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~異世界で貴族になったので、街を守って戦います①~

    ◇   ◇


 「今後の事で相談があるので来てくれ。」

 アヴェーラ公爵から声が掛かり、僕は公爵の居城を訪れた。


 城の応接室ではアヴェーラ公爵とロメル殿下、バートさんが僕を待っていた。

 公爵のそば付きメイドとして他のメイドと共にヴィーも室内で控えていた。お互い別々の職場に勤めていて仕事で顔を合わせるというのは変な感じだ。

 ヴィーのメイド服姿はやっぱりカワイイなー、などと思っていたら打ち合わせが始まった。


 「ユウ、半年後にロメルとリーファの婚礼式典を行う予定だ。その準備と運営をお前に任せたいと考えている。」

 「それはおめでとうございます。ところで殿下のご婚礼とあれば、公爵家の大事な催事になりますが、僕に任せてよろしいのですか?」

 「お前に任せたいのだ。」

 公爵家において近年で最も重要なイベントとなるであろう公太子の婚礼を僕が取り仕切るということは「公爵家の家臣の代表は、ヤマダユウ男爵だ。」ということを領地の内外に示すことになるであろう。

 それが僕で良いのか、ということを敢えて確認したのだ。


 「しかしな、それをお前に頼むにあたって、一つ提案しておきたい。」

 「はい、何でしょうか?」

 首を傾げる僕に、

 「婚礼の式典を取り仕切る者が独り身というのは如何なものか、という意見も出るだろう。また、自らの経験をロメルの婚礼に活かして欲しい、ということもある。」

 「はぁ‥‥?」


 アヴェーラ公爵がおもむろに立ち上がった。

 「そこでユウ、お前とヴィーの婚礼を二か月後に行うことにするぞ。そちらは私が仕切るからな。」

 「ええっ!?」

 驚いた僕は、他のメイドと壁際に並んでいるヴィーの方を見て、

 「聞いてる?」という目線を送ったが、ヴィーは「全然です。」という顔で首をブンブン振っている。

 「ふっふっふ、ヴィーも知らんぞ。私が今日決めたことだからな。」

 「ふふん、驚いたか」というような顔のアヴェーラの隣で、ロメルが済まなそうな顔をして手で謝罪の仕草をしていた。


 「ヴィーちゃん、おめでとう。」

 隣に並んだメイドから声を掛けられると、ヴィーは熱った頬を両手で押さえた。


 その声を合図にしたようにメイド達がヴィーを囲んだ。

 「ヴィーちゃん、良かったね。」

 「おめでとう。」

 代わる代わる声を掛けられると、

 「ありがとう。ありがとうなのです。」

 ヴィーもポロポロと涙をこぼしながら笑顔で答えていた。

 (ヴィーが喜んでいるならいいか‥‥。公爵様が色々注文つけて面倒くさくなりそうだけど。)

 僕は小さくため息をついてから、涙を拭いながらも笑顔のヴィーを見ていた。


     ◇    ◇



 ガシッ!

 木刀を挟んで鍔迫り合いのヴォルフとバートの二人が睨み合う。


 ヴォルフは公爵家の中庭で公爵家執事のバートと剣の稽古をしていた。これがこのところのヴォルフの日課となっている。

 先日の「力比べ大会」で二人が勝負した翌日から始まったことだ。



 バートは王都事変の時からヴォルフに目をかけていたのだが、ヴォルフの方は剣豪五指のバートに気後れして近寄りがたいものを感じていた。

 そんな二人が接近したのは力比べ大会の後、お互いの健闘をねぎらっている時に、おずおずとヴォルフがバートに声を掛けた。


 「あのう、俺に剣を教えて頂けませんか‥‥。」

 遠慮がちに切り出したヴォルフに、

 「ようやくですか‥‥、私はずっと待っていたのですよ。」

 バートは呆れた様に言った後で、直ぐに笑顔になった。


 「君は自分が亜人である事を卑下しすぎている。その身体能力の高さは亜人だからこそでしょう。特に瞬発力と‥‥野生の勘とでもいうのか、戦闘時の判断力が卓越している。それから‥‥」

 剣豪五指のバートが自分の事を褒めてくれている。それもいつになく饒舌に。


 口をポカンと開けて驚いているヴォルフに、

 「私の所へ通いなさい。鍛えてあげましょう。」

 「よ、よろしくお願いします!」

 ヴォルフが深々と頭を下げた。


 二人のやり取りを少し離れた場所で聞いていたリリィが、ヴォルフと共に深々と頭を下げていたことにバートは気付いていた。


 その日以来、稽古が続いているのだ。


      ◇

 

 「何を遠慮しているのです! 君の力で私が押し負けるわけがないでしょう。鍔迫り合いは、相手を吹っ飛ばすつもりでやりなさい!」

 「はい師匠!」


 ヴォルフが、その四肢に力を込めるとバートも押し負けそうになる。

 ふいに目を合わせた二人がそれを合図とするかのように、バッ、と後ろに飛びながら、離れ際にお互いの胴の防具に木刀の一撃を入れた。

 相打ちだ。


 このところ5本に1本はヴォルフが相打ちを取るようになって来た。

 ヴォルフの上達ぶりにはバートも驚く程だが、これは自分との鍛錬の成果だけでないことに気付いていた。


 「今日は、このくらいにしておきましょう。」

 「はい、ありがとうございました師匠。」

 ヴォルフが姿勢を正して頭を下げる。


 二人で汗を拭いながら、

 「ヴォルフ、「次」に行く前にキチンと体を休めるのですよ。」

 「はい‥‥あっ、いや‥‥な、何のことでしょうか?」

 バートから声を掛けられたヴォルフがあたふたしている。


 「私が気付かないわけないでしょう。君は殿下にも鍛錬を受けていますね。」

 「は、はい。申し訳ございません。」

 「詫びることなどないのです。きっと殿下が「私からも剣を通じて伝えたいことがある」とでもいいながら、自分の鍛錬に付き合わせているのでしょう。」

 「は、はい。その通り、‥いや、お手合わせ頂いております。」


 驚いたことに、ロメル殿下から掛けられた言葉まで一言一句当てられてしまった。

「君に無理が無ければ良いのです。励みなさい。」

 バートは、ヴォルフを鍛錬に付き合わせているのがロメルだけではないことも知っていた。


 「私からは、二刀流を伝授しましょう。私の様に小さな娘などよりも、そなた位の体格の者が使ってこそ、二刀流は真価を発揮すると思うのです。」

 ロメルと婚約して後宮に身を置くリーファは、表立って剣術の稽古など出来なかったが「剣を習い始めたヴォルフに自分の剣術を伝える」という大義を得て(作って)、ヴォルフとの鍛錬を楽しんでいた。


 そんな経緯でヴォルフは、午前中バートと、午後からロメルと、午後の休憩後から夕方まではリーファと鍛錬をするために週に3日は公爵家に通い、ウルドの代官職と共にこなす日々を過ごしていたのだ。


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