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~異世界で貴族になったので、貴族同士の決闘をします④~

    ◇    ◇


 「父上、考えましたね。これならばヤマダユウが金に飽かせて強い騎士を見つけて来たとしても、戦いづらいでしょうね。」

 今日は、ハラー男爵とヤマダユウ男爵の決闘の日だ。

 決闘の場所に指定したハラー男爵邸の庭には、数十人から百人近い大勢の男達が集まっていた。

 ハラー男爵が決闘のために集めた5人は、ファーレの街の裏社会の顔役たちだった。そしてそれぞれの顔役たちが自分の組織の構成員を連れて来ていたのだ。


 これがハラー男爵の企みだった。ユウ側がいくら強い騎士や戦士を用意したとしても、裏社会の顔役達に恨みを買ってまで勝つことは出来まい、というのだ。また大勢の構成員たちが戦いに圧力をかけるという役割を果たす。

 たとえ今日の戦いに勝ったとしても、自分の親兄弟が裏社会の者につけ狙われる恐れがあると考えれば、出場者は決闘には勝たない方が得策と考えるだろう、という狙いだ。



 「ヤマダユウ男爵達が来たようです。」

 ハラー男爵家の執事が告げると、


 ドドド

 ユウとヴォルフのバイクの音が聞こえて来た。

 ユウ達の一団は、ユウとヴォルフのバイクを先頭に3台の馬車だった。


 「なんだ。大した人数じゃねえな。」

 「ああ、奴らこの人数見たらビビッて逃げ出すんじゃねえのか?」

 ハラー男爵側の男達が笑い声をあげる中、ユウ達が男爵邸の庭に入って来た。


 ドドド‥ド

 バイクを止めたユウとヴォルフが、待ち受けるハラー男爵とセナの元へ歩いて来た。


 「良く逃げ出さずに来たな。今から謝っても許してはやらんが。」

 ハラー男爵は先日会った時より威勢が良くなっていた。決闘というシチュエーションに高揚しているのか、大人数を集めたことで勢いが付いているのかは分からないが。


 「でも、一応誤っておきますね。5人集めたのですが、ちょっと反則的なメンバーなので。」

 「何を言っているのか分からんが、今さら謝っても遅いといっているだろう。」

 ニヤニヤするハラー男爵に僕は、

 「では遠慮なく始めますか。皆さん、お願いします。」


 ユウに声を掛けられて馬車から降りてくる男達を見たハラー男爵達は息をのんだ。


 まず、今は公爵家執事を務めるが、先の大戦の英雄であり剣豪5指の一角であるバート。

 そして同じ馬車から何処かで見たことのあるハンサムな青年が下りて来た。公太子ロメル殿下ではないか。ロメル殿下も同じく剣豪5指に入っている。

 そして隣の馬車から、ものすごいオーラを放つ騎士と見られる大男が2人。一人はクマのような大男、もう一人は蜘蛛もように手足が長い長身の男。


 「このお二人は、訳あってしばらく潜伏していましたので、ご紹介しておきますね。フリード子爵家のドルクさんとバルクさんです。」


 「お、おい。ドルクとバルクって‥‥剣豪5指じゃねえか!」

 「この国の剣豪5指のうち、4人が集まっているってえのか!?」


 ハラー男爵とセナは力なく座り込んでしまっていた。


 そんな中、僕はハラー男爵が集めた手勢の中に知った顔を見つけた。

 「あ、トバクさん。来てたんですか?」

 「ああ、すいませんね、ユウ様。あっしらも商売でね。でもハラー男爵家から前金を貰ってますからね。わざと負けてとっとと帰ろうかなぁ、なんて思ってました。」

 トバク一家の頭のトバクさんが頭をかいている。


 そして後ろの馬車から降りて来たリリィの姿を見つけたトバク一家の男達が声を上げた。

 「あっ、リリィの姐さん。」

 それに気づいたリリィが、

 「あなたたち、こんな所に集まって‥‥変な悪さしたら承知しないわよ。」

 「ヘイ、肝に銘じて。」


 一緒に馬車から降りて来たリーファが驚いた顔でリリィを見ながら、

 「リリィ、お知合いですか?」

 「ち、違います。まったくの他人です!」

 慌てて首を振るリリィに、

 「姐さーん。冷てえこと言わないで下さいよ。俺ら姐さんにしめられてから、心を入れ替えて、カタギには手ぇ出さねえことにしたんですから。」

 「そ、そう。いい心がけだわ。」

 リリィは額に手を当ててため息をついた。彼らの事を知らないふりをするのは諦めたようだ。


 「どうします。やりますか?決闘。」

 僕がハラー男爵に聞くと、

 「うぐぐ‥‥」


 答えられないハラー男爵に代わって、

 「いやですよ! こんなチンピラが何百人いたって、剣豪五指にかなうわけないでしょう!」

 トバクさんが断った。

 (トバクさん。自分たちの事を「こんなチンピラ」って‥‥)


 「ゆ、許さんぞトバク!お前達には前金を払っているだろう。」

 「はあ? こんだけ手勢連れて来てやったんだから、もう十分でしょう。」

 今度は、ハラー男爵家とトバク一家が睨み合いを始めた。


 「でも俺達も久々に暴れられると思って来たのに、残念だな。」

 「ああ、そうだな。」

 ドルクとバルクも昂った闘争心を持て余して残念そうにしている。


 僕はこの場をどうにか収めようと思い、少し考えてからある提案をロメル殿下に相談した。殿下から「面白いじゃないか。」と言って頂いたので、実行に移すことにした。


 「皆さん、折角集まってもらいましたが、決闘という雰囲気では無くなってしまいましたね。しかし「ひと暴れしたい」と思っている方もいることでしょう。」

 皆に声を掛けると、クマのような大男ドルクも、うんうんと頷いている。


 「そこで、「力比べ大会」をやりませんか。相撲や腕相撲、綱引きというやり方で力比べをやりましょう。」


 「何だよ「力比べ大会」って。下らねーなー。」

 「おい、帰ろーぜ。」

 ハラー男爵側の男達は不満を口にして、中には帰ろうとしている者もいる。

 そんな彼らに僕は、

 「殿下と僕から賞金を出しますよ。それぞれの種目毎に優勝者には金貨5枚、準優勝者にも3枚出します。帰りたい人は止めませんが‥‥」


 「待ってくれ! 出ます! 出させて下さい!!」

 「単純な力比べなら金貨を貰えるかも知れねーな。」

 「でもさ、あのクマみたいなドルクっていう騎士は、ただ者じゃなさそうだぜ。」

 賞金の話を聞いて男達は色めき立った。


 「おい、何を勝手に進めているんだ!」

 文句を言って来たハラー男爵に僕が言い返そうとするとロメル殿下が、

 「ハラー男爵、君はもう引っ込んでいなさい。君のバカ息子がさらったメイドは、公爵のお気に入りのそば付きメイドだ。公爵は「決闘なんかいいから、全員しょっ引いて来い」と怒り心頭だったよ。」


 言い放たれたハラー男爵は、

 「わ、私はどうしたらよいのでしょうか?」

 すがるようにロメルを見たが、

 「まあ、首を洗って待っていたらどうかね。」

 さらに冷たく言い放たれていた。


 その後は、即席で相撲の土俵を作ったり、腕相撲の台を探したり、相当な怪力が想定される参加者でも切れないロープを探したりと忙しかった。

 なお、相撲や腕相撲は、同じルールでこの世界にも存在していた。また、綱引きは単純な力比べではないルールを説明したら「そりゃあ面白そうだ」と皆乗り気だった。



 力比べ大会は、始まった途端に大いに盛り上がった。

 その中でありがたかったのは、ドルクさんが参加種目を腕相撲一本に絞ってくれたことだ。それによって俄然みんなのやる気が出たのだ。


 人数を絞り込む予選が終わる頃には、噂を聞いた街の人達が見物に大勢やってきて、お祭りのような騒ぎになっていた。

 それぞれの競技の予選通過者の名前が張り出されると、何やら同元のような男が金を集め始めた。裏社会の連中が集まっていたので、トトカルチョが始まったのだ。

 腕相撲はドルクさんに票が集まっているが、相撲と綱引きはかなり票が割れており、トトカルチョとしては面白くなっているようだ。

 僕は「盛り上がれば良いんじゃないの」くらいにしか考えなかったが、ロメル殿下がリーファ姫と二人で難しい顔をしてその様子を見ている。


 (領内では「賭博の禁止」等の法的な取り決めは無かったはずだけど、まずかったかな。)と思い、

 「ロメル殿下、やっぱり賭け事はまずかったでしょうか?」

 恐る恐ると聞いてみると、

 「ユウ。自分が出場する場合には、自分に賭けても良いのか? それから予想するのは優勝者だけか? 準優勝者は予想の対象外か?」

 「そうですよね。そこを確認しないと、誰に賭けるか決められませんわ。」

 リーファ姫と二人で真剣に考え込んでいたのだ。


 「さ、さあ? 詳しくは同元に聞いてみましょう。」

 僕は二人を連れて同元の元へ向かった。


 その後、ロメル殿下が大金貨(百万円相当)を賭けようとしてバートさんにたしなめられたり、リーファ姫が、傭兵団の頭をしている時「砦の賭場で私は、そこそこ勝ってました。」などという自慢話をしてドルクさんにたしなめられたり、と、一番場違いと思われた二人が一番楽しんでいるようだった。



 そして大会の方は、

 腕相撲は予想どおりフリード子爵家の騎士・ドルクさんの圧勝で終わった。

 しかし、相撲と綱引きは混戦となっており、中でも綱引きは少し変則的なルールとしたため、混戦となって盛り上がった。

 綱引きは単純な引っ張り合いだけではなく、競技者がそれぞれ1m程の円の陣地内から出てしまったら負けというルールにした。

 力だけでなく老獪さが勝敗を分けることにしたのだ。


 綱引きの決勝戦を戦ったのはバートさんとヴォルフだった。勝負の結果、優勝はバートさん、準優勝はヴォルフだった。

 決勝戦では、リリィに黄色い声援を送られるヴォルフに多くの男達が羨望のまなざしを向けていた。


 そして相撲は、フリード子爵家のもう一人の騎士であるバルクさんが優勝した。長い手足を巧みに使ったテクニックを駆使してのものだった。

 自分の臣下の騎士が二人とも優勝という結果に、リーファ姫の喜びようは大変なものだった。


 リーファ姫とリリィが喜んだ結果となったことに僕と殿下も満足して、決闘騒ぎは閉幕することになった。


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