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~異世界でも仕事をさがします➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

      ◇

 

 「ところでユウ。そなた、代官をやってみないか?」

 大きなテーブルを囲んだ夕食会の席で、唐突にアヴェーラ公爵が言い出した。

「この街と川を挟んで、対岸に「ウルド」という、小さいが、国王直轄の領地があってな‥‥」

「は、母上! そこは‥‥!」

 ロメル殿下が口を挟むのを、アヴェーラ公爵が手で制した。

「少々いわくつきの領地なのだが、そなたの知恵を活かしてみないか?」


 (異世界貴族の夕食は、こんな感じなのかぁ。パンは、やっぱり固いなぁ‥‥) なんてことを考えていたので、僕は、突然の問いかけに驚いてしまった。

「で、でも、‥‥よそ者の僕に、務まるでしょうか? 第一僕なんかで、皆さんが納得しますか?」

 アヴェーラ公爵は、ユウを見つめて、苦笑いした後に困ったような表情で言った。

「実は、引き受け手がいなくてな。‥‥なにせ、二代続けて代官が不審死をとげておってな。

今は、空席になっているのだ。そなたのような者なら上手くいくのではないかと思ってな‥‥、考えてみてくれ。」


 

 「ユウ様。ご領主様からのお話は、お受けになるのですか?」

「ご主人様も、殺されちゃうかも‥‥です。」

 夕食会の後、用意された寝室で、リリィとヴィーが心配そうな顔で僕に尋ねてきた。

「いやいや不審死だって聞いたろう。殺されたのかどうかは、分からないじゃないか。」

 僕はヴィーとリリィの不安を紛らわすために、話題を変えようと部屋の中を見回した。


 「あ、あのさ、この部屋の灯りなんだけど、すごく明るいよね。城の中で通路の灯りは油を使ったランプのようだけど、この灯りはどんな仕組みなんだろう?」

 客室の灯りは蛍光灯のような明るさだ。この世界に電気は無いと思うけど‥‥。

「それは、魔石を使った灯りだと思います。私も自分で使ったことはありませんが‥‥」

「お金持ちじゃないと使えないのです。」

 リリィとヴィーが教えてくれた。せっかくだからもう少し聞いておこう。

「魔石って、どんなものなんだい?」

「ご主人様は、ご存じないのですか?」

「ああ、僕のいた国では、魔法はあまり使われていなかったからね。」

「‥‥魔法はあまり使わない方がいいのです。」

 ヴィーが不機嫌そうにつぶやいたが、リリィは続けた。

「魔石は魔力が溜まった石で、魔力がこもった特定の場所や、強い魔物の「キモ」から採取されるそうです。魔石を使うといろいろなことが出来ます。灯りや、聞いた話では、遠くの人に話をすることが出来るような魔法もあるそうです。」


 やはりこの世界には魔法があるようだ。僕がさらわれて来た時も魔法のようなものが使われたのだろう。魔法については、機会があったら少しずつ確認していこう。


 僕はアヴェーラ公爵が先に夕食の席を外した後、ロメル殿下にウルド領のことを教えていただいていた。

 ウルド領は、ファーレン領の領都ファーレと川を挟んで対岸にある領地で、ファーレの街より少し広いくらいの面積であり、領地としては小さい。

 なお、五十年前までは、ウルド領・ファーレン領ともに他国の支配する領土だったそうだ。この国の領土となった後、ファーレン公爵に下賜されたファーレン公領と直轄領として残ったウルド領に分かれたとのことだ。


 ファーレン公領となった領土には、もともと大きな街もあり領民も多かったが、それ以前の領主による圧政に苦しんでいた領民達は、ファーレン公爵による統治を歓迎したそうだ。

 一方のウルド領は、以前は農作物の収量が多く豊かな領地だったが、近年は土地がやせていく一方で、まともに国税が納められない年もあるということだ。

 そんなウルド領に中央から派遣された代官は、二代続けて私腹を肥やそうとするタイプだったそうだ。


 ちなみに「二代続けて代官不審死」の内訳は、先代が代官所の火事で焼死。先先代が川に落ちて溺死だそうだ。


 「ロメル殿下は、将来とても良いご領主になると思うんだよね。出来れば僕は、そんな殿下のお手伝いができるようになりたいんだ。 第一、この世界‥‥いや、この国でも仕事を探さないといけないしね。やってみようと思うんだ。」

 僕の話を真剣な顔で聞いていたリリィとヴィーは、

「‥‥分かりました。そのようにお考えなら、私がユウ様をお守りします。」

「あたしも。 ジン(精霊)にお願いしてご主人様を守ってもらうです。」

 二人とも胸の前でこぶしを握り締めて、鼻息荒く宣言する。

「いやいや、僕が、二人を守れるようにならないとね。」

  

 

 「ふう‥‥、たった2日の間に、いろいろなことがあったなぁ。」

 僕はなかなか寝付けなかったが、隣のベッドのリリィとヴィーは公爵相手に気疲れしたのか、2人で子猫のように丸くなって、安らかな寝息を立てている。

 僕は寝室の窓を開けてファーレの街の夜景を見た。日本の街の夜景と比べれば灯りは少ないが、ここにも人々の暮らしがある。 それならば僕にも、出来ることがあるはずだと思えてくる。

 それにラング殿下の命を救うことができたのは、僕にとって大きな出来事だった。兄ちゃんを死なせてしまった事を後悔しながら生きてきた今までの自分を、乗り越えられたような気がする。


 翌朝、僕はアヴェーラ公爵とロメル殿下に「頂いたお話、お引き受けします。」と返事をした。殿下は、心配しながらも喜んでくれた。その上で「領地運営にあたっては協力を惜しまない」と言ってくれた。



       ◇    ◇ 


 「ええっ! ユウちゃん代官様になるの? すごいねぇ。」

 翌日、湖畔亭に戻った僕たちは、ルー姉さんに事情を話した。心配かけたくないので、ウルド領のことはあまり言わないことにした。

「でもユウちゃんはさ、この国の人が知らないことをたくさん知っているし、誰にでも優しくできるでしょう。いい代官様になると思うよ。」

 ルー姉さんにそう言われて、僕は少しだけ安堵した。リリィとヴィーに心配かけたくないので表に出さなかったが、不安でいっぱいだったのだ。

 

      ◇ 


 「荷物は、これだけでよろしいですか?」

 公爵家が出してくれた馬車の御者の青年が、荷物の積み込みを手伝ってしてくれている。荷物といっても、公爵家が用意してくれた当面の生活用品がほとんどで、僕が日本から持ってきた怪しい荷物と、ルー姉さんが用意してくれたリリィとヴィーの着替えが少しあるくらいだ。


 「ユウちゃんを、助けてあげてね。」

 ルー姉さんは、リリィとヴィーを代わる代わる抱き寄せながら言って、そのあと僕の手を取った。

「いやになったら、いつでも帰っておいでね。」

(いやいや、そんなわけにいきませんから‥‥。)と思いながらも、

「ありがとうございます。行ってきます。」

 挨拶して、僕らは馬車に乗り込んだ。


  ホウッ!

 御者の青年のかけ声とともに、馬車は走り出した。手を振るルー姉さんに僕らも手を振った。


 「改めて、これからよろしくね。」

ルー姉さんが見えなくなったところで、僕は二人に声をかけた。するとリリィは、まっすぐ僕を見つめて、

「ユウ様は、私をどん底から救い上げてくださいました。私も出来る限りのことを致します。」

リリィを見て感心したようにヴィーがうなずく。

「あたしも、がんばるです。」


 僕にというより、自分でかみしめるように言った。


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