~異世界で貴族になったので、街づくりに取りかかります⑤~
完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。
◇
次に僕らが向かったのが、今日の目的地「コバク一家」の根城だ。
コバク一家の頭|かしら|のコバクという人は、ダウンタウンの裏社会を治める顔役だそうだ。
「すいませーん。市政官のヤマダユウと言いますが、コバクさんはいらっしゃいますかぁ。」
玄関先で「ちょっと間抜けかなぁ」と思うような挨拶をしてしまった。
すると、
「役人が何の用だ。コラァ!」
人相の悪い大男が2人出て来た。
「おっ、キレイなねーちゃん連れて来たじゃねえか。ねーちゃん置いて、役人は帰んな。」
「そういう訳にはいかないんだよね。コバクさんに用があるんだ。」
「なんだとこの野郎! じゃあ中で話をするか? 後悔すんなよ。」
僕らは、中に入れてもらった。
しかし、ドアから中に入った途端、僕の喉元にナイフが突き付けられた。
「ユウ様!」
僕らは、5、6人のゴロツキどもがたむろしている酒臭い部屋に連れ込まれた。
僕はテーブルに座らされて、相変わらずナイフを突き付けられている。
「ユウ様、私、もう我慢出来ません。」
テーブルの相向かいに座らされているリリィが、僕にナイフを突きつける男を睨んだ。
「なんだ、お姉ちゃん、オシッコちびりそうなのかなぁ。」
アッハッハッハ、
男達が下卑た笑い声をあげる。
「リリィ、もう少しだけ我慢し‥」
僕が言いかけた時、
「オイ、このねーちゃんいいオッパイしてるぜ!」
リリィの横に立ってナイフを持っていた男が、空いている方の手でリリィの胸を掴んだ。
「キャーッ!」
リリィの悲鳴で僕が切れた。
「リリィ、やっちまえ!! ただし殺すなよ!」
「何、勇ましい事言って‥‥」
僕にナイフを突きつけた男の脅し文句が終わらないうちに、
パン! パン !パン!
リリィが懐から取りだしたグロックが火を噴いた。
ギャッ!!
ぐえっ!!
いでーっ!!
僕にナイフを突きつけていた男を皮切りに、3人の男の腕や肩を撃った。ほぼ同時に、僕もリリィの脇の男を撃った。リリィの胸を掴んだ奴だ。
あっという間に4人の男が床にへたり込み、肩や腕を押さえてうめき声を上げている。
「ま、魔法か? て、てめえら何もんだ?」
まだ銃弾を受けていない男も、腰を抜かして床にへたり込んでいる。
「最初に言ったろ。市政官のヤマダユウだって。折角、コバクさんに会いに来たっていうのにさぁ。」
僕が鼻息荒く文句を言っていると、
「オイ!その市政官とんでもねえヤツだ!「トバルの蛇」の副長をやった奴‥って‥‥」
慌てて部屋に飛び込んできた男が、うめき声の仲間達を目にして言葉を無くす。
「オイ! 連れの女とんでもねえぞ! 先月の王都事変でオーガを4体も‥って‥‥」
続いて飛び込んできた男も同様だった。
「早く言ってくれよーっ‥‥。」
床にへたり込んだ男が力なく声を上げた時、
「オイ、何の騒ぎだ。」
「あっ、お頭‥‥」
目つきは鋭いが、割ときちんとしていそうな小柄なおじさん風のコバクさんが帰って来た。
「うちの奴らが失礼なことをしたようで、申し訳ねえ。」
奥の部屋でコバクさんは、僕らに謝ってくれた。
「いや、僕らもその後でやっちゃったので‥。」
僕とリリィもコバクさんに謝った。
「さっきダレン先生のところに寄って来たんだ。「貴族らしくねえ面白そうな市政官が来たぜ」って話をしたところだったんだ。」
僕は、バートさんから、「ダウンタウンで大きな仕事をするならコバク一家は押さえておいた方が良い」という助言を受けていたのだ。
そしてコバクさんからダウンタウンの裏社会における組織や力関係について教えてもらうことが出来た。
ちょっと波風立ってしまったけど、コバク一家とは「ツテ」を作ることが出来た。
「リリィ、ごめんよ。嫌な思いをさせたね。」
帰り道で僕は、同行してもらったリリィに謝った。
「いえ、ユウ様が悪いのではありませんから。お声がけ頂いて嬉しかったです。ダレン先生にも会えましたし、‥‥でも、あの男は許せません。もう1発打ち込んでも良かったかも知れません。」
(ヴォルフを連れて来ないで本当に良かった。もしヴォルフがいたら、怒り狂ってコバク一家を全滅させていたかも知れない‥‥。)
僕はため息を付きながらダウンタウンを後にした。