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~異世界で貴族になったので、街づくりを進めます④~

    ◇


 厄災からひと月後、

 川沿いのテント村があった直ぐそばところには、今は「長屋」のような仮設住宅がたくさん立っている。スラム街にいた人達のうち、運河工事に従事する労働者とその家族のために建てたものだ。


 災厄で三カ所に分かれて一時避難した人達のうち、約百人がウルドの村に残ったそうだ。

職業訓練を行う村長とルー姉さんの張り切り様は大変なもので、ヴォルフはいさめるのに苦労しているとのこと。ミクとヴォルフも入って今後の農場と直売所の拡大計画を作っているので後で相談に乗ってほしいとのことだ。

 もう一カ所の避難場所である大教会には10数名の人が住み込みの使用人として残ることになったそうで、残りの大部分・約500人が、この川沿いの仮説住宅に移り住むことになった。


 厄災にあたって川の傍にテント村を造り、その隣接地に仮設住宅を造ったのは結果的に成功だった。

ここは、運河を川に繋ぐことが出来ずに断念した運河の起点になるはずだった場所だ。5年前もこの辺りで川と運河を繋ごうとしたのだ。今回も造りかけの水路を活かすために運河の起点は変更しない。 

 従って、ここが運河工事最大の難所「水門」建設現場のすぐそばになるのだ。


 水門工事は、既に仮設工事「仮締切堤防」が概ね完成している。

 堤防を切り開いて水門を設置するためには、堤防の内側にもう1本の堤防を一旦造る必要がある。その上で元々の堤防を切り開く工事を行う。そうすれば元々の堤防を切り開いて、その時に洪水が来ても大丈夫という訳だ。

 また「仮締切堤防」を造れば、川の工事でありながら川の水から作業員を守れるため、水中工事をしなくても済むといいうメリットもある。


 「これは凄い魔道具ですね。いくらでも水を吸い込んでしまう。」

僕はホームセンターで買って来た道具を早速この現場で使っていた。その内の一つ「水中ポンプ」を見て皆驚いている。

 川のそばで掘削工事を行えば直ぐに地下水が湧き出て来て工事が難航するのだが、この水中ポンプで水を吸い上げてしまうことによって、掘削工事の効率が飛躍的に上がっていた。

 また、掘削した運河の水路には石を張って護岸として強化した。そしてその護岸に使う石には、先の災厄で崩れた古い兵舎に使われていた石をリサイクル資材として使っている。



 しかし、順調に進むものばかりではなかった。

職人ギルドの長、ドワーフのベルガさんに依頼した水門のゲート(門扉)製造は難航していた。


     ◇


 「砦や城の城門は凄く頑丈に造られていますよね。その技術を応用出来ませんか?」

「はい、俺もそう思っています。城壁の門は、破城槌『はじょうつい』で攻められる前提で造られますから。」

「ああ、丸太を抱えて門に突撃するヤツですね。」

僕は、ベルガさんの工房で水門の門扉について相談していた。


 腕を組んで考え込むベルガさんに、若いドワーフの職人が声を掛けた。

「親方ぁ、破城槌にも耐える門扉『もんぴ』が水なんかで壊れないでしょう。」

「ばかやろう!破城槌みてえな衝撃に耐えるのと、水の圧に耐えるのは全く違うんだ。」

「えーっ、そうなんですか?解らねえなぁ。」

ベルガさんの言葉に中々納得しない若い職人に、

「じゃあ、実験してみましょうか。」

 僕は、とある実験を提案した。



 僕らは川に来ていた。そしてドワーフの若い職人3人に分厚い戸板を持ってきてもらっていた。

「では実験として挑戦してもらいます。君達が川の水を戸板で受け止めきれたら僕が賞金を出します。自分の身長の半分の深さなら大銀貨、自分の身長の深さを受け止められたら小金貨を出します。3人でやってもいいですよ。」


 えーっ?

男爵様、俺達ドワーフの力をなめてんじゃねーのか?

そんなもん簡単な事じゃねーか!


 ドワーフの職人達は、嬉々として戸板を抱えて川に入って行った。

それを見ていたベルガさんは、

「男爵様、さすがにドワーフ3人なら、何とかなると思いますよ。」

「いえ、僕もドワーフの力を舐めてはいないですよ。しかし今日は、少し流れが強いですよ。」

今日の川の流れは「ゆったり」というよりは、見て分かるくらいの早い流れがある。


 「じゃあ、旦那。行きますよ。まずは身丈『みたけ』の半分だ!」

「かるいぜ!」と言いながら水流に戸板を立てると、


 「うおっ!こりゃ一人じゃキツイぜ!」

「なんだよ。しっかりしろよ。うおっ!」

一人が加勢に入り、二人で何とか抑えることが出来た。


 「これななら3人いれば、身丈の深さは行けるんじゃねえのか?」

「ああ、いけそうだな。」

「男爵様ぁ、ところで金貨は3人で一枚ですかぁ?」

調子に乗ったドワーフの職人が聞いてきたので、

「違うよ、1人1枚だよー!」

僕も乗ってやることにした。


 うおー!

 金貨頂きーっ!


大騒ぎしながら職人たちが、流れに戸板を立てた途端、

 うわーっ!

 すげぇ力だ!

 ダメだーっ!

敢え無くドワーフ達は、押し流されてしまった。



 「面目ねえ。」

河原に座り込んで3人はしょげかえっていた。

「みんな、そんなにしょげないでくれ。君達に力が無いわけじゃないんだ。水の力はそれくらい強いって言うことが、分かってもらいたかったんだ。」

頭を垂れる職人たちに、

「じゃあ、これで今夜一杯飲んでくれ。」と渡そうとした小金貨を彼らは固辞したが、無理に握らせて帰した。

しかし、このことが後日、思いがけない結果を生むことになった。


     ◇

 

 「男爵様、工房に来てみて下さい!」

ベルガさんの声掛けで、ドワーフの工房に行ってみると先日の三人の職人の青年が待っていた。


 「男爵様、先日はごっそさんでした。あの後三人で飲みに行って、飲みながら思いついたんですよ。力を合わせたらどうかって。」

「‥‥ええっ?」

首を傾げる僕に、

はがねは、どんな強度を出したいかによって作り方が変わるんですよ。だから、破城槌で攻撃された時みたいに、ドーンと一気にかかる力と、水の力みたいに、継続してかかる力に対応するのとでは、作り方を変えるんです。」

「ほう、それで?」


 僕は彼らに心の中でお詫びしていた。僕は現世の技術をどうやって導入しようかと考えていたが、彼らは自分たちの技術力で出来るやり方を考え出したのだ

「波が来た時、一度にかかる力と、水の深さによって継続してかかる力、それぞれに耐えられる強さの違う鋼の板を組み合わせてみようと思います。」

若い職人は鋼の板を2枚合わせて僕に見せた。

それを見たベルガさんが大きくうなずいている。


 この世界では、水門の門扉のような大きな物をすべて金属で作ることは困難であるため、金属の縁取りをした木製とすることを考えていた。その「縁というか枠」の素材の強度が問題となっていたのだ。これが解決すれば、水門工事は大きく前進することになる。


 水門の門扉製造の目途が立てば、堤防の開削工事に着手できる目途が立つということだ。


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