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~異世界で貴族になったので、上司の縁談も進めます④~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

    ◇    ◇


 「姫さ‥お頭ぁ、元気出してくださいよ。」

「なによ。私は元気よ。」

ヴァルキューレ傭兵団の砦の庭では、リーファの事を気遣って皆が声を掛ける。

「お頭ぁ、俺ぁね。ロメル殿下は、また来てくれるんじゃねぇかと思うんですよね。」

「な‥! 変な事言わないでよ! あんな人の事なんかもう忘れちゃったわよ!」


 リーファは、急ぎ足で砦に入ってドアを閉めた。

(まったく、みんなでなによ! あんな人の事なんか‥、忘れ‥‥られたら、苦労しないわよ。)

大きなため息をついていると、側近のクマのような大男が駆けて込んで来た。


 「姫様! 大変です。ロメル殿下が、ロメル殿下がいらっしゃいました!」

「あ、あなた!つまんない冗談言ってると許さないわよ!私はあんな人の事なんか忘れたって言ったでしょう! もうあんな人の事なんっっか、忘れたの!!」



 傭兵団の砦に到着した僕らの耳に聞こえて来た、リーファ姫の第一声に、

「ちょっと‥‥厳しいかも知れませんね。」

ダメージを隠せないロメル殿下に僕が声を掛けていると、


 「何言ってんのよもう!怒るわよ!」

勢いよくドアを開けてリーファが飛び出してきた。


 「ロメル殿下‥‥」

砦のドアを飛び出して来たところに本当にロメルがいる。

リーファは、驚きで声が出そうになって口元を両手で押さえたが、代わりに涙がポロポロ出て来てしまった。

それを見たロメルが姫の目に進み出た。

「リーファ姫。私はお詫びに来たのだ。私は‥‥私は初めて見たときから君の瞳に恋をしていたのだ。それなのに、この前は君にそれが伝えられなかった。私に、もう一度‥‥」

そこまでしか言葉が続けられなかった。


 リーファ姫がロメルの胸に飛び込んで来たのだ。


 

 砦の中で側近の二人にも加わってもらい、改めて挨拶することにした。


 リーファ姫をロメル殿下に正式に嫁がせるためには、フリード子爵家の汚名を晴らしてからでなければならない。そして出来れば子爵家を再興させた上で、としたい。

 そんな大事な相談をしている間中、リーファ姫はロメル殿下にピタッと寄り添っていて、周りの僕らが何か余計な話で2人の邪魔をしているかのようだった。


 「気にせず続けてくれ。」

 今回一番の大仕事を終えたロメル殿下は、リーファ姫の肩を優しく抱いて満足げにしている。

仕方ないので僕から、リーファ姫と二人の側近に今後の事を説明した。リーファ姫に公爵家に挨拶に来てもらうことと、その後、王宮で行う作戦を説明したのだ。


 リーファ姫は、僕の説明を聞いて驚いていたが、(さすがにこの時は殿下から離れた。)

「どうかよろしくお願いいたします。」

 二人の側近とともに深々と頭を下げてくれたので、僕も恐縮してしまった。


 「それではファーレン公領でお待ちしています。」

挨拶するとリーファ姫は、ロメル殿下に駆け寄って抱擁した後で名残惜しげに離れた。


      ◇


 「リーファ姫を置いてきてしまって良かったんですか?」

「仕方なかろう。若い娘を一人で連れてきてしまうなど、まして良家のご息女だからな。

それと、母上への根回しをこれから考えなければならないからね。」

僕らは街道沿いの茶屋で休憩していた。


 「ヴォルフ。君は二人の側近を見てどう思った?」

ロメル殿下に意見を求められると、ヴォルフは少し考え込んでから、

「体の奥底に大きな力を感じました。大きな力があるのに、体の奥底に押し込めて隠すようにしている、とでもいうのでしょうか‥‥」

「さすがだね。的確な見立てだ。彼らは、フリード子爵家側近の騎士でドルクとバルク。この国の剣豪5指に入ると言われていた二人だ。」

「そんなすごい人達だったんだ。」

単純に驚いているだけの僕とは違い、ヴォルフは少し考えてから、

「‥‥呪縛‥でしょうか?」

「ああ、私も同意見だ。姫の身を隠すために、自分たちに呪縛をかけてまで目立たないようにしたのだろう。早く彼らの身も解放してあげたいものだ。」


 『呪縛』

 この世界には人を縛り付ける呪いが存在する。例えば奴隷に駆ける「隷属」の呪縛。

ロメル殿下によれば、あの二人は物凄いオーラを発する「狂戦士(バーサーカー)」と呼ばれるほどの騎士だった。それが「愚鈍」の呪縛を自らにかけさせて、力を封印して目立たなくしているようだ。


 子爵家が取り潰されても忠義を果たそうとする。リーファ姫は慕われているようだ。

「頑張りますよ。フリード子爵家の汚名を晴らせば、あとは上手く事が運ぶと思っていますから。」

「ああ、もちろんだ。頼むぞユウ。」


    ◇     ◇



 「許さんぞ、そんな話。」

「母上、私は決めたのです。リーファ姫を妻に迎えます。」

ファーレン公爵家後宮では、アヴェーラ公爵とロメル殿下がテーブルを挟んで口論していた。


 「貴様は自分の立場が分かっておるのか。順位は低いとはいえ、王位継承権も持つ公爵家の嫡男だぞ。身分を失った元子爵家の娘など‥‥許さん!」


 僕は先程からロメル殿下の後ろに控えて座っている。

2日前、僕らはファーレン公領に戻って来た。戻ってすぐに殿下は、公爵に自分の考えを伝えたのだが、ずーっとこんな調子だそうだ。


 「ユウ、今回はお前の出番は無いぞ。公爵家の問題だからな。」

アヴェーラ公爵は、「お前は口を出すなよ。」と言わんばかりにけん制してきたので、

「では公爵様、フリード子爵家が再興出来たら、ご判断はいかがですか?」


 アヴェーラ公爵は、少し考えてから、

「子爵家では少し物足りないが、愛する息子のわがままを聞いてやろう。しかし、フリード子爵家の再興など簡単に言うな。出来るワケが無かろう。」

(予想どおりとはいえ、ちょっとヤバいですね殿下。)

(そうだな。もう明日にはリーファ姫が挨拶に来るからな。)


 「貴様ら、何をコソコソやっておるか。私はもう行くぞ。」

席を立ったアヴェーラ公爵を見送った僕達は、小さくため息をついた。



     ◇     ◇


 「わぁ、やっぱり大きな街ですねー。」

「そうですね。ファーレは王国内でも王都に次いで二番目か三番目くらいの大きな街ですからね。」

「あ、あの高い尖塔が大教会の尖塔じゃないですか。」


 リーファ姫と側近の二人がファーレに到着した。

公爵家には「用事を一つ済ませてから、城に伺います。」と伝えてあった。三人は用事を済ませるためにファーレ大教会に向かっていた。


 リーファ姫はファーレの街は初めての様子で、キョロキョロと見回しては「すごい。すごい。」を連発している。

そうこうしているうちに、大教会の入口「大階段」のすぐ下まで来た。

「じゃあ、行きましょうか‥」

3人が階段を上ろうとした時、

「ちょっと待ってよ。」

若い男から声をかけられた。


 「お嬢さんは、どこかの田舎から出て来たのかな?」

「俺達がファーレの街を案内してやるよ。」

振り向いてみると、いかにもチャラそうな3人組の男達がいた。


 「そんなデカいだけのおっちゃん達とじゃあ、つまらねえだろう。俺達が案内してやるよ。」

 アハハ!


 笑う男達のところに、クマのような大男ドルクが歩み寄り、

「すまんが、今は急いでいる。教会の用事は直ぐ済むから、その後にしてくれんか。」

そう言って頭を下げた。


「アッハッハ!デカいだけでだらしねーな! じゃあ待っててやるから早く用事を済ませて来いよ。その後であっそぼうねー。お嬢さーん!」


 チャラい三人組の笑い声を背中に受けて、リーファ姫一行は大教会の階段を昇って行った。



 およそ一刻(一時間)後、

大司教に会って来たため、身なりを整え直していたリーファ姫が大階段を降りて来た。

その姿を見たチャラい3人組が、

「何だよーッ!おめかしして来てくれたの?」

「すっごいキレイだったんだね君!」

「待ってて良かっ‥‥」

大騒ぎを始めた3人組が、騒ぎを止めた。


 リーファ姫の後ろから、ものすごいオーラをまとった大男が2人降りて来たのだ。

先刻も確かに大男を2人連れていたが、どう考えても別人だ。名のある騎士なのだろうか? 迫力がものすごい。


 「用事を済ませて来たが、君たちは俺達の主人に何か用があるのか?」

「な、何でもありませーん!」

3人組は慌てて逃げて行った。


 「ドルク、バルク‥私のために、バカにされても、侮られても‥‥それでもずっと我慢して。今までごめんなさい。そして‥‥ありがとう。」

それを聞いた2人の大男が、リーファ姫の前でひざまづいた。騎士の敬礼だ。


 大教会を訪れた「用事」は解呪だ。リーファ姫の潜伏に支障をきたさないようにとドルクとバルクの2人は自らに「愚鈍」の呪縛を掛けていた。今日はその解呪のために教会を訪れたのだ。

大教会の大階段をバックにしたこの光景は、何かとても神聖な光景に見えたようだ。礼拝に来た老夫婦が手を合わせて一礼している。


 「あっ、往来のお邪魔みたいだから、どきましょう。」

注目されていることに気付いたリーファ姫が、照れながらの笑顔で二人の手を取った。


 姫の笑顔を見たドルクは、

(ロメル殿下、ありがとうございます。これから伺いますぞ。)


 教会から見える公爵居城の尖塔を見上げた。


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