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~異世界でも仕事をさがします~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

       ◇    ◇


 「ホントに、あたしが一緒に行っても大丈夫ですか?」

 自分の胸に手を当てて不安顔のヴィーに、公爵家執事のバートさんが優しく微笑みかける。

「大丈夫ですよ。むしろ是非とも、ご一緒して下さい。きっと私どもの主人は喜びますよ。」

「そうだよ。僕も一人で行くのは、心細いしさ。」

 ファーレン公爵から招待された僕達は、迎えの馬車で公爵の居城へ向かっている最中だ。

 僕は出かけるにあたって、リリィとヴィーの二人を置いていく事に不安を感じていたが、それを察してくれたのか執事さんは、二人の同伴を進めてくれたのだ。


 「でも、こんな身なりで大丈夫でしょうか? それに‥‥」

 リリィは、思い切ってという感じで続けた。

「私たちは、ユウ様に買っていただいた奴隷なのです。この服も、先ほどの宿屋で用意していただいて‥‥。」

「そういうことでしたら、‥‥ユウ様さえよろしければ、「お供の方」というご紹介にしましょう。 それに‥‥」

なんとなく、執事さんの歯切れが悪い。

「お二人には、城に着いたら、‥‥お着替えいただくことになります。こちらの指定のお召物になってしまうと思いますが‥‥。」


 馬車は湖畔亭を出てファーレの街にある城に向かって走っていた。湖畔亭を出てすぐ池の反対側は、ファーレの石造りの街並みに面している。

(この辺りを、逃げ回ったんだよなぁ‥‥)

 僕が手の平に残る痛みとともに、いやなことを思い出していると、

「あれが、公爵の居城です。」

バートさんが、馬車の窓から見える城を指さした。

いくつもの尖塔がそびえる、石造りの大きな城が見えてきた。


     ◇ 


 「異国の賢者・ヤマダユウ様、お着きでございます。」

 城の中を案内され、「謁見の間」に通された。奥が一段高くなった玉座的な椅子には、きれいな女性が足を組んで腰掛けていた。

 年の頃は四十歳前後くらいだろうか。ウェーブのかかった豊かな黒髪、はっきりした顔だちの女性は、椅子から立ち上がると僕たちのところまで歩み寄って来た。


 「良く来た。 異国の賢者・ヤマダユウ。 領主のアヴェーラ・ファーレンである。」

 すると脇から、たたっ、と、十歳位の少年が駆け寄り、女領主が愛おしそうに両手を繋いでから抱き寄せた。僕が助けた少年だ。

「私の末の息子、ラングの命を救ってくれたことに感謝する。」

 脇に控えるバートさんの方を見ると、「そうなんですよ」というように、にっこり笑って軽く会釈していた。


 「ところで、この二人が、そなたの供の者か?」

 事前に話を聞いていたのか、アヴェーラ公爵がヴィーとリリィの方を見た。二人とも城に着いてすぐ着替えさせられたドレスを着ていた。ヴィーは、小麦色の肌に映える淡い黄色のドレス。リリィは、白い肌が引き立つ紺色のドレスだった。

「うん、うん、良いではないか。 二人とも可愛いいぞ。バート、良く連れて参った!」

 アヴェーラ公爵は、ヴィーに歩み寄って手を取ると、抱き寄せようとしたところで割って入った執事のバートさんにいさめられる。 ヴィーも驚いて後ずさりしながら、

「公爵様が、あたしなんかに、‥‥ダークエルフなんかに、触れてはダメなのです。」 


 アヴェーラ公爵は、ヴィーを追うようにして手を取り、僕たちの方を見た。

「良いか皆の者。ダークエルフがこの国で忌み嫌われているのは、根も葉もない噂のせいだ。先の大戦で、「敵方に組した魔物の手引きしたのが、ダークエルフだった。」 という出所も分からない噂のせいなのだ。だからそなたは引け目なぞ感じる必要もなく、幸せに暮らしてよいのだ。」

「は、はい‥‥です。」

 漫然と微笑む公爵に、ヴィーが戸惑っていると、「そなた本当にかわいいなー。私の後宮に来ても良いのだぞ。」などと言って再び執事にいさめられる。


 

 「先程は母上が失礼した。私が詫びる。」

 苦笑いする青年は、公太子のロメル殿下。僕と同年代か、少し年下位だろうか、母親とは異なる銀髪だが、掘りの深い顔立ちはよく似ている。笑うと白い歯が光る美青年だ。

 場所を、迎賓の間に移し、茶会を開きながらの歓談になっていた。

「母上は、可愛らしい娘が大好きなのだ。執事のバートもそれが分かっていて、無理を言って連れてきたのであろう。すまんな。」

「いえ、そんなことありませんよ。ご安心ください。」

 僕が、笑顔で答えると、

「ほらぁ、無理に連れて来た訳ではなかろう。」

 僕らの会話に割って入った公爵は、恐縮するリリィとヴィーを自分と相向かいのソファーに座らせ、「私にも娘がいるが、全然いうことを聞かぬ。それに比べてお前たちは可愛いなー。」などと自分の話につき合わせている。


 「君と、話したいことがあるのだが、良いか?」

「はい、僕なんかでよかったら、どうぞ。」

 僕と殿下は、テーブルを挟んで向き合っている。

(市役所の「何でも屋」の僕の話なんかが、役に立つかどうか、分からないけど。)

 領内の政策課題に悩むロメル殿下に、「「異国の賢者」とやらを招待するから、話をしてみよ。」と提案したのは、アヴェーラ公爵だそうだ。


 ロメル殿下の話は、領地の整備にかかる話が主で、河川における治水工事の手順についてや、街道整備の優先順位および資金確保のための、通行料徴収の対象等だった。僕は、大学で土木工学を学び、市役所で建設部の手伝いをすることが多かったので、自分なりの考えで、殿下にお答えすることが出来た。

 僕たちは、領内の政策について夕暮れ近くまで話し合った。殿下は封建社会であるはずのこの国で、驚くほど民衆の立場で政策を考える方だった。僕はそのことに好感を持った。

「こやつは、領主の仕事に理想を求めすぎているのだ。」


 アヴェーラ公爵は、皮肉を込めて言いながらも、議論する二人を優しい笑みで見つめていた。


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