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~異世界で貴族になったので、街に運河を造りました①~

    ◇     ◇


 「うん、良い感じで膨らんだね。シュークリームはシュー皮が難しいんだけど、合格点だよ。」

 「ありがとうございます。」

 ミクが菓子作りを指導しているのは、ネネさんという若いお母さんだ。


 ウルド農産物直売所の隣に増設した菓子工房で、ミクはケーキを作りながら、村人や先の災厄で移住してきた人達に菓子作りの指導を始めていた。

 ネネさんは、川沿いのテント村でチンピラに絡まれていたところをヴォルフが助けたお母さんで、幼い子供と共にウルドに引っ越して来たのだ。


 ユウから「スラム街跡地に流通基地とショッピングモールを作りたいので出店してくれ」と言われていたで、ウルド直売所では「ファーレ支店」の出店準備を始めている。

 ミクはその支店にも菓子工房を併設したいと考えており、スタッフの指導中だ。中でもこのネネさんは覚えが早く、支店の工房を任せられると思っていた。


      ◇


 「この「水門」も完成間近だそうだな。ここから見下ろすと運河のある街並みが見下ろせていいな。」

 今日は運河の完成を間近に控えて、公爵家の視察を受けている。メンバーは、アヴェーラ公爵を筆頭にロメル殿下、ミリア姫、ラング殿下だ。そこに執事のバートさんをはじめとするお付きの人達がいる。

 水門は河川堤防に開口部を造って石張りの護岸で固め、そこに巨大なゲート(門扉)が設置されている。ゲートの開閉は吊り上げ式だが、もともとこの世界にも城壁のゲートを吊り上げる技術はあったので、そこに現世の巻き上げ機の技術を転用してもらったのだ。

 その水門の上から僕らは運河とファーレの街を見ていた。


 「男爵様。もうすぐ水門も完成ですよ!‥‥って、公爵家の皆様じゃないですか! 失礼しました。」

 僕を見つけて声を掛けて来た職人ギルドのドワーフ達が、公爵たちを見つけて慌てている。

 「良いのだ、気にせず続けてくれ。」


 アヴェーラ公爵は、ユウとドワーフの職人達が笑顔で語り合うのを見て目を細めた。

 「私は、ファーレの職人達の技術力を誇りに思う。これほどの物を造ってしまうとはな。」

 「ユウが来てから技術の進歩は凄いものです。しかしユウが目指しているのはさらに先です。この運河を活用した新しい街づくりだそうです。」

 ロメルは、街の中心部へ延びる運河を見て、アヴェーラ達に語った。

 「今までも川を使った舟運はファーレにとって重要な輸送手段でしたが、運河を使えば川から離れた内陸部の街の中まで荷を運ぶことができます。ユウは運河に枝を伸ばして、ファーレに「流通革命」を起こすのだと言っておりました。」


 「それがファーレにどんな利益をもたらすのですか?」

 小首を傾げるミリア姫に、

 「物を運ぶ効率を良くすることは、あらゆる産業の発展を助けることになるんだ。

例えば、色んな資材を使って物を作る工房には、資材が早く届くことは大切だし、作ったものをどんどん送り出すことが出来れば沢山売れるだろう。

ウルドの直売所で売っている野菜や加工品がファーレの街でも買えたら便利だし、街に運んで来た方がたくさん売れるだろう。肉や魚のような日持ちしない物も、直ぐに届けば新鮮なものが店舗に並べられるだろう。」


 「ふうーん。作る人も、売る人も、買う人も、みんなが便利になるってこと? やっぱりあいつ、すごいのねぇ‥‥」

 ドワーフと談笑するユウを見てミリアが微笑む。

 「しかし、ユウ様の企ての全容は、それだけではないようですぞ。私は聞いてもよくわかりませんでしたが‥‥」

 バートが、首をかしげて苦笑いした。



 一行は、運河沿いに街を見て回った。僕はミリア姫に聞いてみた。

 「ミリア様、街の雰囲気はいかがですか?」

 ミリアは、石造りの街並みと運河、そして運河にかかる石造りのアーチ橋などを見回して

 「うん。ファーレの街は元々白い石造りの建物が多かったから、街の景色に運河は良く似合うと思うわ。強いて言えば‥‥。」

 「何ですか?」

 「お花が欲しいかなぁ。もう少し運河の周りにお花が欲しい。」

 笑顔のミリア姫に向かって、

 「なんだミリア、もう少し役に立ちそうな提案は無いのか?」

 公爵は呆れ顔で口を挟んだが、

 「花かぁ‥‥。そうかもなぁ‥‥」

 僕が真剣に考え込んでいるのを見て、

 「あんまり真剣に考えないでね。」

 ミリア姫は照れ笑いしながら少し困っていた。


 大きな邸宅の前を通った時にアヴェーラ公爵が、

 「ユウ。お前、ここを買ったそうではないか。公爵家の敷地内の宿舎では嫌なのか?」

 僕は最近になって、とある貴族が所有していた運河沿いの大邸宅を購入していた。


 「えっ? それって私達がよく押しかけるのが迷惑だってこと?」

 ミリア姫は、手を繋いで歩いていたラング殿下と顔を見合わせていた。ラング殿下も「そうなの?」という顔で僕を見上げた。


 「違いますよ。ここはホテル‥‥いや、大きな宿屋にするんです。そのために内部は改装中です。」

 僕はラング殿下に微笑みながら答えた。


 「こんな大きな宿屋を造っても客が入りきらんだろう。庶民相手の宿屋とも思えんし‥‥」

 この国には高級ホテルというようなカテゴリーの宿屋は無いようだ。貴族が旅をする場合は、知り合いの貴族の屋敷に泊めてもらう方が寝室も食事も無難だからだ。

 現在準備中のこのホテルでは、スラム街から移住した中で比較的礼儀正しい女性や子供たちを選んでホテルマンに育成するため特訓中だ。

 礼儀作法を教えてもらうために公爵家に勤めるメイドや使用人達に交代で研修講師として来てもらっている。



 僕はこの機会に公爵家の皆さんに、この先の構想を話しておくことにした。

 「僕の考えるファーレの街の未来は、運河の流通によって産業が発展するだけじゃないんです。

 きれいな街並みと運河を活かして、わざわざ訪れたくなるような街にしたいんです。運河には、定期船の他、遊覧船も出すつもりです。そしてスラム街跡地には、ウルド直売所の支店や色々なお店に出店してもらう商店街を造ります。

 国中から‥‥いや、よその国からも多くの人が訪れたくなるような街にしたいんです。」

 (「国際観光都市」という概念が通じれば、もっと説明しやすいんだけど。)


 「ユウ、随分と大きく出たな。しかし楽しみだ。」

 うなずくアヴェーラ公爵に、伝えておきたいこともあった。

 「運河建設は支出も大きいですが、税収も上向きになっているはずです。スラムを出た人の多くが、今はきちんと領民登録をして、税金を納めているはずです。」

 ロメル殿下も笑顔で大きくうなずく。しかし公爵が、

 「ああ、それは認めよう。しかし、これからだな。運河工事が終わったら仕事がなくなるのではないか?」

 「運河を皆が使うようになれば、人を乗せる定期船や輸送船の船員、それに関連する仕事に従事してもらう人が沢山必要になります。そのためにも完成した運河を領内外の人にお披露目して、運河が出来たファーレの街のすばらしさを沢山の人に宣伝する必要があります。」

 「ふむ、ユウ様の得意そうな企てになりそうですな。」

 バートさんが顎に手をやりながらうなずく。


 「はい。運河の完成を祝う完成式典を大々的にやりたいのです。」


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