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~異世界で貴族になったので、災害に備えます①~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

    ◇    ◇


  僕は市政官執務室で、ファーレの街の中心市街地改良計画「大規模区画整理」を立案するにあたって、現世市役所の地域づくり課で携わっていた仕事を思い出していた。


「まち、ひと、仕事 総合施策」

街づくりをするには、そこに住む人たちとしっかり話し合って、仕事(産業)も造り出しながら、その過程で『人づくり』も考えて進めると、結果的に街づくりもうまく出来る。って事だったと思うけど、難しいことだ。


「中心市街地活性化施策」

機能が低下した(結果的に人口も減少)中心市街地に、人の流れを造って経済再活性化を図る。そのためには公共交通の利便性を向上させたりする。そして併せて防災機能の向上を図る。

って事だったと思うけど、やっぱり難しいことだ。

 これらのことを文字に書き出して、執務室の床に広げて考えていると、


 「ユウ。悩むのはいいが、私の意見もキチンと反映させるのだぞ。」

帰省していたロメル殿下が、僕の仕事を見に来てくれたのだ。

 


 「いかがですか、摂政公の仕事は?」

「正直言って、気疲れすることが多いな。あまり私ばかりが表に出過ぎてもいけないし‥‥」

「じゃあ今日は気晴らしに、僕の相談に乗ってくださいよ。」

「私の意見を反映させるのなら良いぞ。」

「はい、有効だと思ったものは取り入れます。」

「こいつーっ!」

 二人で笑いあった後、秘書役にお茶と軽食を運んでもらった。


 床に広げた紙に、発案したことを書き足しては議論した。床に座り込んで「ああでもない、こうでもない」と議論に熱中していたため、僕らは来客に気が付かなかった。


 訪ねてきたミリア姫に声を掛けられたことに、2人とも気が付かなかったのだ。

「ちょっとユウの様子を見てくる」と出かけたきり帰ってこないロメルの様子を、ミリア姫が見に来たのだ。


 「姫様、私がもう一度お声がけを‥‥」

 同行してきた側付きメイドがもう一度声を掛けようとしたが、ミリアが「良いのです。」と制止した。ミリア姫は、ユウとロメルの姿を見て「子供が2人で秘密の計画を作ってるみたい。」と呟いて微笑んだ。


 メイドはその笑顔を、まじまじと見返してしまった。

(姫様は、いつの間にこれ程大人びた微笑みをされるようになったのか? そしていつの間に‥‥これ程お美しくなられたのか?!)


 「帰りましょう。」

 微笑んで引き返すミリアの後ろ姿に、メイドは一礼してから付き従った。


      ◇     


 「かなり臭いもキツイな‥‥」

 今日僕は、ダウンタウンの中でも特に住環境の悪いスラム街に来ていた。ドローンを飛ばしてスラム街の全体を把握することにしたのだ。


 全体を把握して分かったことだが、スラム街といっても、テントや小屋のようなところに住んでいる人ばかりではなく、多くの人が老朽化した石造りの集合住宅のような建物に住んでいた。

 後で聞いてみたのだが、これは約百年前、ファーレン公領になる前の領地時代に兵士の宿舎だった建物だそうだ。3階建で、現世日本でいえば「独身寮の団地」のような建物が4棟。多くの兵士を効率的に住ませるには都合が良かったのだろう。

 しかし、良く見てみると、あちこち崩れかかっており、つい先日も一棟が部分的に倒壊したそうだ。


 こんな崩れかかった建物に約300人が住んでいるそうだ。ちなみに本来の定員は、1棟当たり30人で4棟合計して120人だそうだ。そしてテントや小屋が密集したエリアに約300人が住んでいる。


 区画整理を行うには、この合計600人を移転させることが必要になるのだ。僕は住民説明会を行ってから、少しづつ移転してもらおうと考えていた。


 しかし、事態は急を要することになってしまった。


          ◇

 満月の日を翌日に控えて(満月を含めて3日なので今日も力は使えるのだが)僕は、現世日本で入手する物のリストを考えていた。そこへ来客が告げられた。


「妹様が、ご面会にいらしています。」

 ミクが、現世日本へ行く僕に何かおねだりに来たのかと思い、軽くあしらおうか、試食会で頑張ったからご褒美をあげようか、などと考えながら客室に向かった。

 しかし、客室で待っていたミクの様子は想像と違っていた。切羽詰まった様子で「とにかく伝えなければならないことがある。人払いしてくれ。」というのだ。


 客室の人払いを済ませた途端、ミクは僕の腕を掴んだ。

「ユウちゃん、大変なの。‥‥人が、人がいっぱい死んじゃうの!」

「なんだって!?」


 話を聞くと、

 今朝、代官所で僕の話題になり、ファーレの街で区画整理のような仕事に携わる事をリリィから聞いたというのだ。話を聞いたミクは、ファーレが将来どんな街になるのか想像したところ、いきなり大災害のイメージが見えたという。

 満月を明日に迎えてミクの力、予知能力が発動したのだ。


 地震で倒壊する建物、

 下敷きになる人、

 地震の後に発生したと思われる大規模火災、

 逃げ惑う住民、


 「死んじゃう、いっぱい人が死んじゃう!」

 頭を抱えて嘆くミクの肩を僕は抱きしめた。小さな背中を撫でながら考えて、僕は意を決した。

「ミク、これから言うことをしっかり聞いてくれ。僕は君にヒドイお願いをする。災害の場所や被害の状況を詳しく知るために、今日一日、何度も恐ろしい予知を見てもらうけど、いいか?」


 ミクはそんな僕の顔を見て、小さくため息をついてから、

「怖いけど。協力するために来たんだよ。だからお願い! この恐ろしい未来を変えて!」 



 僕は公爵家にミクと共に向かい、ちょうど帰省していたロメル殿下、アヴェーラ公爵、バートさんに集まってもらった。そして人払いしてもらった会議室で、状況を説明した。


 「今すぐ馬車を貸してください。今日1日ファーレの街を回り、被害状況を確認します。」

「随分急ぐのだな。聞いた話ではお前たちの力は満月の全後3日間、すなわち今日から3日間使えるのではないのか?」

 アヴェーラ公爵は、ここまでの話を聞いても比較的落ち着いている。


 「ここへ来る前にミクに「見て」もらいましたが、地震は20日後に起こります。」

「何ぃ! 時間が無いではないか!」」

 公爵が立ち上がって大声をあげると、

「ごめんなさいぃ‥‥。」

ミクが消え入りそうな声になる。


 僕が、公爵をジト見すると、

「‥すまん、ミク。良く知らせてくれた。お前は何も悪くない。むしろ礼を言わねばならん。馬車は直ぐ用意させる。しかし、どうやって被害を減らすか大至急考えなければならんな。」

「はい!」


 僕は、ウルドからヴォルフとリリィを呼び寄せた。そして、土地勘があってミクの事情も理解しているバートさんにも同行してもらうこととした。



 ヴォルフがバイクで先導する馬車が、ファーレの街を回った。途中、川の堤防からウルド領を見ながらミクに予知をさせたが、ウルド領に被害はなさそうだった。公爵居城やファーレ大教会でも確認したが、大きな被害が出ることはなさそうだ。

 また、街の中を回る中で、空堀のような、使っていない水路のようなものが多く目に付いた。これが何なのかは、後でバートさんに聞いてみよう。


 そして、ダウンタウンのスラム街で確認を始めた時だった。


 「キャーッ!キャーッ!! 死んじゃう! みんな死んじゃう!!」

 ミクが恐慌状態に陥るほど騒ぎ出した。


 「ミク、しっかりしろ!被害の程度を確認するんだ。崩れる建物はどれだ? 火事の延焼範囲も確認するんだ。」

「わ、分かったわよう。‥‥キャーッ! この団地みたいなの全部ダメーっ! 崩れて人が埋まっちゃう、人が潰れるーっ! その辺りのテント全部燃えちゃう‥‥人が、人が燃えてるーっ!!」

ミクは泣き叫びながら状況を報告する。


 恐慌状態に陥って泣き叫ぶミクを見て、

「ユウ様! もうお止めください! ミクが、ミクの心が壊れてしまいます!」

リリィが、僕からミクを奪い取るかのように抱き寄せた。

それを見たヴォルフが、

「リリィッ! ユウ様の邪魔をするなっ!」

怒鳴り声をあげた。


 後で聞いたことだが、ヴォルフがリリィを怒鳴ったことなど、後にも先にもこれ一度きりだったということだ。

「ユウ様が、ミクのことを考えずにやっていると思うのか。」

泣きながら被害状況を確認するミクに指示をするユウは、爪が食い込むほど拳を握りしめている。

「ごめんなミク、怖いよな。だけど‥‥変えるから。絶対未来を変えてみせるから!」



 ミクのおかげで概ね確認出来た被害状況は、

地震自体はそれほど強くないが、老朽化した建物が倒壊して被害が出てしまうようだ。そして火災は、テントや小屋の密集した居住形態と強風によって拡大したようだ。

老朽化した建物とテントや小屋に密集する居住形態のスラム街で被害が集中することが分かったのだ。


 しかし、スラム街全体の住民を一時的にも移住させなければ、この地区で多くの死傷者が出ることは間違いない。


 僕は以前ミクに聞いた話を思い出していた。

「予知は、その時点の予知」「同じことを翌日に予知したら結果が違っていたことがある」

 早期に対策を考えて2日間で出来るだけ動いた場合、それによって未来の状況が改善するなら、2日後にミクに再度予知してもらえば、改善された未来が見えるのではないか?


 そのためには、公爵家をはじめとする協力者の助力確認を早急に取り付けなければならない。


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