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~異世界で貴族になったので、街づくりを進めます➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

    ◇


 翌日、僕はファーレの街の中心地にある産業の拠点「ギルド本部」に来ていた。区画整理及び運河建設への協力を得るためだ。

 石造りの建物の入口には大きなレリーフがある。大きな袋を担いだ人(商人)、鎚を振り上げる人(職人)、馬車を操る人(運送業)。これは、このギルド本部の中心的存在である「商人ギルド」「職人ギルド」「運送ギルド」の象徴だそうだ。

 僕はギルド本部には市政官就任時に直ぐに挨拶に来ていたので、顔合わせは済んでいる。今日は、根回しに来たのだ。


 「男爵様、ギルド本部へお出で頂きましてありがとうございます。本日は、我ら3大ギルド長を集めてお話があるそうですが、どのようなお話ですか?」

 口火を切ったのは、商人ギルド長のハンスだ。大人しそうな初老のおじさんだが、僕は彼の事を別件で知っている。彼は僕に気付いていないようだが。


 「男爵様は以前、洪水からファーレの街をお救い下すった。地下に多くの工房を持つ我らは、本当に助かりました。いつか御恩返しがしたいと思っておりました。」

次に挨拶してくれたのは、「ドワーフ」の職人ギルド長のベルガだ。背が低く筋肉隆々で顎髭を生やしたザ・ドワーフの外見の彼は、僕に好感を持ってくれているようだ。彼は今回の計画のカギを握る一人だ。


 「いい話だといいんですがねぇ。」

話を聞く前から不満げな表情なのは、運送ギルド長のロイス。今回調整が必要な相手だ。事前に話を聞いて警戒感を強めているらしいが、今回最もチャンスが大きいのが運送ギルドだという事が分かっていないらしい。


 僕はこの三人に運河建設を柱とするファーレの大まかな柱を説明した。中でも舟運によって大幅に流通量が増えること、運河から先の陸上輸送の重要性は変わらないことを説明すると運送ギルド長の態度がコロッと変わったのには笑った。

 そして運河工事のカギを握る構造物の重要部分の製造を職人ギルドに依頼する予定であることを話すと、職人ギルド長ベルガさんは腕を組んで目を閉じた。

「申し訳ありません。考えさせてください。やってみたい大仕事ですが、規模がデカすぎる。」

そう言って回答を保留した。僕は彼のその態度に返って好感を持った。真剣に現実的に考えてくれているのだ。

 僕からは、近日中に公爵を招いて事業説明会を行うことを伝えて打ち合わせを終えた。


 帰り際に僕は、商人ギルド長ハンスさん呼び止められた。

「私は今日は来なくても良かったようですね。商人ギルドについて特に話は無かったですし。」

不満げな表情だ。僕は、そんな彼に歩み寄ってこそっと耳打ちした。するとハンスさんは見る見るうちに青ざめてしまった。そんな彼に、

「無理をさせるようなことはしません。僕が困ったときに相談に乗って下さい。」

そう伝えると、

「どうか、よろしくお願いします。」と深々と頭を下げた。


 商人ギルド長のハンスさん。僕が彼の事を何故知っていたかというと、あの夜、ガードナー伯爵に金を渡していた贈賄側の商人が彼だったのだ。だから彼には根回しの必要もないと思っていたのだ。


 キュ、ドドド‥‥

「じゃあ、今後よろしくお願しますね。」

バイクのエンジンをかけてギルド長達に挨拶するユウの姿を、奥の路地から黒いフードをすっぽり被った男が見ていた。

「ゾーディアック卿が言っていたのは、あの男に間違いなさそうだな。少々ちょっかいを出してみるか‥‥」

呟くと路地の中へ消えていった。


     ◇


 「ユウ、今日の会議は随分大勢でやるのだな。」

「はい、僕の計画を皆さんに聞いていただいて、意見を頂こうと思いまして。」

僕は運河建設計画を説明するため、公爵居城の大会議室にファーレの街の有力者を集めた。

領主としてアヴェーラ公爵及びロメル殿下の代理のミリア姫、ファーレの街の市政官として僕を含む三人の市政官と市政官詰所の幹部達。そしてギルド本部から三大ギルド長とギルド幹部達だ。

「お前のいた国では、こんな風に多くの者を集めないと物事が決められないのか?」

不思議顔の公爵に、

「いいえ、皆さんに集まってもらったのは「目標の共有」がしたいからです。大きな事業を始める時は、目標を共有したいのです。そして今後も出来るだけ多くの意見を頂きたいのです。」

「フーン。私が「やれ」と言っただけではダメなのか。」

公爵は、少し唇を尖らせている。

「もちろんそれで始められますが、目標を共有した方が何かと都合が良いのです。では、説明を始めます。」

(あ、ユウのヤツ、お母さまへの説明が面倒くさくなったわね‥‥)

ミリア姫がそんなことを考えた時、ユウの説明が始まった。


 「これから魔道具「魔法の鏡」を使って見ていただくのは、僕が見て来た景色です。ファーレの街に運河を造ることで、僕がどんな景色を造りたいと思っているのか、参考にご覧ください。映し出すのは、僕の故郷の近くの国の景色です。街には、運河が張り巡らされています。」


会議室に張った白布にプロジェクターで映し出したのは、ベニスやアムステルダムの景色だ。

・運河の街のきれいな景色や運河を活用した生活。

・運河を使った荷物の運搬や賑やかな河岸(川の船着場)の様子。


 おおーっ!

 なんと美しい街だ!

 運河のある街というのは、素晴らしいな!

 会議室が歓声とため息に包まれる中、


 「しかし運河に水を流すためには、川の堤防に穴を開けて運河と繋がなければなりません。」

僕が言うと、

「そうなんだよ。それが出来なくて5年前は断念したんだよな!」

「そうだ、そうだ。」

土木担当の市政官ドレン子爵の声に、職人ギルド長のベルガさんが同意する。しかしアヴェーラ公爵の「ちっ」という舌打ちが聞こえると、2人は小さくなってしまった。


 「見て下さい。このような形で、石を張った護岸で堤防を強化した上で、川と水路を繋ぎ、そこに水門を造って洪水の被害を防ぐというやり方があります。」

 僕は100年以上前から使われている(この世界でも作れそうな)水門の写真を見せながら水門の構造と働きを説明した。

「水門を設置すれば、このように川と水路を安全に繋ぐことが出来ます。」

おおーっ!

これならこの街に運河が作れるぞ!

会場から歓声が上がる。


 「しかし、問題があります。僕は川の工事は自信がありますが、この水門、大きな水門の門扉もんぴを作る技術がありません。」

 それを聞いた会場がシーンと静まり返ってしまった時、


 「俺にやらせて下さい!」

大きな声と共にベルガさんが立ち上がった。

「男爵様。こんな素晴らしい街づくりのかなめになるんなら、自信がねえなんて言っていられねえ。俺に‥俺達、職人ギルドに是非ともやらせて下さい!」


 するとそれを聞いたドレン子爵が、

「俺は何をやればいい。人集めか? しかし、これ程の事業をやるには、いろいろな資材や道具も必要なのではないか?」

「庭を見て下さい。道具は、少し揃えておきました。」

僕は先日現世から運んできた大量の道具を庭に出してもらっておいた。


 「おおっ、道具が揃っているじゃないか!後は予算か? ガードナー伯爵!これは絶対、ファーレの大きな財産になるぞ! お願いだ。ぜひこの事業を始めさせてくれ!お願いだ!」

会場の全員が財政担当のガードナー伯爵に注目した。

「分った。何とかしてみよう。」

ガードナー伯爵は、静かに答えた。

「予算が厳しいのは分かる。しかし、そこを何とか‥‥っていいのか?!」

「あの堅物のガードナー伯爵が一発で承諾するなんて‥‥」

 やったあーっ!

 やるぞーっ!


 会場が盛り上がる中で、僕はアヴェーラ公爵に手招きされた。公爵の傍に行くと、

「ユウ、お前ガードナーの弱みを握ったな? なぜ私に直ぐ報告せんのだ?」

僕は「えっ」という顔をした後で、

「ああ、あの件ですね。ガードナー伯爵の周辺は調べ始めましたが、まだ裏がキチンと取れていないというか、何というか‥‥。」


 「フン、まあいい。しかし、お前のことだ。運河を使って更なる企てを考えているのだろう。それもおいおい説明しろよ。」

「はい、近いうちに。」

退席する公爵に僕が一礼すると、

「とっても楽しみ。ファーレをもっといい街にして。お願いね。ユウ。」

ミリア姫が笑顔で言ってくれた。


 翌週、運河建設事業はファーレの街で公表され、労働者が広く募集された。


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