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~異世界で貴族になったので、上司の縁談も進めます⑤~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

        ◇


 「リーファ様がお見えになりました。」

ファーレン公爵家のメイド達に緊張が走る。

リーファ姫は取り潰されたフリード子爵家の一人娘だ。ロメルに見初められて挨拶にやって来たのだ。


 公爵家ではここ数日、この件で急転続きとなっていた。

一時は「待ちに待ったロメル殿下に春が来た」と皆色めき立ったが、ここ数日はそれも表立って祝うことが出来ない。


 アヴェーラ公爵がこの話を快く思っていないようなのだ。このためリーファ姫を歓迎する度合いを図りかねているメイドや使用人達も少なくなかった。

しかし、この空気を打開すべく動いている者もいた。


 「リーファ!」

「ミリア様!」

ミリア姫は、王宮での礼儀見習い中に、色々教えてくれたリーファをとても気に入っていた。このためフリード子爵家が取り潰しにされた時には、「リーファを迎えに行きたい」と大騒ぎになったそうだ。


 一方リーファも、文武両道を旨とする子爵家で育てられたため、幼少のころから剣術に打ち込んでいた。ミリアと違って礼儀作法もしっかりしていたが、社交界の話題ばかりの同年代の少女達に違和感を感じていたため、自由奔放なミリア姫をとても好ましく思っていたのだ。


 「ごめんなさい。あなたが大変な時に駆け付けられなくて。私はあなたの味方だからね。絶対あなたの味方だからね!」

「ミリア様! ありがとうございます。」

2人は久しぶりの再開を喜んで抱き合った。


 リーファの到着時にミリアが見せたこの態度が、公爵家の使用人たちの身の振り方を一定決めさせたのは間違いない。

(お見事です。姫様!これで少なくとも表面上はリーファ様を歓迎しないものは居ないでしょう。)

ミリアのそば付きメイドのマリナは、見えないように小さくガッツポーズをしていた。


 その後リーファは、ロメルとの再会を喜び合ったが、この後いよいよ難関を迎えることとなる。

アヴェーラ公爵との謁見だ。


 場所は謁見の間が使われることとなっていたが、これにも「ひと揉め」あった。

ロメルは「領主が身分の低い者の話を聞いてやる」ための謁見の間を使うことに反対して、貴賓室を使うべきだと主張したのだ。

 結局「謁見の間でしか会わん」という公爵の主張により、謁見の間が使われることになったのだ。



 「そなたがリーファか。私がアヴェーラ・ファーレン公爵である。」

謁見の間の玉座からアヴェーラ公爵が声を掛ける。


 「はい。今はフリード子爵家はございませんが、リーファ・フリードを名乗ることをお許しください。」

ロメルとミリアは、はらはらしながら見守っていたが、リーファは落ち着いて対応している。

リーファの側近の二人も同様で、後ろに控えて落ち着いている。


 「私はロメルの正室としては、貴族の者しか認めないつもりだ。」

公爵の言葉を聞いたロメルが立ち上がると、すかさずバートが歩み寄り、

「リーファ様を信じてお任せなさいませ。」という言葉で着席させた。


 「はい。公爵様のお立場からすれば、それが当然かと思います。ただ、少しだけ猶予を頂きたく存じます。ロメル殿下から、身に余るお言葉を頂きましたが、恐れながらお返事に少し猶予を下さい。今の私には、その資格がありません。」

 アヴェーラ公爵は「ほう」とつぶやいて、玉座から降りて来て、リーファの正面に立った。


 「分った。待とうではないか。して、どのくらい待てばよいのか?」

「半年ほど‥‥お待ちいただけませんか?」

「やむを得んな。待とう。」

「ありがとうございます。」

 深く頭を下げるリーファに公爵が歩み寄り、ボソッと言った言葉は、リーファだけにしか聞こえなかったが、その言葉に驚いて目を丸くしたリーファは、もう一度深く頭を下げたきり、しばらく頭があげられなかった。


 アヴェーラ公爵は、リーファが頭を下げたまま謁見を終了して部屋を出て行った。


     ◇


 「すまない。本当にすまない。」

後宮の客室でロメル殿下が、リーファ姫に謝っていると、

「御心配には及びません。私は大丈夫です。」


 僕は公爵家の家臣にはなったが、公爵家の家族ではないので今回の謁見には立ち会えなかった。なので謁見が終わってから合流することにしていた。


 リーファ姫に詫びているロメル殿下の様子を見て、僕はミリア姫に話を聞いてみた。

「謁見は、どんな感じだったんですか?」

「どんなも何もないわよ。最悪よ。お母様って最悪! もう大っ嫌い!」

泣きべそをかきながら文句を言っていた。


 「ミリア様、そんなこと言わないで下さいまし。アヴェーラ公爵は私が思っていた通りステキな御方でした。今は多くを申し上げられませんが‥‥」

「リーファ、あなた何ていい子なのーっ!」

ミリア姫がリーファの手を取って感激している。


(ふーん。これは、アヴェーラ公爵の話も聞いておいた方がいい感じだな。)

僕は公爵の様子を見に行くことにした。



 アヴェーラ公爵の私室に向かうと、部屋の扉の前にはバートさんが立っていて「しばらくは、ご容赦ください」と小声で告げられた。

バートさんに話を聞くと、

公爵はうな垂れて私室に戻って来ると、ため息をつきながら「しばらく一人にしてくれ」と言ったそうだ。


 僕とバートさんは、しばらく部屋の外で待っていた。

「ところで、バートさん。リーファ姫の側近の二人は凄く強そうですね。」

「ああ、ドルクとバルクですね。あの二人も先の大戦以降、王国剣豪5指に数えられています。」

「やっぱり‥‥この前見た時は何かパッとしませんでしたが‥‥。」

「はい。傭兵団として潜伏していた時には、呪縛をかけて「愚鈍者」となっていたようです。あれほどの猛者が‥‥、自尊心よりも姫を隠すことを優先したのでしょう。従者の鏡です。」

「でも殿下と結婚して、あの二人が姫に付いてきてくれたら、剣豪5指のうち4人揃っちゃいますね。ファーレン公爵領に、武力が偏っちゃうんじゃないですか?」


 「おい、人の部屋の前で何を物騒な話をしておる。中に入れ。」

ドアが開いてアヴェーラ公爵が顔をのぞかせた。


 部屋に入ると公爵は、部屋着に着替えていた。


 「私に何か用か?」

「アヴェーラ様にお伝えしておきたいことがありまして。」

「何だ? 今日はもう政務はせんぞ。」

「はい。私が勝手に話しますから、聞いて頂ければ結構です。」

僕は、これからフリード子爵家に着せられた不正の疑惑を晴らすために、やろうとしている作戦の概要を説明した。公爵は、目を閉じてしばらくその話を聞いていたが、途中でそば付きメイドを呼び、お茶を入れさせていた。


 僕の説明を聞いた後、公爵は呟くように話し始めた。

公爵に嫁いで、3人の子供に恵まれたが、公爵はラング殿下がお腹にいる時に病気で亡くなってしまったこと。

 その後すぐに魔国との戦が始まり「もうだめか」と思った時、「私に母上の苦労を分けて下さい」として、ロメル殿下が申し出てくれたこと。そしてそれが本当に心強く、嬉しかったこと。

 ロメル殿下が総大将として戦う姿は、本当に頼もしかったこと。


 これらを話してから、僕に言づてを託した。

「リーファに伝えてくれ。ロメルをよろしく頼むと。ロメルは自分の考えを中々言葉にしない子だが、一旦口にしたことは絶対に曲げない。融通が利かないところがある。しかし、リーファのいうことなら聞くだろう。必要だと思った時には助言してやってほしい。と。」

「分りました。間違いなく伝えます。」

そして僕が部屋を出ていくときに、

「先程の企て、くれぐれも頼む。ロメルとリーファが想いを遂げられるように。」

 公爵の言葉に僕は深く頭を下げてから部屋を出た。



 後宮の客室に戻ると、お茶会になっていたので合間を見て、リーファ姫に話しかけてみた。

「先程、公爵様とお会いしてきました。少しお話をさせて頂いてよろしいですか。」

「実は私も先程、公爵様からそっと言われたことがあります。公爵家の方にはお話ししない方が良いと思い、お伝え出来ずにおりますが。」


 リーファ姫は先程の会見の際、最後に公爵に耳うちされた言葉を、そっと僕に教えてくれた。

「「がんばれ。私もそなたを待っている。」と言ってくださいました。私は涙が溢れて、しばらく顔が上げられませんでした。」

「そうですか。私が託された言付けは‥‥」


 リーファ姫は公爵からの言伝てを聞くと、涙を一筋流してから、輝くような笑顔で大きくうなずいた。


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