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~異世界で貴族になったので、街を守って戦います➁~

    ◇


 「この頃忙しいみたいで、ヴォルフが全然構ってくれません。」

 口を尖らせてリリィがつぶやく。

 「じゃあ、リリィも後宮に来ればいいのです。 そしたらウルドにいた時みたいに二人でいられるですよ。」

 「そんなこと出来ないわよ‥‥」


 リリィが後宮のヴィーを訪ねて愚痴をこぼしている。

 普段のリリィなら勤め先を訪ねることなど遠慮するのだが、「ヴィーを訪ねてやってくれ」とユウに言われてやって来たのだ。


 「ヴィー、あなた良いこと言うわね。」

 休憩室でおしゃべりをしていた二人が、声を掛けられて振り向くと、そこにはミリア姫が立っていた。

 「あ、ミリア姫様。ヴィーが勝手なことを言ってすみません。」

 「ごめんなさいです。」


 「いいえ、リリィも後宮に来なさいよ。みんな喜ぶわよ‥‥ってそうだわ! あなたとヴォルフもまだ結婚してないわよね。私、良い事思いついたかも! おかーさま! 誰か、おかーさまを呼んで来て!」


 大騒ぎのミリア姫を見て、

 「ヴィー、何か変なことになっちゃいそうなんだけど‥‥」

 「ごめんなさいです。リリィ‥‥」

 二人は不安げに手を取り合った。



 「なるほどな。リリィも今は父親がおらず母親も行方知れずか‥‥。後宮に勤めさせて後宮から嫁に出すことは良いと思うが‥‥。」

 ミリアによって、ヴィーとリリィは公爵の執務室に案内されていた。


 「ありがとうなのです。公爵様。」

 「ありがとうございます。」

 テーブルを挟んでヴィーとリリィに「良いのだ。」と言いながらもアヴェーラ公爵は何やら思案顔だ。


 「あのう、私などのためにお手数をおかけするのは‥‥」

 心配顔のリリィの言葉を、アヴェーラ公爵は手で制した。

 「リリィが後宮に来るのは私も嬉しいから良いのだのだ。私とミリアが考えているのは、その先のことだ。」

 「その先‥‥ですか?」

 首を傾げるリリィとヴィーを見て、ミリアが笑顔で、

 「ウフフ、あなた達さえ良かったら、2組での合同結婚式にしない?」

 「どうだ?面白いと思わんか?」

 「ね、絶対良いわよ!」


 ノリだけで話を進めてしまいそうな2人にヴィーが慌てた。

 「ユウ様にも相談しないと‥‥」

 「大丈夫だ。お前達さえ良ければ、ユウとヴォルフの意見なぞ、どうでも良いのだ。」

 アヴェーラに言い放たれてヴィーとリリィが顔を見合わせてオロオロする中で、アヴェーラとミリアのやりたいように色々決められてしまうのであった。


      ◇


 ユウが宿舎に帰ってくると、宿舎でヴィーが迎えてくれた。

 「ヴィー、今日はどうしたんだ。後宮から暇を貰って来たのか?」

 「ユウ様にお知らせしておくことがあるです‥‥」

 「何だい?」

 「ごめんなさいです。ユウ様に相談しないで色々決まってしまうです。」

 僕は、困り顔のヴィーを落ち着かせながら話を聞いた。



 「フーン。そういうことか。リリィとヴィーが良いならそれでいいよ。実は僕もそんな風になったらいいなー、と思っていたんだよね。」

 「えっ、そうなのですか?」

 「うん。僕達だけが公爵様のおもちゃになるのは大変だからね。ヴォルフ達にも付き合わせようかなぁ、って思っていたんだよね。」


 「ユウ様‥‥ヒドイのです。」

 ジト目で僕を見るヴィーに、

 「まあ、半分冗談だけどね。ヴォルフとリリィの結婚式は僕が段取ってやらないといけないな、と思っていたんだけど、運河ギルドが本格的に動き出したからね。忙しくてさ。」

 「私もリリィをおいて自分だけお嫁さんになるのは少し寂しかったのです。リリィと一緒にお祝いして頂けるなんて‥‥幸せなのです。」

 僕は、頬を押さえてはにかむヴィーを抱き寄せた。


      ◇


 「本日から、後宮でお世話になります。リリィと申します。」

 翌日、リリィが後宮の朝礼でメイドや使用人達に挨拶を済ませると、

 「折角リリィに来てもらうようにしたのに、私の専属じゃないのよね。でもリーファに付くなら仕方ないわね。‥‥あ、でもお茶の時間はみんなで一緒に過ごそうね。」

 声を掛けてくれたミリアに笑顔で一礼して、リリィはリーファの元へ向かった。

 


     ◇    ◇



 「最近ファーレの街は、活気に溢れているそうじゃないか?」

 「ああ、運河を使った舟運が素晴らしいそうだ。」

 「今年の都市毎の税収では、王都ガーラを抜いて一番になるのはファーレになりそうだな。」

 王都・王宮では最近このような声を良く聞くようになった。


 「このところファーレの噂で持ち切りだな。」

 王宮の執務室では、少し面白くなさそうに王太后バーシアが宰相に呟いていた。

 「そうは言いましても、国税の納税額が増える話ですからね。悪い話ではないのです。」

 「そなたの立場では、そうであろうが‥‥」

 バーシアは、少し苛立ちをにじませながら宰相に呟いている。

 苛立ちの原因は分かっている。


 幼馴染のアヴェーラ・ファーレン公爵との微妙な関係だ。



 三月前まで「摂政公」としてファーレン公爵の公太子、ロメルが王宮に来ていた。

 ロメルがクラン王子の隣で政を行えば、当然ながら王子と比べられることになる。そして王家と縁戚関係にある公爵家の嫡男であり、序列は低いが王位継承権を持つロメルであるが故、二人を比較しての陰口も聞こえてくる。


 「クラン王子は、まだ即位には早いのではないか。」

 「しばらく政は、ロメル殿下に助力をお願いした方が良いだろう。」

 「いっそのことロメル殿下に、このまま国政をお任せした方が‥‥」


 バーシアもある程度は覚悟していたことだが、噂はロメルが着任すると直ぐに始まってしまい、一ヶ月も経たないうちに王太后の耳にも入るようになった。

 それを受けたバーシアは、王子とロメルが比べられないようにするため、ロメルに王家の代役として国内外の外回りの仕事を作らせた。

 しかし、それによって今度は、周辺領地や国外でのロメルの評判を高めることになってしまった。


 結局バーシアは半年足らずで、体調を崩したことにしてロメルを解任することにした。


 バーシアは最近考えていることがある。

 摂政公にロメルを推したのは、ここまで考えたアヴェーラ公爵の計略だったのではないか? 

 政の力量も無く国内での信頼も薄いクラン王子と、優秀な自分の息子を横に並べて比べたら、周りの者がどう思うか。 

 「クラン王子などよりも、よほどロメルの方が王の器だ」と、みんな思うに違いないと。


 そこまで考えたアヴェーラの計略だったのではないか、

 そう考えると苛立ちが止まらなくなる。



      ◇    ◇

  


 「ゾーディアック様、このところファーレン公領と周りの領地とで、金と人の流れに不均衡が出来ている様なのです。そして、それに不満を持つ者も多いようです。」

 「ほう‥‥それで、お前は何か仕掛けようというのか?」


 魔国に隣接する辺境の森深くにゾーディアック卿の屋敷がある。

 ゾーディアック卿と話をしているのは、ルガーノという男だ。

 以前この男は「ちょっかいを出してみる」として、夜に紛れてユウの宿舎に(あやかし)を忍ばせたが、妖は闇ヒョウのノワによって撃退されてしまった。


 「ファーレン公爵領に隣接する領地では、自領の農産物が売れなくなったり、領民が景気の良いファーレン公爵領に密入領するなどして困っている様で‥‥それに不満を持つ者がおります。またヤマダ・ユウによって痛手を負った盗賊団の残党や、夜逃げすることになった男爵家の残党もおりますので、そ奴らの手を組ませようと画策しております。」

 「‥ふむ。」

 「ロメル公太子と公爵領の正規軍である衛士隊に、遠征にでも出てもらうことが出来れば、都合が良いのですが‥‥。」

 「‥‥ふむ。それは私が考えてみよう。そして公爵領に攻め込む時には、魔物の手勢も少し貸してもらうように手はずしよう。」

 「はっ、ありがとうございます。」


 ゾーディアック卿は、何やら想いを巡らせている。それによって眉毛の位置にある蛇の入れ墨が動くと、まるで本物の蛇がうごめいているように見えた。


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