵を先に送りだした。
「ゲラン伯爵は、やはり欲のある男のようだな。」
包帯の男が顔の包帯をほどくと、何匹もの蛇の入れ墨が現れた。
「そうでございますな。付け入るスキがありそうな男です。」