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~異世界で貴族になったので、上司の縁談も進めます①~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

      ◇    ◇



 「あーっ、もう! 何を着て行けばいいのよーっ?!」

「ユウ様に、あちらの世界から買って来て頂いた服がありましたよね?」

「みんな微妙にカジュアルなのよー。公太子様との合コンに着ていく洋服なんてないわよーっ!」

ウルドの代官所ではミクが支度に戸惑っていて、リリィが手伝っている。


 「やっぱりドレスにした方が良いんじゃないですか?」

「だってわたし、ドレスとか似合わないんだもーん。」

「そんなことないですよ。」


 リリィはミクを何とかなだめて支度をさせ、玄関先まで送り出した。

代官所の前には迎えの馬車が止まっていて、御者の青年がうやうやしく一礼する。

「うわーん、リリィちゃーん。やっぱり一緒に来てーっ。」

「私はご招待されていないので、無理ですよ。」


 リリィは手を振って馬車を見送った。


 今日は、先の厄災を予知して多くの人命を救ったミクの労いのために(要求されたのだが)、僕がセットした「合コン」の日だ。合コン相手のメインは公太子ロメル殿下だ。



 ミクを乗せた馬車がファーレの街の中心街の(公爵家居城も近くにある)「月の湖亭」の前に止まった。オドオドしながら馬車を降りたミクが驚く。

「なにこれ? サミット会場か?!」

レストラン「月の湖亭」の周囲は10m間隔くらいに衛士が配置されていた。


 入口ドアにオドオドしながら手を掛けると、2人の衛士に一礼されて、

「お、お疲れ様です!」と思わず言ってしまうミクであった。


 中に入るとシックな店内に既に公太子以外のメンバーが集まっていた。今日のメンバーは、僕が適当に、いや適切に考えて集めたメンバーだ。

 男性陣は、衛士隊副隊長の2人。グラド君とゾラ君は、二人とも貴族の家の次男坊だ。貴族の家では長男以外は自立の準備を始めなければならないのだが、この二人は衛士隊の精鋭として、王都事変で一緒に戦ってくれたメンバーだ。ちなみに二人ともイケメンだ。

 2人は僕の頼みに二つ返事で答えてくれた。2人の方からは何も聞いてこないが、王都事変を経験している以上、今回の災厄にミクが関わり、その労いのためだと分かってくれているらしい。


 そして女性陣は、黒髪ロングで切れ長の瞳の美少女がいる。「影の手」のベニだ。警備の目的もあって来てもらったのだが、こういう場は慣れていないらしく、さっきから緊張しているようで大人しい。それが何となく深窓の令嬢を思わせる雰囲気になっていて、結果オーライだ。

 そしてもう一人は、ミリア姫のそば付きメイドのマリナさんだ。後宮のそば付きメイドの娘達は、貴族のご息女が行儀見習いに来ているケースが多く、彼女もその一人だ。栗色の長い髪に大きな瞳のスラっとした美人だ。


 「あ、お兄ちゃん!」

ミクは入って来ると店内を見回して僕に気付くと、持ってきた荷物を置いて駆け寄って来た。そしてそのまま僕を店の隅まで引っ張っていくと、

「ちょっと、お兄ちゃん空気読んでよ。なんでこんなに綺麗な娘達、連れて来てんのよ!」

耳うちしてから僕を睨んでいる。


 「えっ?!警護の事まで考えたら、結果的にこうなっただけだよ。ミクも十分可愛いから大丈夫だよ。」

「何よ、その言い方。」

別に僕はお世辞で言ったわけでは無く、ミクはやや丸顔だが、目のぱっちりした可愛い顔だし、少しウエーブがかかった栗色の髪にあしらったリボンも似合っている。

「それに女の子二人は、今日は完全に付き合いで来てもらってるから大丈夫だよ。」

「なんか、そういう気の使われ方は嫌なの。」と唇を尖らす。


 (面倒くさい奴だな)と僕が思っていると、

「ミクさま、先日のスイーツ試食会、ありがとうございました。みんな感激でしたわ。」

マリナさんが声を掛けてくれた。

「えっ、あなたは? ‥‥あーっ! 姫様の‥」

「そば付きメイドのマリナです。」

手を取り合って再会を喜んでいる。

(マリナさんナイスです。)と僕が思っていると、


 「ロメル殿下がお着きです。」

ロメル殿下が店に到着したようだ。


    ◇


 「おお、ミク。元気にしていたか? 大変だったな。私は留守にしていてすまなかった。ファーレのために、本当にありがとう。」

ミクは、ロメル殿下にいきなり手を握られて驚いている。

「いえ、私なんかがお役に立てただけで光栄です。」


 僕が「あれ、殊勝なことを言うじゃんか」という顔で見ると、

「何よぉ」という顔で睨んできた。


 簡単な自己紹介が終わり、場が和んできたところでミクに声を掛けてみた。

「ミク、ロメル殿下ばかりじゃなくて、グラド君やゾラ君とも知り合いになっておけよ。」

「もちろん。二人ともイケメンだからね。でも、メルアドどころか携帯番号も交換出来ないんだから、この世界は、きっかけ作りも大変よね。」


 ミクがテーブルを見回すとベニが一人でうつむいている。料理にもほとんど手が付けられていない。

(お兄ちゃんが「警護のために来てもらった」って言うのはホントみたいね。なんか悪い事しちゃったのかなぁ‥‥。あ、そうだ。)

「皆さーん。ちょっと聞いてください。実は食べてもらいたいものがあって、持って来たんです。」

 ミクが声を上げると、マリナが反応した。

「ミクさま! それはまさか?」

「そうです。新作です!」

「キャーッ!」


 マリナが歓喜する中で新作のケーキが取り分けられた。「新作」は苺のショートケーキだ。現世日本では定番だが。

ベニの前にも置かれたが、ベニは不思議なものを見るようにケーキを見ている。


 「食べてみて。まだどこにも出していない新作よ。」

ミクに声を掛けられるとベニは、すがる様な視線をミクに向けて、

「食べ方が分かりません‥‥。」

泣きそうな声を出した。


 「えーっ? 別にマナーなんていいわよね。こうしてね‥‥」

ミクが、フォークでベニに食べさせてやった。


 「‥‥!」

口に運ばれたケーキを口にしたベニは驚いて声が出ない。

「どう、美味しいでしょ?」

「‥‥」

「どうって聞いてんの‥‥って何泣いてんのよ!?」


 「お‥おいひい‥すごい‥、こんなおいしいものが世の中にあったなんて‥‥。」

ポロポロ涙を流しながら、ケーキを食べている。


 「そ、そんなに気に入ってくれたの? まだ他の種類もあるのよ。」

ミクが他の試作ショートケーキをベニの前に並べた。

「食べてみて。泣かないで食べてね。涙で味が少し変わっちゃうからね。あのね、これはね‥‥」


 ベニに他のケーキの説明をしているミクを見て、

「ベニは、こんなところで食事なんてしたことが無いだろうから、心配だったんだ。」

ロメル殿下が、僕に耳うちする。

「ミクもこっちには同年代の友達は少ないですからね。」

「いずれにしても、ミクの能力の事を考えると、今後ミクに危険が付きまとうかも知れない。ベニを近くに置いた方がいいかもしれないね。」


 二人の様子を見て微笑んでいるロメル殿下に、僕は前から聞いてみたかった事を尋ねてみた。

「殿下には、誰か良い人いないんですか?」

すると、殿下は一瞬硬直してから、

「実はな、君に相談したいことがあってな。そちらの方面にも関連する話なんだ‥‥」



 「じゃあね。今度、お兄ちゃんのうちに遊びに行くから、その時に会おうね。」

合コンは御開きになったが、ミクはマリナとベニとは友達になったようだ。


 そして僕はロメル殿下の相談に乗るため、次の店に向かった。


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