~異世界で貴族になったので、貴族同士の決闘をします③~
◇
「ユウ、すまない。後宮からメイドがさらわれるなど、前代未聞だ。しかしヴィーが無事でよかった。」
公爵家に帰ると、ロメル殿下とメイドや使用人の皆さんが僕達を心配して集まっていた。
「ヴィー、無事だったか?」
「はいです。」
そこへ駆け付けたアヴェーラ公爵とミリア姫が、ヴィーの頬に手を当てて無事を確認してから抱きしめた。
場所を応接室に移して、お茶を飲みながらハラー男爵家でのことを報告した。
「決闘だと? 何を図々しいことを。衛士隊を出して全員しょっ引いて来い。」
「いや、母上。それでユウが決闘から逃げたと思われては心外です。」
この世界の貴族は、名誉を何より大事にするらしい。
犯罪まがいの事をしておいて、名誉も何もあるもんか!と思うけど。
決闘は、一般的な貴族間の決闘ルールに従って行われるようだ。
そのルールは、お互いの貴族の当主が用意する5人の騎士が1人ずつ決闘をして、勝敗を決めるのだそうだ。
決闘は5日後、ハラー男爵家の庭で行われる事となった。
「今日は、ヴィーは連れて帰りますからね。」
「うむ、仕方あるまい。」
アヴェーラ公爵に許可を取ってヴィーとノワを連れて宿舎へ帰った。
◇
宿舎で簡単な夕食を済ませた後、僕はヴィーとお茶を飲みながら、
「ヴィー、もうどこかで結婚式やっちゃおうか?」
ヴィーは驚いて僕の顔を見ると、頬を染めてうつむいていたが
「嬉しいけどダメなのです。公爵家の皆様が私の事を考えてくれているのです。」
「じゃあ、ヴィーは僕と一緒にいられなくて淋しくないのか?」
ヴィーは僕の顔を見つめて、
「さみしいです。さみしいに決まってるのですーう。」
ポロポロ涙をこぼして泣き出した。
すると、
ミャー! ミャー!
ノワが鳴きながら、僕の膝をぺしぺし叩いてきた。
「待てノワ、別にヴィーをいじめてるわけじゃないから。」
「でもノワは、私を助けようとして頑張ってくれたのです。昼間は小さくて弱いくせに‥‥無理しちゃダメなのですよ。」
ヴィーは、泣き笑いのような顔でノワを抱き上げると、頬ずりしてから優しく抱きしめた。
「ところでユウ様、ハラー男爵と決闘しなくちゃいけないですか?」
少し落ち着いてきたヴィーが僕に聞いてきた。
「うーん、本人同士が決闘するわけじゃないんだけど、ちょっと大変なことになりそうでさ。」
僕は決闘を申し込まれた話を、ロメル殿下達に報告した後のことを思い出していた。
◇
「ユウ、決闘に出る5人の手配は僕に任せてくれないか。」
「えっ? いや、そういうことは僕が自分で‥‥」
「任せてくれないか!」
「で、ではお願いします。」
鼻息が荒いロメル殿下の押しの強さに負けて、お任せすることにしたのだ。
ユウがヴィーを連れて宿舎に帰った後で、後宮では議論が交わされていた。
「まずは僕とバート、そしてヴォルフは確定だな。」
「お待ちください。ヤマダユウ様に御恩返しする願ってもない機会ではありませんか!私を加えて下さい!」
リーファが口を出すとロメルが、
「何を言っているんだ。君の剣の腕は認めるが、女性が決闘に参加すべきではない。」
「お言葉ですが、殿下。私もリーファ様と同じ思いです。女だからと言う理由で、ユウ様に受けた御恩を返す機会を失ってしまうのは納得いきません。」
今度はリリィが口を挟んだ。
ヴィーがさらわれた事を聞いて駆け付けていたのだ。
(ヴォルフ。リリィは連れて来るなよ。)
(仕方なかったんですよ。状況を話したら「私も一緒にお話を聞きます」って‥‥)
ロメルとヴォルフがヒソヒソ話をしている。
「何をヒソヒソお話ですか? 私とリリィで残りの2人は決まりでしょう。」
リーファはリリィと目を合わせてうなづき合っている。
「待て、残りの2人は決まっている。この2人に文句があったら言ってくれ。そしてリーファ、その2人は君と同じ気持ちを持っている。」
ロメルから残りの2人の名前を聞くと、リーファもリリィも引き下がらざるを得なかった。