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~異世界で貴族になったので、上司の縁談も進めます➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

      ◇     


 「王子の摂政役として半年間王宮にいたが、後半は王家の使者として出かけることが多くてね。」

「人使いが荒いですねぇ。というか王子と並べて置きたくなかったんじゃないですか?」

僕らは、月の湖亭の二軒隣の酒場に移動した。渋い大人の酒場という感じの店内だ。


 あらかじめ公爵家で貸し切りにしてあったらしく。店内でバートさんが待っていた。

バートさんは、こういう渋い感じの酒場が妙に似合う。どっちかというバーカウンターの中の方が似合うかもしれないと思った。


 「国境近くの辺境の森で勢力を伸ばしてきた傭兵団と交渉する機会があってね。」

「傭兵団ですか?」

「ああ、その傭兵団の様子を探って、出来れば支配下に置きたいという王太后の意向があってね。」

「そんな任務を殿下に御命じになるとは‥‥」

バートさんが憤慨している。

「まあ私も、色々な所に出かけられるのは、楽しかったけどね。」


 殿下の話では、

王都事変の際に、辺境の森に魔物が集結して王都へ進行する準備を始めていた時、

魔物の中には、近くの村を襲う者達もいて、その時に村の防衛に役立ってくれた傭兵団があった。

彼らは「ヴァルキューレ傭兵団」と名乗り、少女を頭目とする統率の取れた「まるで軍隊のような」傭兵団だったそうだ。


 「あの時に辺境の森では、魔物との小競り合いが起こっていたようなんだ。」

「王都進行に至らないまでも、そんなことがあったんですね。」

うなずきながら殿下は続けた。


 「交渉を図ろうとしていた矢先に、私の連れの王宮衛士隊の隊員が、向こうの団員と揉めてね。双方にケガ人を出す事態になってしまったんだ。

話はこじれてしまって、トップ同士が決闘することになってしまってね。

私は嫌だったのだが相手の方が乗ってきてしまって、決闘をせざるを得なくなってしまったんだ。」


 殿下は、その時の様子を説明してくれた。


       ◇     ◇



 「君は女性じゃないか。私は君のような女性と剣を交わすことは出来ない。」

ロメルの前に立ったのは、女性というより少女だった。ミリア姫やリリィと同じくらいの年頃だろうか? ミリア姫よりも背が低く、華奢な感じなので年齢はさらに低く見える。涼しげな目元が見えて、他の傭兵と同じような男装と頭にターバンを巻いているが、明らかに少女だ。

「そんなことを言って、怖気づいたのか? 王宮から来たらしいが情けない男だ!」


 なんだとーっ!

 殿下! やっちゃって下さい!

 生意気なガキを懲らしめて下さい!


「私は王宮の使い出来ているが、ファーレン公爵家のロメルという者だ。女性と剣を交わすことなど出来ない。」


 「おい! ロメルって?」

「剣豪5指に数えられているロメル殿下か?!」

「こりゃあ、いくら姫様‥いや、お頭でもヤバいんじゃないか?!」

 傭兵団の男達が、ザワついていると、


 「いくぞ!」

少女は、ロメルに切り掛かった。


 「あっ! ひめっ‥いや、お頭―っ!」

慌てる男達をしり目に、戦いは始まってしまった。


 ガキィーン!

「うおっ!」

ロメルは、少女の剣を受けて驚いた。絶対に届かないだろうと思った間合いを、ひとっ飛びで詰めて、剣をあびせて来たのだ。

「くうっ‥‥」

少女の方も驚いた。こんなに簡単に受け止められるとは思っていなかったのだ。


 剣を挟んで、一瞬だけ2人は見つめ合った。ロメルは、

 (なんて綺麗な瞳をした娘なのだ‥‥)と思ったが、次の瞬間、


 ギャリン!

剣がこすれる音と共に二人が弾けるように離れた。


 ヒュッ!

すかさず少女の突きがロメルを襲う。しかし、これもロメルが剣で受けて脇にいなす。


 突きをいなされてロメルの脇をすり抜けた少女はひるがえって片手で剣を振り上げながら、

(ここで「とっておき」をお見舞いするわ。)

振り下ろした剣をロメルが受けるのを見計らって、脇からもう一本の剣を引き抜いた。


 さすがにロメルもこれには焦った。

「二刀流か?」

ロメルが後ろに飛びながら、剣をふるう。

少女はそれを追って間合いを詰める。


 ロメルが二刀流に気を取られて一瞬判断が遅れたのを、少女は見逃さなかった。

(これはいかん!)

 ロメルの目つきが変わり、途端に全身から物凄い殺気が溢れ、それが一気に剣に集約されていく。「威力」をまとった剣だ。


 「こ、これはいかん! 姫―っ! 逃げて下さい!」

それを見た傭兵団の大男が叫んだ。次の瞬間、


 パキーン!

ロメルに折られた少女の剣が宙に舞い、


 ピシュ‥‥

同時に鮮血が飛んだ。少女は剣と同時に額を切られて、地面に尻もちをついた。同時に髪を隠していたターバンがほどけて流れるような金髪が露わになる。


 「おかしら‥‥いや、姫―ッ!」

男達が一斉に駆け寄ろうとするのを、

「来るなーっ! まだ戦いは終わっておらん! 来るなというのにって‥‥きさま何をするかーッ!」


 誰よりも早く少女に駆け寄り、少女を抱き上げたのはロメルだった。

「薬師は、薬師は居ないのかーッ!?」

「貴様、何をする! 下ろせーッ!!」

 少女がロメルの胸を拳で叩くが、

「薬師は? 薬師はおらんのかーっ?」

薬師を探して慌てふためくロメルに、先程の殺気は全くない。


 少女がため息をついてから、

「もういい。私の負けだ。下ろせ!」

「傷が残ったらどうするのだ。こんな美しい顔に! 薬師はーっ!?」


 少女は、ロメルの顔を見上げた。

(必死で薬師を探してくれているの? 私のために‥‥ロメル殿下が?)

少女は以前からロメルを知っていたようだ。もう一度ロメルの顔を見上げてから、頬を赤らめてつぶやいた。

「最初から勝てると思っていませんでしたが、私にも立場があります。家を失った私に付いてきてくれる家臣達に対する立場が‥‥」


 「えっ? 家を失ったって‥‥ん!? ひょっとして、そなたフリード子爵家のリーファ姫か?」

「はい。‥‥元子爵家ですが。」

ロメルは、抱き上げていた少女を下ろし、少女・リーファ姫の顔をまじまじと見た。

小柄で華奢な体に男装、流れるような金髪を腰の辺りまで伸ばしている。そして剣を合わせた瞬間に見入ってしまった深い緑色の瞳は、間違いなくリーファ姫だ。

社交界の付き合いで出席した舞踏会で見たことがある。


   ◇ 


 「すまない、傷が残ってしまうかもしれん。‥‥すまない。」

何度も謝り続けるロメルに、傭兵団の大男が声を掛ける。

「ロメル殿下、もう頭を上げて下さい。姫様も困っています。」


 傭兵団の砦の中で、リーファは傷の手当てを受けていた。その傍らでロメルはずっと詫び続けていたのだ。

ロメルに声を掛けた男は、リーファの側近と思われる二人のうちの一人で、クマのような大男だ。もう一人は痩せ型だがとても背が高く、手足がものすごく長い男だ。

ロメルは、以前からこの側近の二人を知っていたが、雰囲気が別人の様で気が付かなかったのだ。


 砦の庭でも双方の男達が、和解しているようだ。 

「俺達が軽率だった。すまない。」

「いや、俺達の方こそ。」

 


 「傷は‥‥残るかもしれませんな。」

手当てを終えた薬師の老人が、道具をしまいながら呟いた。


 「そうか‥‥。」

それを聞いたロメルは、リーファの正面に座って居住まいを正して、

「リーファ姫、聞いてほしい。」

「な、何ですかロメル殿下、改まって。 あ、それから私はもう姫ではありません。周りの者はこれまでの習慣でそう呼んでいるだけです。」

「ではリーファ殿、そなたの顔に傷をつけてしまった責任を取らせてほしい。そなたをめとりたいと思う。」

「ちょ、ちょっと待ってください。何言って‥いたた‥。」

「傷にさわる。大声を上げてはいかん。」


 そんなやり取りを見た二人の側近の男達が色めき立った。

「おい、ロメル殿下は、本気で言ってるのかな?」

「分らん。側室だとしても、公太子殿下が一人で決めて良いとは思えんが‥、しかし本気で言ってくれているのなら、こんなにいい話は無いなよな。」


 「お断りします! お引き取り下さい!」

リーファは、ロメルを睨む様に見つめて、きっぱりと言った。

「ひ、姫、そんな‥何を言っておるのですか!」

「そうですよ。こんないい話!」


 「うるさい!出て行け! みんな出て行けーっ!」

リーファは、側近のふたりの尻を蹴り飛ばし、ロメルも締め出してしまった。


 いきなりの事に、呆然とするロメルと側近の二人だったが、

「と、とりあえず引き上げましょう。ロメル殿下、姫は突然の事に驚いて、あんな態度を取ってしまったのだと思います。どうか、真に受けないで下さい。」


 「あ‥ああ、分かった。」

 ロメルは、立ち止まって振り返ったがその場は退散することにした。


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