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~異世界で貴族になったので、上司の縁談も進めます③~


      ◇      


 「そんなことがあってな‥‥。」

ロメルは、辺境の森での出来事をユウに話終えると、大きくため息をついた。

「姫の心根を図りかねているのだ。」

困ったようなロメル殿下の顔を見て僕は、

「ロメル殿下は、リーファ様に「顔に傷をつけてしまった責任を取ってめとりたい。」と言ったんですね。」

「うむ。」

「リーファ様には「めとりたい」理由は、それしかお伝えしていないのですか?」

「うむ、そうだ。その後、締め出されてしまったからな。」


 「ところでロメル殿下は、本当にリーファ様を妻に迎えたいと思っているのですか?」

「何を言い出すんだ。ユウ。当たり前だろう。」

「顔に傷をつけてしまったからですか?」

僕はわざと少し意地悪そうに聞いてみた。するとロメル殿下は少し憤慨したように、


 「それはあくまでもきっかけだ。私は気が付いたのだ。どうやら私は初めて会った時からリーファ姫の、あの美しい瞳に魅入られていたのだ。そして剣を合わせて知った、あの太刀筋も、見事であった‥‥」

目を閉じてうなづいている殿下を見て、

「後半の話はともかくとして、リーファ様をお慕いしていることは間違いないんですね。」

「うむ。そうだ。先程からそう言っているだろう。」

殿下は「君は何を聞いていたんだ」と言わんばかりだ。


 「それをリーファ様にお伝えしましたか?」

「いいや、先程も伝えた通り、その後、締め出されてしまったからな。」

「では、リーファ様には「そなたを傷物にしたから、めとりたい」ということしか、伝わっていないのですね。」

僕の言葉に殿下は、僕をキッと睨んで「ユウ、君は何て失礼なことを‥‥」と言いかけて、ハッとした顔になり、その後テーブルに額がくっ付く程にうなだれた。

「そうだ‥‥、私はなんという愚か者なのだ。」


 バートさんが小さくため息を付いてから、

「殿下、過ぎた時は戻せません。元々ユウ様にご相談する予定だった話をしませんか?」

「‥うむ、そうだな。」

蚊の鳴くような声というのは、こんな声なのだろう、と思うような声だった。


 「仕方ありませんな。殿下が回復するまで、私がご説明しましょう。

先程のリーファ様のフリード子爵家もそうですが、投獄されているグラベル伯爵が宰相の時に『見せしめ』に取り潰した貴族の家がいくつかあります。中にはあらぬ疑いを掛けられた者がいるようなのです。」

「ああ、そういえばそんな話もありましたね。」


 グラベル伯爵は、宰相の時に自分に抵抗する勢力をけん制するために、いくつかの貴族の家を取り潰したということを聞いていた。

王宮は、今後の貴族達との良好な関係づくりのためにも、グラベル伯爵悪事の経緯を確認しておきたいのだが、投獄したとはいえ宰相に任命して政務を任せていた人物を拷問にかけるわけにもいかず、当のグラベル伯爵もこれ以上悪事が発覚するのを防ぐため、黙秘をしているというのだ。


 「フリード子爵は、国税を横領したことになっていますが、彼がそんなことをするとは思えないのです。」

「フリード子爵は、あらぬ疑いを掛けられて貴族の座を追われたと‥‥。ところでフリード子爵ご本人はどうされたのですか。」

「ご自身の潔白を訴えながら、病で亡くなられました。…奥方を既に亡くしておりましたから姫を残して、さぞ‥‥無念だったと思います。」

バートさんが噛みしめる様に語った。


 僕とバートさんの話を聞きながらロメル殿下が復活してくる様子だったので、

「ロメル殿下、フリード子爵家の無念を晴らしたいと思いませんか?」

そう声を掛けると、

「出来るのか!」「出来るのですか!」

ロメル殿下とバートさんがハモった。


 「ユウ、何か考えがあるのなら、聞かせてくれないか?」

すっかり立ち直った様子のロメル殿下に聞かれたので、

「いくつかのやり方が、思いつきますが、例えば僕のいた世界の技術を使って‥‥」

僕は思い付いた提案を説明した。



 「もしもそんなことが出来るのなら、上手くいきそうだな。」

「面白いですな。」

僕の提案は、ロメル殿下にもバートさんにも好評のようだ。


 「ですが、このためには前提条件があるのを分かっていますね。」

僕とバートさんが、殿下の顔を見た。


 「リーファ姫に、きちんとロメル殿下の気持ちをお話しして、少なくとも仲直りしておいて頂かないといけませんね。」

僕に続いてバートさんが、

「殿下、以前ユウ様は公爵様と姫様が待ち受ける後宮に、ヴィーさんをお迎えに来ました。男というのはやらねばならない時があります。」

バートさんの顔を見ると面白がっているようだ。

僕からも、

「ロメル殿下の言葉にリーファ様は、傷ついて自信を失っているかもしれません。」

「そうだな‥‥」

ロメル殿下が握りしめた拳を見つめている。もう一押しだ。

「このままでいいんですか? リーファ姫を傷つけたままで?」


 ガタッ!

ロメルが立ち上がって拳を握りしめて、

「ユウ、今すぐ辺境の森へ向かうぞ!」

「いやいや、今日はもう遅いので明日にしましょう。」


 今度はロメル殿下をなだめるのに苦労した


     ◇


 翌日、僕はウルドの代官所に行ってヴォルフに同行を頼むことにした。いくら強くてもさすがに公太子殿下と僕だけでは、何かあったら大変だ。そしてヴォルフを含めた僕ら3人には特別な移動手段がある。


 先日殿下がファーレン公領に帰って来た時に、僕は殿下にバイクを贈っていた。僕らと同じローライドタイプの大型バイクだ。街を一緒に回ってもらう時などに便利だからだ。

殿下は時々一人で練習していたようだが、本格的なツーリングは今回が初めてとなる。


 王都よりもさらに遠い辺境の森までは、馬車で行ったら5日以上はかかってしまうが、バイクならその半分の時間で行けるだろう。


    

    

 「ミク、ちょっと相談があるんだ。」

 代官所に来ていたミクに、ロメル殿下とリーファ姫のいきさつを話すと、

「へーっ‥。 でお兄ちゃんは、そのリーファさんの応援をするわけ?」

「ロメル殿下の応援だよ。」

 ミクは「フン」と鼻を鳴らして黙ってしまった。


 「怒ったのか?」

 深刻な顔で、黙り込んでいるミクが気になって声を掛けてみると、


 「‥‥グラベル伯爵が私の予知能力を使って、不幸にした人がいるのかなぁ? リーファさんのお父さんもそれで追い込まれたのかなぁ?」

心配顔で僕を見上げる。

「そんなことは無いと思うよ。もしミクの力を悪事に利用したとしても、ミクは知らなかったわけだし‥‥」


 「ねえ、私にも応援出来ることって無い?」

「あるよ。むしろミクと僕にしか感覚が分からないところがあるんだ。」

僕は、フリード子爵家の無念を晴らすための作戦をミクに話した。


 「それ、あたしやったことあるよ! サークルの子達とハロウィンで。やらせて、あたしにやらせて!」

「じゃあ頼むよ。」

「まっかせなさい!」


 ミクに頼みごとを済ませると、用意して待っていたヴォルフと合流して、僕は公爵居城へ向かった。



    ◇     ◇

 


 「ユウ、水門も随分進んできたな。」

「はい、ベルガさんの工房で門扉(ゲート)が出来ましたので、後は設置するだけです。」

僕とロメル殿下はヴォルフを伴い、辺境の森に向かう前に運河の水門工事現場にバイクを止めていた。


 「街でもいろいろな準備が始まっています。運河の第一期工事完成に合わせてお披露目出来る様にしていきます。」

「楽しみだな。だが今は私に付き合ってくれ。」

「はい。では行きましょう。」


 キュ‥‥ドドド、

 僕らのバイクは辺境の森へ向けて出発した。


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