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~異世界で貴族になったので、街づくりに取りかかります➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。


      ◇     ◇


 「ねえ、ユウちゃ‥お兄ちゃん。なんで試食会をいきなり公爵家でやるのよ。それに公爵様とお姫様が試食するなんて‥‥。」

「ルー姉さんに太鼓判貰ったんだろう。だったら大丈夫だよ。」


 ミクがスイーツメニューに取り掛かってから2週間後、僕たちは公爵居城の後宮に来ていた。ミクに任せていたスイーツメニュー開発で、いくつかの試作品が生み出せたため、後宮で試食会を開くことにしたのだ。


「公爵家でやらないと難しいんだよ。スイーツの試食会は、お嬢様達でないと確認が難しいと思ったんだ。」

「だからって‥‥」

 尻込みするミクだが、公爵やミリア姫の側付きメイドは貴族や豪商の娘達だ。庶民よりもスイーツの知識があるはずだ。せっかくなら味の分かる人に確認してもらいたい。


 後宮の客室を借りて、メイド姿のリリィとヴィーがテーブルのセッティングをしていると、

「何か申し訳ないわね。私達がお客様扱いなんて。」

「でも楽しみー。」

 後宮のメイド達がいそいそと客室に入って来た。


 「ヴィーちゃん久しぶりー。ユウ様とはうまくいってるー?」

「つまんない事聞くんじゃないわよ。ユウ様は、ヴィーちゃんを王都まで助けに行ったのよ。しかもオーガと戦って助け出したのよ。」

「もう勇者様に助けられたお姫様みたい。」

メイド達が、キャーキャー言いながらヴィーを冷やかしている。


 ヴィーは、頬を赤くしながら、

「あうう‥‥あ、そうだ。あたしなんかより、リリィはヴォルフにプロポーズされたですよ。」

「ちょっと‥‥、私のことはいいでしょう。」

自分の方に振られてリリィが慌てた。


 「ええーっ!?」

「リリィちゃんズルーい!」

 リリィを囲んでメイド達の大騒ぎが始まった時、

「公爵様と姫様がいらっしゃったわよ!」

 メイド達が大慌てで着席して姿勢を正す。



 「ユウ、ミク、ご苦労。今日は試食会だそうだな。楽しみにして来たぞ。」

「私もよ。」

 笑顔のアヴェーラ公爵とミリア姫が、バートさんに連れられて客室に入って来た。


 「あ、あたし、おなか痛くなって来た。」

「大丈夫だから、安心しろよ。」

胃の辺りを押さえてため息をつくミクをとりあえず励ました。


 「アヴェーラ公爵様、ミリア姫様。本日はウルド直売所で新たに売り出すスイーツの試食会のために会場を提供して頂き、ありがとうございます。」

 僕の声に合わせて、リリィとヴィーが頭を下げる。ワンテンポ遅れて慌ててミクが続く。


 「本日お試しいただくスイーツは、きっと気に入って頂けると思っています。ですので予めお願いがございます。特に気に入った品については「公爵家御用達」を名乗ることをお許し頂けないでしょうか? もちろんロイヤリティについてはご相談させていただきますが。」

「ちょ‥、なに、いきなりハードル上げてんのよ!止めてよ!」

 僕の言葉にミクが慌てた。


 「ほう。お前達、相当自信があるようだな。」

僕らを睨んで口元だけの微笑みを見せるアヴェーラ公爵にミクが、

「ごめんなさーい。ユウちゃ‥お兄ちゃんが生意気なことを言ってーっ。」

早くも泣きべそをかいている。


 「では早速、始めさせていただきます。」

「もう、帰るーっ。」

 逃げ出そうとするミクの後ろ襟をつかまえて、リリィとヴィーに配膳を始めさせる。


 「最初はシュークリームというお菓子です。本来は僕らの故郷でないと手に入らない材料があるのですが、こちらで手に入る物だけで試作してみたものです。どうぞお召し上がりください。」

「えーっ、シュークリームからぁ? シュー皮が固くて自信ないのにーっ!」

「大丈夫だから見ていろ。」

僕は嘆くミクをなだめた。


 初めて見る変な形のスイーツに皆なかなか手が出ないが、ミリア姫は直ぐに手に取って香りを確認している。

「あ、甘くて香ばしい香り。そして見た目よりも重みがあるわ。中に何か入ってるのね。」

そう言うなり、パクリと口を付けた。


 みんなが固唾を飲んで見守る中、ミリア姫は目を閉じてモグモグと味覚に集中している。

「おい、ミリア。味はどうなんだ?」

アヴェーラ公爵が感想を催促すると、ミリア姫は、閉じていた瞳を静かに開いた。

「‥‥魔法にかかったみたい。世の中にこんなに美味しいものがあったなんて‥‥。」


「大げさなヤツだな。」

アヴェーラ公爵が、呆れ顔でシュークリームを頬張った。


 サクッ‥

 トローン、

「うっ‥‥美味いな。なんだこれは‥‥。」

アヴェーラ公爵が目を大きく見開いて、シュークリームをまじまじと見て驚いている。


 キャーッ!

 美味しーい!

続いて食べた公爵家のメイド達が歓声を上げている。


 「やっぱりシュー皮は、少し硬いくらいで良かったんだよ。」

 僕が、目を覆って現実逃避しているミクの手を外してやりながら声を掛けると、

「ホント?ホントにホント‥‥。やったーっ!」 両手を上げて飛び跳ねている。


「ミク、良かったのです!」

ヴィーが駆け寄って抱き合って喜んでいる。


 「次、行こう。」

 声を掛けられたリリィとヴィーが、手際よく配膳を始める。

「次は、パンプキンパイです。既に直売所には人気商品として「カボチャプリン」がありますので、共通の材料を使えるところが、生産者側での利点にもなります。」


 やはりミリア姫が最初に口を付けた。


 サクッサクッ、

「何なの‥。このサクサク生地の食感と、カボチャの甘みが、たまらない!」

「おお、これも美味いな。」

「キャーッ、これも美味しーい!」

2品目も好評だ。


 「いよいよ本日のメインです。これは皆様の前で切り分けます。」

ヴィーがワゴンに乗せて大皿を運んできた。それがアヴェーラ公爵とミリア姫の前に置かれた。そして皿に被せてあった銀のカバーをリリィがパカッと開いた。


 固唾を飲んで皿に注目していた2人からは、

「真っ白でキレイだけど‥‥」

「期待させた割に地味だな。」

 少し不満が漏れた。

 現れたのは、円筒型の真っ白なケーキだった。


 「リリィ、切り分けて差し上げて」

「はい、かしこまりました。」

 リリィがナイフを入れて、そのケーキの断面が見えた途端、

「な、なんだこれは!!」

「キレー!! 宝石が入っているみたい!」


 ええっ?!

 私にも見せて下さいませ!

 私にも!

メイド達が、席を離れて集まって来る。

 

「最後は、フルーツロールケーキです。ミクが苦労して作ったホイップクリームと、中に入っているのは、直売所でこれから本格的に販売するイチゴという果物です。この組み合わせをお楽しみ下さい。」


 ウルドの農場では、イチゴ栽培を始めている。また、ヴィーが森でベリー系の果実を数種類採取して来た。これを組み合わせて入れてみたところ、甘みと酸味のバランスが素晴らしいロールケーキが出来上がった。


 「こ、これは‥‥。」

「見た目だけでなく味も‥‥。」

ケーキを食べたアヴェーラ公爵とミリア姫は、2人とも言葉を失っている。


 食べ終わったアヴェーラ公爵が、おもむろに立ち上がった。

「ミク、こちらへ来なさい。」

「は、はい。」

 ミクが、恐る恐る歩み寄るとアヴェーラ公爵は、

「ありがとう。本当に美味しかった。」

そう言って笑顔でミクの両手を取った。


 ミリア姫も立ち上がって公爵とミクに歩み寄った。

「私にもお礼を言わせて。ありがとう。本当に美味しかった。とても幸せな時間を過ごしたわ。」

 今度はミリア姫がミクを抱きしめた。

「そんなに‥‥そんなに喜んで頂けるなんて‥‥あたし、あたし‥」

ミクが大粒の涙をポロポロこぼした。


 それを見ていた。公爵家のメイド達がミクを取り囲んだ。

「ありがとう。本当に美味しかった」。

「夢のような時間をありがとう。」

「ありがとう。」


 パチ、パチ、パチ、


 メイド達たら拍手が沸き起こると、ミクは涙を拭いながら何度も何度も頭を下げていた。


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