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~異世界で貴族になったので、街づくりを進めます③~ 

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

     ◇


 運河建設説明会が無事に終わった日の深夜。

半月の明かりが公爵家居城に隣接するユウの宿舎を照らしている。

ユウとヴィーが眠っているその宿舎の玄関ドアに人影が映った。

しかし、不思議なことに誰もいない。誰もいないのに月明かりに照らされた影だけがドアに映っている。


 「ユウ様、何か気持ち悪くないですか?」

僕は、夜中にベッドでヴィーに声を掛けられて目を覚ました。

「そうか?」

僕には特に何も感じないが、ヴィーは何か寒気がするようで、腕を抱えて震えている。


 「じゃあ、灯りを付けておこう。」

僕が現世から持ってきたLEDランタンを点けると、

「あ、嫌な感じが離れて行く気がするです。」

ヴィーが少し安心した顔になった。


 その日はそのまま、ランタンの灯りを付けてヴィーを抱いて寝ることにした。


      ◇


 「結局何だか分からなかったですけど、夕べ、そんなことがあったんですよ。」

翌日は休日だったが、僕は大司教様にちょっとした用事で呼ばれて、大教会に来ていた。


 「ふーむ‥‥ヴィーさんはダークエルフだからね。何か悪い物の気配を感じたのかも知れない。そうだ。ちょうど頼りになる子がいるよ。ちょっと待っていてくれ。」

大司教様は、神官を呼んで誰かを連れて来てくれるようだ。

(「頼りになる子」っていったけど?)


 「この子を連れて行くといい。その手の事には頼りになるはずだからね。」

大司教様の手には、黒猫が抱かれていた。


 大司教様から手渡された黒猫は「少し大きめの子猫」という感じで、僕を見てあくびをした。

「この子の名前は「ノワ」というんだ。どこでも寝てしまうので、踏んだりしないように出来るだけ抱いているようにしてくれ。」


 僕は黒猫を懐に入れてバイクに跨ると、宿舎へ帰った。

 

  

 「きゃあ! 闇ヒョウなのですか?」

宿舎に帰って、黒猫を見せると、ヴィーは歓喜した。


 「ノワっていうですか、おいで。」

ヴィーに呼ばれると、黒猫は眠そうにしながらヴィーの腕の中に抱かれた。

「闇ヒョウは、出来るだけ抱いてあげると良いのですよ。とっても頼りになるですよ。」


 (「闇ヒョウ」なんて言ってるけど猫だろう。寝てばっかりの子猫が頼りになるのかなぁ? 大司教様は、ヴィーの気を紛らすために預けてくれたのかなぁ。まぁ、ヴィーの気が紛れるならいいか‥‥。)


 ヴィーはその日、夜まで子猫を抱いていた。自分が用事をする時は、僕に「抱いていて下さいです。」と手渡してきた。(ちょっと過保護だろう)と思ったが、僕も猫を抱いた。


 寝る時にも、

「一緒に寝るですよ。」

といって、猫を抱いてベッドに入った。



 その夜。

ベッドの中に違和感があって、僕は目を覚ました。

何かが僕とヴィーの間にいるような気がする。ヴィーが子猫をベッドに入れたが、そんな大きさではない気がする。

 僕は恐る恐る枕元のLEDランタンを点けた。


 ヴィーが黒くて大きなものを抱いている。僕と同じくらいの大きさがある何かを‥‥。

僕の顔のすぐそばにそいつの顔があった。

ヒョウだ!

黒ヒョウがベッドに寝ている。ヴィーに抱かれて。というかヴィーに抱きつかれて。


 僕が慌てているうちに黒ヒョウも目を覚ましてしまったようだ。ヤバい。

僕はどうしたらいいか考えた。考えているうちに一つの思い付きが頭をよぎった。


 「お前、ノワか?」

声を掛けると黒ヒョウは、グルグルと喉を鳴らして返事をしている様だった。


 ノワが大きくなったと思われる黒ヒョウは、もぞもぞしている様子が、ベッドから出たいのだが自分に抱きついているヴィーを起こさないようにしている様に見えた。なのでヴィーの手をそっと解いてやると、グルグルと喉を鳴らしながら僕に頬ずりしてきた。


 ノワは、音もたてずに床に降り立つと、何かに気が付いたように玄関の方を見た。


 「来たです。昨日と同じ奴です。」

いつの間にか目を覚ましたヴィーがつぶやく。昨日の晩と同じ様に腕を抱えて震えている。



 その時宿舎のドアの外には、昨日の夜と同じように影が映っていた。今夜は昨日よりも影が濃い。その影が、ドアの隙間から染み込んでくるように家の中に入って来た。


 「来たです!入って来たです!」

ヴィーが声を上げると、僕も急に寒気がして来た。確かに「何かが入って来た」気がする。そしてそれは近づいて来る。僕に身を寄せて来たヴィーを抱きしめた時、


 ウォォーーン!

ノワが咆哮した。

 ウォォーーン!

もう1回。


 咆哮はノワを中心に、波紋の様に広がっていく様に感じる。明らかに何かの力を持ったものが広がっていく感じがするのだ。

そして、その波紋の力によって、近づいて来た嫌なものが消えていくのが分かった。


 「もう大丈夫なのです。」

ヴィーが安心したように微笑んでいる。


 「ノワ、おいで。」

いつの間にか小さくなって、元の子猫の大きさに戻ってしまったノワが、モソモソとベッドに入って来た。

「ノワ、ありがとうなのです。」

ヴィーがノワを抱いて、僕はヴィーごとノワを抱いて眠りについた。



 後日、僕は大司教様から詳しく話を聞いた。

闇ヒョウはいわゆる「聖獣」で、その咆哮には魔を払う力がある。昼間は体が小さく、力も無くて無防備なので守ってあげて欲しい。昼間守ってあげると、夜はその家の住人を守ろうとする性質を持っている。とのこと。

「何か「良くないもの」が来たことは間違いないようです。しばらくお預けしましょう。」

そう言って、大司教様は微笑んだ。


     ◇


 「ユウが猫を飼い始めた」という噂が後宮に広がり、ミリア姫に加えて末っ子のラング殿下が良く遊びに来るようになった。

いじり回されてノワが殿下を引っ掻いたりしたら、と心配したがそんなことは無かった。殿下はノワを抱いて本を読んでいることが多く、仲良くしている様だった。


 ある日、ノワを抱く殿下の姿をヴィーと二人でのんびりと見ていると、殿下は突然立ち上がって、

「ユウ。この前の夜にやって来たのは、蛇の手先だ。これからも蛇には気を付けろ。」

兄ちゃんの声で警告すると、その後、パタッと眠りについた。


 僕とヴィーは顔を見合わせてうなずき合った。


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