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~異世界で貴族になったので、街に運河を造りました➁~

    ◇


 僕は運河の完成式典の準備を本格的に始める前に、運河を中心とした街づくりの進捗状況確認のために街を回っていた。


 スラム街跡地の運河沿いには、流通拠点がかなり出来上がっていた。そしてそれに併設するショッピングモールも順調だ。ショッピングモールと言っても簡易アーケード付きテナント街だ。しかし、この規模の商店街はこれまでのファーレの街には無かったものだ。

 その中で、ひときわ大きな店舗が、「ウルド農産物直売所・ファーレ支店」だ。併設して「菓子工房ミク・ファーレ支店」も店舗が出来ていた。

 覗いてみるとミクが内装の指示をしていた。


 「ミク。準備は、はかどっているか?」

 「あっ、お兄ちゃん。お店の内装が少し遅れているかなー。従業員の準備は出来ているんだけど‥‥」

 ミクが僕に答えていると、一緒にいた女性が僕にお辞儀をした。


 (誰だろう)と考えていると、

 「ヴォルフ様に助けて頂いた後、ウルドに移りました。ネネと申します。」

 言われてみて思い出した。確かにあの時ヴォルフが助けた若いお母さんだ。病気がちのようだったが、健康になってみると笑顔が素敵な女性だった。


 「ネネさんに支店を任せようと思っているの。直売所で作ったものを売るだけじゃないのよ。ここの工房で作った出来立てのお菓子も売るの。」

 直売所の準備も順調に進んでいるようだ。


 僕は商業ギルドを通じてテナントへの出店を募集していた。「当面半年間は家賃ダダ、管理費のみ」ということにして一つだけ条件を付けた。

 「ファーレの街に昔からある物、または、ファーレの名物を売る店。」ということだ。


 このスラム街跡地は、運河の発着拠点、そして流通の拠点となることで、ファーレの街と他の街や領地との交流拠点となるだろう。とすれば、このショッピングモールは、ファーレの地場産業を発信する拠点としたいのだ。

 テナントは既にかなり埋まってきているようだ。各店舗で準備が始まっている。


       ◇


 翌日、僕は完成式典の最大の見せ場のために、ある人物と交渉を行うべくヴィーを乗せてバイクを走らせていた。


 稀代の舞姫・シリアが隣の領地に来ていたのだ。



 シリアは小さな神殿に滞在していた。

 訪ねていくと、笛を演奏する従者の青年が僕らを待っていたように迎えてくれた。

 「シリア様に「そろそろ客が訪ねてくるから迎えなさい。」と言われました。ご案内します。」


 シリアは中庭で舞の稽古中だった。

 非常にゆったりとした動きで、ひと目見ただけでは止まっているのかと思うくらいだ。ストレートの銀髪がさらさらと流れることで動いていることが認識できる。

 そして驚いたことに、舞っているシリアの肩に小鳥が止まってきた。しかしシリアはそのまま舞を続け、小鳥もシリアが舞を止めるまで留まっていた。

 小鳥は、シリアが舞を止めたのを確認するかの様に、飛び立っていった。


 小鳥が飛び立つのを見送ったシリアが、

 「久しぶりだな。ジン(精霊)がわざわざ来客を告げるので、誰が来るのかと思ったが、お前達なら納得だ。」

 「お久しぶりです。シリア様、お願いがあってまいりました。」


 僕は、ファーレの街づくりの中で基幹施設の運河の完成式典を計画していること。その完成式典で安全祈願の舞を奉納してもらいたい、ということを話した。


 「うむ、いいぞ。話は分かった。‥ところでそなた達は「けえき」という菓子のことを聞いたことはないか? 香りが良くて、甘くて、この世の物とは思えないくらい美味いらしいのだが、それを用意できないか?」

 「あ、それ僕の妹が作っていますので、いくらでも手に入りますよ。」

 「なにぃ! それもお前達の仕業なのか? それなら「けえき」を食わせてくれ。そしてまた、ヴィー、そなた達も舞うのだぞ。私が舞う前にジンを呼び込んでおいてくれ。」

 それを聞いたヴィーが、

 「シリア様に舞って頂けるなら何でもするですが、‥‥今回は難しいことがあるです。」

 「なんだ。話してみよ。」

 「うーん、見てもらわないと説明できないです。」

 「では、行ってみるか。」


 翌日、シリアにファーレの街に来てもらうことになった。


      ◇ 


 「なるほど、ヴィーはこの運河を「川と同じ様にしたい」のであろう。しかしこれは簡単ではないぞ。」

 「はい。そうなのです。」

 シリアとヴィーが水門から運河を見下ろして、頭を悩ませているようだ。


 「運河を川にするってどういうこと?」

 ヴィーに聞くと「うーん、何ていうか‥‥です。」と何か言いにくそうにしているのをシリアが引き継いだ。


 「この運河のように大きな水域を造った時は、その水域に守り手として「水精」を呼び込みたいのだ。しかし、この無骨な‥水門?があるせいで水精が怖がって入ってこないだろう。」

 「この水門は、ユウ様達が苦労して造ったのです! 悪く言わないで下さいです。」

 ヴィーがシリアに抗議すると、

 「なら、なおさらだ。お前が責任を持って水精を呼び込んで見せよ。そうすれば私が仕上げてやる。」

 「あうう‥‥。」


 二人のやり取りを聞いていても良く分からないのでシリアに質問してみた。

 「水精が運河に入って来てくれると、何か良いことがあるのですか?」

 「うむ‥‥。まず、水域という場には邪悪なものが棲みやすいのだ。そして水精が居ればそれをあらかた防いでくれる。また水精は、その水域の水をきれいに保とうとする。だからと言ってむやみに水を汚してよいわけでは無いがな。」

 シリアは、僕に諭すように教えてくれた。


 「それから水精は淀みを嫌うからな。多少なりとも流れがあった方が良いな。」

 「あ、それなら運河はファーレの街の下流側でも川に繋ぎますから、緩やかな流れは出来ます。」

 僕の計画では、運河はファーレの街の雨水排水の役目も持っているので、下流側には小型の排水水門を工事中だ。ちなみに小型の船なら通れる大きさだ。


 「あ、とりあえず式典会場も見てもらえませんか?」

 僕らは式典を行うスラム街跡地に移動した。



 「舞台はこの橋の上がいいな。出来るだけ水に近い方が良い。」

 シリアに舞台ついて指示を受けていると、

 「ねえお兄ちゃん。その人ひょっとして前話してたシリアさん?‥‥」

 支店準備のために来ていたミクに声を掛けられた。


 「スーパーモデルかと思ったけど、やっぱりスーパーな人だったのね。」

 僕らは、準備中のミクの菓子工房に向かった。



 「か、可愛いらしい店だな。」

 ミクの菓子工房は白を基調とした店内で、ショーケースでケーキを選べるカウンターがあり、店内とウッドデッキのテーブル席で飲食も出来るスタイルになっている。

 シリアはなぜか、可愛らしい店内のインテリアに気後れしているようだ。


 「す、好きなけえきを選んでいいのか?」

 興奮気味のシリアに、

 「いくつ選んでもいいですからね。」といいながら、

 (ご機嫌取っておくからね。)という顔で僕の方をチラ見するミクだった。


 シリアが、ケーキを3つ食べて満足して帰った後、僕らはウルドの代官所に向かった。


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