~異世界で貴族になったので、貴族同士の決闘をします。➁~
「ユウ様、大変です! ヴィーさんがさらわれたようです!」
市政官詰所にバートさんが駆け込んできた。
「ええっ! 誰に‥‥まさかゾーディアック卿?!」
「いえ、ユウ様。犯人は分かりました。ハラー男爵家のセナという男です。」
「ええっ! あのへなちょこボンボン野郎?!」
「ハラー男爵の家は分かりますか? 公爵家からも既に追手は向かわせています。」
「ありがとうございます。直ぐ行きます!」
僕は机の引き出しから拳銃・グロッグを取り出すと、市政官執務室を後にした。
ドドド
バイクを飛ばして、市内東部のハラー男爵家に向かうユウはヴィーの顔を思い出していた。
ヴィーには何日か会っていないだけなのに、ずっと長い間会っていない様な気がする。
(ちくしょう、ヴィーの笑顔が思い出せない‥‥)
そんなことを考えていた時、
ドドド
「ユウ様、俺も行きます!」
ちょうど公爵家に来ていたヴォルフが、話を聞いてバイクで駆け付けてくれたのだ。
ヴォルフが合流してすぐ、ハラー男爵家に到着すると、
「ユウ様!」
見知った顔の青年に声を掛けられた。
衛士隊副隊長のゾラが馬車を追って来てくれていたのだ。
「あの馬車に間違いありません。ヴィーさんはここに攫われてきています。すみませんが僕では、男爵家に入って行くことは出来なくて‥‥。」
ゾラ君も貴族の出身だが、貴族としては最下位の騎士爵家だ。拒否されれば男爵家に入ることなど出来ない。
僕とヴォルフは、ハラー男爵家の入口のドアの前に立った。
「じゃあヴォルフ。いくぞ!」
「はい!」
ヴォルフがパイソンを取り出すと、
「やれ。」という僕の声で、
ドン! ドン!
ドアのカギを撃ち壊すと、ヴォルフがドアを蹴り飛ばした。
「貴様らーっ、ここをハラー男爵家と知っての狼藉か!」
屋敷に入ると、鎧を着込んだ五、六人の騎士が僕らを待ち構えていた。
「ヴォルフ、出来れば殺すな。でもしつこかったらやっちゃっていいぞ!」
「はい!」
返事と同時に、飛びかかって来る敵に、
ドン!
ドン!
ヴォルフがパイソンで迎え撃つ。
パン、パン
僕もグロッグを撃ちながら屋敷の奥へ向かう。
「ヴィー! どこだ! ヴィー!」
僕が呼びかけると、
「ユウ様―っ!」
奥の部屋の方からヴィーの声が聞こえて来た。
ドカッ!
声が聞こえて来た部屋のドアを蹴破ると、
「ユウ様―っ!」
メイド服の上半身を引き裂かれて素肌と下着が見えているヴィーがいた。
手首をロープで縛られながらも抵抗していたようだ。
「ちっくしょう。もう来やがったのか。これから面白くなるところだったのに‥‥。」
ハラー男爵の息子のセナが「ちっ」と舌打ちしている。
「もう興ざめしちゃったから、連れて帰っていいですよ。いやー、この娘が男爵の知り合いだなんて知りませんでし‥‥」
ボグッ!
僕はセナの顔面にパンチを入れた。
ガタン!
セナはよろけて床に倒れた。
「お、お前っ! 何するんだ! 男爵家に押し入った上、僕を殴るなんて! 最近貴族になったからって、やっていい事と悪いことがあるぞ! ちくしょう。騎士たちが来たらお前なんか袋叩きだ!」
セナが泣きわめいていると、ヴォルフが入って来た。
「騎士たちは、手ごたえ無かったですよ。殺さずに済みました。」
「ええっ? 噓を言うなーっ! この亜人野郎!」
立ち上がって部屋から出て行こうとするセナに、
「ヴォルフ、折角だからお前も一発殴っとけ。 命令だ。」
「はい!」
声と同時に、
バキ!
ヴォルフがパンチをお見舞いすると、セナは数メートル吹っ飛ばされてそのままのびてしまった。
「ユウ様‥‥」
声に振り向くとヴィーが涙ぐんでいる。
「ヴィー! どうした? どこか痛いのか? ケガでもしているのか?」
ヴィーは頭を振るばかりだ。
「ユウ様、会いたかったです。会いたかったのですーっ!」
僕は、駆け寄って来たヴィーを強く抱きしめた。
自分が着ていた上着をヴィーに被せて僕達が部屋を出ると、当主のハラー男爵と見られる中年男性が立っていた。
中背子太りの普通のおじさんという感じだ。
「悪さをした息子が原因でしょうが、自分の屋敷でここまでやられたら私も黙っていませんぞ。ヤマダユウ男爵、決闘を申し込みますぞ!」
僕は決闘を申し込まれてしまった。