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~異世界で貴族になったので、街づくりを進めます⑤~

     ◇


 運河建設に一定の目途が立ったため、僕は久しぶりに僕はウルドの村を訪ねることにしたのだが、僕がバイクで向かっている最中にウルドでは一波乱起きていた。



 「戦乙女『ヴァルキリア』のリリィっていうのは、君の事かい? 僕はハラー男爵家の長男のセナって言うんだ。」

 直売所に手伝いに来ていたリリィを、いかにも貴族のボンボンという感じの青年が訪ねて来た。

「君をさぁ、僕の側室にしてあげようと思って迎えに来たんだよね。」


 「何言ってやがるんだ、あのへなちょこ野郎。」

「やっちゃえ、ルー姉さん!」

厨房から腕まくりして出て行こうとするルー姉さんとミクをみんなが慌てて止めた。


 セナと名乗った青年がリリィに歩み寄り、リリィの顎に手を掛けてクイっと上げて、

「うーん、噂の通り美しい。」

悦に入っているが、

「触らないで下さい。」

リリィは、後ろに下がってセナを睨んだ。

「おお、気が強いところもいいねぇ。」


 「誰か、代官様呼んで来い!」

直売所の誰かが叫んだ時、

「止めて、大丈夫だから代官は呼ばないで。」

リリィが止めた。ヴォルフを呼んでくればこの青年と揉めごとになることは目に見えている。ヴォルフは騎士爵だ。男爵家の嫡男と揉め事を起こすのはまずい。


 「ああ、君に言い寄っている亜人がいるんだってね。王宮にどんなゴマをすったか知らないけど、騎士爵になったんだってね。亜人風情が‥‥」


 バシッ!

いきなりリリィがセナに平手打ちを食らわせた。

「私の大切な人を侮辱するのは許せません!」


 「このアマぁ。パパにだって殴られたことないのにぃ。」


 バシッ!

今度はセナがリリィに平手打ちを食らわせた。リリィはその拍子に床に倒れ込んだ。


「リリィちゃん!」

ルー姉さんとミクが我慢出来なくなって飛び出してきた。


 リリィを庇う2人の前にセナが立ち塞がった

「お前、自分が何をしたか分かっているのか?貴族を殴ったんだぞ! オイ、この女を屋敷に連れて行け!」

セナに命じられた部下が、リリィに手を掛けようとしているところだった。


 「何の騒ぎだい?」

僕が直売所に到着した。

 

 「これはこれは、新参のヤマダユウ男爵様。私はハラー男爵家のセナと申します。関係ないから引っ込んでいてもらえませんか?」


 僕は、ハラー男爵の名前を聞いて、公爵から聞いたあることを思い出していた。先の大戦の英雄であるバートさんが、貴族へのしょう爵を固辞し、代わりにしょう爵した男爵がいたという話を。


 ロメル殿下が総大将を務める公爵軍の副長を務めたバートさんは、ロメル殿下の人となりに惚れ込んで公爵家に生涯仕えることを願った。このため、貴族である男爵へのしょう爵を固辞したのだ。

そのため代わりに「繰り上げしょう爵」となったのがハラー男爵であり、公爵はよく「繰り上げ男爵」と呼んでいたのだ。


 そんなことを思い出していた僕に、

「お兄ちゃんあのね‥‥」

騒ぎの経緯をミクから耳打ちされた。


 「セナ殿、では助言だけ申し上げます。このリリィは、王家を守ってナイトを任ぜられました。」

セナは「けっ」と吐き捨てるように

「そんなことは知っている。たかがナイトだろう。」


 「たかがナイトと言われましたね!」 

僕が声を大きくすると、

「な、何だよ‥」

セナは後ずさりしてビビっている。


 「王家を守って、王太后様からナイトを拝命したリリィを、たかがナイトと言われた。そして、リリィを先程殴ったそうではないですか!」

「ボ、ボクを殴ったからだい。」

「それは、同じく王家を守って騎士爵を拝命したヴォルフを侮辱したからでしょう!」

「そ、そんなこと言ってもボクを殴ったことは帳消しにならないぞ。」

セナはビビりながらも引かない様子だ。


 「では、最後の助言を申し上げます。あなたの家、ハラー男爵家は、よほど頑張らなければ一代限りの貴族で、あなたは男爵になれなそうだ。というではないですか。」

「なっ、貴様、どこでその話を‥‥」

セナの顔が見る見る青ざめていく。

ハラー男爵家は最近評判が悪く、特に素行が悪いセナについて公爵から「このままでは息子には家は継がせん。一代限りだ。」と言われていたのだ。


 「公爵様から直接聞きました。そしてもう一つ教えてあげましょう。このリリィは、アヴェーラ公爵様の大のお気に入りです。そんなリリィを殴って、ただで済むと思っておいでですか?」

セナは、僕の話の途中から腰砕けになって、座り込んでしまっていた。

「きょ、今日のことは、痛み分けのお相子にしてやるから、公爵様に余計なことは言うなよ。いいな、言うなよ!」

セナは、部下に支えられるようにして帰って行った。


 こんなことがあって、僕は更にこの国の身分制度が嫌になるとともに、逆に僕が力を付けてみんなを守れるようにしなければ、とも思った。 


     ◇       ◇



 運河工事が目に見えて進捗してきた頃、とある連絡が王宮から入り公爵家を驚かせた。

摂政公に就任して半年足らずで「ロメル殿下が体調を崩して暇を出される」というのだ。その連絡を受けた公爵は、

「半年か‥‥、やはりその程度まであろうな。」と呟いたという。


 以前公爵に「運河を使ったユウの更なる企てを教えろ」といわれていたので説明をしたい事を伝えてみた。すると、「ロメルが暇を出されて帰ってくるから一緒に聞こう。」という話を聞いて、僕は驚いて城に駆け付けたのだ。



 「ああ、そもそも摂政にロメルを押し込んだのは私だ。その時にバーシア‥‥いや王太后は、「半年くらいにしておいてくれ」と言っていたのだ。

公爵の説明では、


 ロメル殿下は、王族の親戚である公爵家の直系嫡男であり、順位は低いとはいえ「王位継承権」を持っている。そんな殿下が、頼りない王子の隣で摂政公などという役職に就いて、執政を行ったらどうなるかは火を見るより明らかだ。

「いっそのことロメル殿下に王位を継いで頂いたらどうか」

という話が本格化する前に、体調を崩したことにして暇を出された、という訳だ。


 「ロメルに「視野を広げて度胸を付けさせる」という私の目的は果たせた。」

アヴェーラ公爵は満足そうにしていた。


 しかし、ロメル殿下が帰ってくるという情報は、僕に難題を課すことになった。


 「お兄ちゃん、いつかの約束忘れてないわよね。2つのお願い聞いてくれるってヤツ! 一つ目はロメル殿下と合コンしたいの! あ、アヴェーラ様に言ったらねー、「ユウに仕組ませればよかろう」って言ってくれたわよ。お願いね!」

ミクが喜色満面で僕を訪ねて来たのだ。

僕は「作戦を考えるから少し待ってくれ」と伝えて少し時間を貰う事にした。

ミクには悪いが、今はそれどころではないのだ。


      ◇


 運河建設は進み、川と運河を繋ぐ水門建設が概ね完了し、運河は街の中心部、ダウンタウンの元スラム街があったところまで延伸していた。

僕は、スラム街の跡地にファーレの物流の拠点を造るつもりだ。さらにそこから枝となる水路や道路整備を行って物流環境を整えることが、僕の考えるファーレの街づくり「運河を柱とした大規模区画整理事業」の全容となる。

 そしてスラム街の跡地にはショッピングモール的な施設も造りたいと考えていた。


 しかし、今後発生する大きな課題についても対応していかなければならない。

 運河による舟運は、大きな利益を生んでいくだろう。その利権を、単純に領主に持たせて良いのか? 新たに運河を運営するギルドを創設するのが良いのか?

 それは、みんなが納得する形で仕組み造りを進めなければならない。


 そしてファーレの街も厄災が起こってから半年が経過し、その間に街の様子はだいぶ様変わりしていた。スラム街から移住した人の大部分は運河建設に従事し、領民登録も済ませてキチンと暮らしている。給料から税金を払い、市内で買い物もして、ファーレの街の経済活性化に繋がっているのだ。


      ◇


 ロメル殿下が王都から帰って来たため、落ち着いたのを見計らって「運河建設を柱とした街づくり」の説明会を行うこととなった。


 「皆さん、ご参集頂きましてありがとうございます。今日は現在進めている運河建設の進捗状況と今後の運河を活用したファーレの物流環境整備について説明します。」

今回の説明会は、前回のメンバーにロメル殿下を加えたものとなった。


 僕からの説明内容は、

・運河建設は川から市内中心部のスラム街跡地までの幹線区間が概ね完成したこと。

・川と運河を結ぶ水門も概ね完成し、試験操作を待つ段階であること。

・スラム街跡地には当面仮設の流通倉庫を建てた。船から馬車などに積み替えのしやすい積み替え場も備えて「流通拠点」として整備している。

・仮設のショッピングモールも完成間近だ。当面は運河で運ばれてくるウルドの農産物が商品の中心となるが、ファーレの名産品を売る店にテナントに入ってもらいたい。


 そして今回は大きな提案がある。新設ギルド「運河ギルド」の創設だ。

現在の「商人ギルド」も「運送ギルド」もこれから大幅に仕事が増える中で、「運河の運営なんてとてもやりきれない。」とのことで、僕の懸念した利権争いにはならなそうだ。

 この運河ギルドのギルド長を次回の会議で推薦してもらうことにして(面倒くさいので先送りにしようとして)説明会を終えようとしたところ、


 「ユウ、運河ギルド長は、お前がやればよかろう。」

 アヴェーラ公爵が発言しながら立ち上がった。

「皆に伝えておくことがある。ヤマダユウ男爵は、故郷の国から大量の銀を我が領地に融通してくれている。ユウの故郷では銀の相場がかなり安いのだそうだ。それによって我が領地の収入は大幅に増え、運河建設予算の多くは、その金で賄われている。そうだなガードナー伯爵?」

「はい、その通りです。」 

ガードナー伯爵が、憮然とした表情のまま答える。


 「それでこの頃は銀の流通量が多いのか。」

職人ギルド長のベルガが納得している。


 「ユウは、運河の利権争いを気にしているようだが、だったら最も出資金が多いお前がやれば誰も文句は言うまい。皆どうだ?」

「意義ありません。」

「異議なしです。」


 「決まりだな。ユウ、頼むぞ!」

 満場一致で決まってしまったので文句は言えなかった。



 「ユウ、君が運河ギルド長に決まってしまったが、良かったのか?」

「あんまり良くないですけど、僕がコントロール出来ない人に任せるよりは、いいのかなー‥‥。」

会議が終わった後で、僕はロメル殿下に声を掛けられた。


 「すまないな、君にばかり苦労を掛けるな‥‥」

すまなそうな顔のロメル殿下を見て、僕はあることを思いついたのだ。

「では殿下、僕からのお願いも聞いていただけませんか‥‥」


 僕は王都から帰ったばかりの公太子殿下に、ミクに頼まれた合コンをセットすることにしたのだ。

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