~異世界で貴族になったので、災害に備えます⑤~
完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。
◇ ◇
厄災の当日、僕達はミクを連れてスラム街の周囲に建物が無いところで待機した。待機したのは市政官詰所の職員と、教会から大司教様と御付きの神官が2人。
そしてミクの具合が悪くなった時のために、ヴィーにも来てもらっていた。
「ヤマダユウ殿、もしも地揺れが起こらなかったらどうするつもりかな。」
大司教様がヒソヒソと聞いてきたので、
「その時は、兵舎の建物をいくつか壊しましょう。少し手を入れれば簡単に崩せそうですから。」
「よろしく頼みますぞ。」
そんな話をした直後だった。
ゴゴゴ‥‥
という地の底から響いてくるような音の直後、
ドン、ドドーン!
という突き上げるような大きな揺れが来た。
キャーッ!
ミクとヴィーが僕に駆け寄って来たので、用意してあった座布団(馬車用)を2人の頭に被せて抱きかかえた。
ズン‥ズズーン!
ガラン、ガラン‥
大きな建物が崩れる振動音に、
キャーッ! キャーッ!
ミクとヴィーが、さらに悲鳴を上げる。
「あ、ヤバい! 移動しましょう!」
大司教様に声を掛けた次の瞬間、崩れた建物から発生した物凄い砂埃が僕らに迫って来た。
「ゲホゲホッ‥‥、あーあ、ひどい目に合いましたね。」
僕は自分の服の砂埃を払いながら大司教様の方を見た。
「ヤマダユウ殿、出来ればこの情報も事前に欲しかったなぁ。」
大司教様は、高位を示す純白の衣装が台無しだ。砂埃だらけで元々の色が全く分からなくなっている。僕は口の前に人差し指を立てて「しーっ」という合図をした。
大司教様は「あ、そうだね」という顔をしてから、
「すまないが埃を払うのを手伝ってくれ。」と神官を呼んでいた。
砂煙が収まると、被害の全容が明らかになった。
4棟の兵舎の建物は全て倒壊した。幸い、火災は起こらなかったが、テントや小屋の多くが建物の下敷きになっていた。
それを見た神官の青年が、「神よ」と呟いて大司教の前にひざまずく。僕達もそれに倣って大司教の前に行くと「君たちはいいよ」という顔で、手のひらで合図されたが、折角だからひざまずいた。すると慌てて市政官詰所の職員が続き、その場にいた全員が大司教の前にひざまずいていた。
ひざまづいて横にいたミクの顔を見ると、ペロっと舌を出していたずらっぽく笑っていた。
地震の後、現場を調査したが、今回の地震で死亡者は一人も出なかった。引っ越しを最後まで拒否した家族が軽いケガをしただけだそうだ。
調査後、僕らは夕焼けの中を馬車に揺られて帰った。
今日の日が来たら、どうしても確認したかったことがあったので、帰り道でミクに聞いてみた。
「ミク、2回目の予知をしてもらった時には、本当に霧がかかって何も見えなかったのか?」
僕の顔を見てミクは、いたずらっぽく笑って、
「ううん、あれはウソ。見えていたのはねぇ、今のこの景色なんだ。私たちが笑いながら夕焼けの中を帰るこの景色‥‥。これが見えた時は笑っちゃいそうで苦労したわ。でも、もしもお兄ちゃんがそれを聞いて油断したらいけないでしょう。」
「‥‥そうか、ありがとう。ミクに何かご褒美を出さなくちゃいけないな。」
「本当! 約束だからね!約束だからね!」
「えっ、う、うん。」
ミクがすごい勢いで迫って来たので返事をせざるを得なかった。
「何が良いかなーっ! あ、二つお願いね。二つのお願いをかなえてもらうからね。」
「ミクぅ、手加減してくれよな。」
「ユウ様、約束は守らないといけないですよ。」
ヴィーが笑っている。
ちょっと心配事が残ったけど、無事に大仕事が一つ終わった。