~異世界で貴族になったので、街づくりに取りかかります①~
完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。
◇ ◇
「卵も牛乳も、何んん‥にも無いじゃない!?」
「そりゃそうだ。何にも無いところから、ここまでにして来たんだ。まだ足りない物もあるさ。」
「でも砂糖は結構、質が良さそうね。そして生成過程で出来たカラメルソースかぁ‥‥」
王都からウルド領へ帰って来た僕は、早速、ミクを農産物直売所に案内した。店内を見回して不満を言っているミクだが、それを聞いた直売所のスタッフ達は面白くない。
「なーに、あの子。生意気なこと言って。」
「ユウ様に連れられて来たからって、私達の直売所にケチをつけるなんて何様よ。」
「ユウちゃんその子は何なの?」
仁王立ちのルウ姉さんを先頭にした直売所のスタッフが、僕とミクを怪訝そうな目で出迎えた。
「あ、紹介するよ。僕の妹のミクだ。僕の故郷から呼び寄せたんだ。」
「えーっ! ユウ様の妹様ですって?」
「そういえば、雰囲気がそっくり!」
「似ていらっしゃるわーっ!」
あっという間に、ミクは皆に囲まれてしまったが、ミクは面白くなさそうに口を尖らせている。
「あ、ごめん。コイツ僕に似てるって言われると機嫌悪くなるんだ。」
「あらまぁ。そうなのー?」
みんなますますミクに興味深々だ。
「ミクには、直売所に新設するスイーツ部門の開発責任者を任せようと思って呼び寄せたんだ。」
「すいーつ部門?」
「ああ、甘い物専門の部門を創ろうと思ってる。店内の一角で販売して、評判が良ければ店舗を増設して、甘い物専門店を作りたいんだ。」
「すごい、甘い物専門のお店なんて‥‥ファーレの街にも何件もないのに。」
皆、僕の妹だと聞いた途端にミクを歓迎ムードで迎えている。一人を除いて。
「ユウちゃん、あたしはね、職場の輪を乱すような子とは、一緒に仕事は出来ないわよ。」
ルー姉さんは、相変わらず仁王立ちのままだ。
「ちょっとルー姉さん。ユウ様、男爵様になられたのよ。言葉に気を付けなさいよ。」
周りのご婦人が耳打ちするが、ルー姉さんは仁王立ちでミクを睨んでいる。ミクもルー姉さんをにらみ返したが、直ぐに目をそらした。
(生意気だけど根性無しだな。)
皆にそう思われたミクであった。
◇
「何なの、あのボス猿みたいな女。」
代官所に帰って来ると、早速ルウ姉さんの悪口を言い始めたミクに、
「ひょっとして、ルー姉さんのことですか?」
リリィがお茶を配膳しながら尋ねると、
「そう。偉そうにしてぇ。」
口を尖らせている。
「でも、頼りになるですよ。みんな頼りにしてるです。」
掃除をしていたヴィーが口を挟むと、「そうなの?」と言う顔でリリィを見る。
「そうですよ。」と、リリィに微笑まれるとすごく肯定されたような気になる。
(美人はズルいなぁ。)と思いながらミクは、
「ねえ、ユウちゃ‥‥お兄ちゃん。卵とか牛乳とかは、手に入らないの?」
ミクは、リリィやヴィーの前でも僕を「お兄ちゃん」と呼ぶことにしていた。
「手に入らないことは無いよ。公爵家で乳牛の牛舎も養鶏場も持ってるみたいだから。」
「じゃあお願い。手に入れて。卵と牛乳はスイーツには必須だから。あと、太陽光発電があるけど冷蔵庫は使えるの。」
「いや、冷蔵庫は、まだ使っていないんだ。カボチャプリンとかも深井戸の水で冷やしてる。でもポータブルバッテリーを使えばバッテリー式のクーラーボックスくらいは使えるよ。」
「じゃあ、それもお願い。何とかバターと生クリームを作りたいのよね‥‥。」
僕も、今後の直売所の拡大と新たな商品開発のためには、卵と牛乳(養鶏場と牛舎)は必要だと思っていた。〇岩井農場みたいなこともやってみたいけど、まずは試行的に小規模に初めてみよう。
そしてミクのスイーツが上手くいったら商品をブランド化したいと考えていた。
そこまで出来たら僕のウルド直売所の仕事は「一区切り」だと思っていた。
◇
「へー、便利な道具があるものね。さすがユウ様。」
「いや、これはミクの発案でヴォルフ達が作ってくれたんだ。」
直売所のキッチンで、遠心分離機を囲んでみんな感心している。今日はからミクが、新メニュー作りにチャレンジするのだが、遠視分離機は、牛乳から生クリームを生成する過程で必要な道具だ。
ミクからは様々な電動調理器具を注文されたが、僕はそのほとんどを却下した。電気は、生活や防犯上の必要最低限で使うことにしているのだ。現在の太陽光発電システムでは、それくらいしか発電出来ないし、この世界にある魔石を動力としたシステムと比較した優位性も、あまり目立たせたくないからだ。
「ケチーっ。」
ミクに文句を言われたが、譲るつもりはなかった。
「ポータブル冷蔵庫を使えるようにしたんだから、文句言うな。」
「分ったわよう。何とかやってみる。」
そんな経緯もあり、ミクは生クリームからホイップクリームを作ろうとしているが悪戦苦闘している。
「電動泡立て器だったらすぐ固まるのにーっ。」
もう一時間以上やっているが、まったくホイップ状にならない。
「何か、やり方とか材料に足りない物があるんじゃないのか。」
「そんなことないわよ! お姉ちゃんとやってた時は上手くいった‥‥」
僕の言葉に反論したミクだが、言葉を途中で飲み込むようにして、下を向いてしまった。
「‥‥ううっ、お姉ちゃ‥‥お姉ちゃーん。」
いきなり泣き出してしまった。急に現世日本のことを思い出してしまったようだ。
「なーに、上手くいかないからって、泣きべそかいてんの? まったくしょうがないわねー。」
用事から帰って来たルー姉さんが、ミクを見てあきれ顔だ。僕は少し迷ったが、今後のことを考えてルー姉さんにもミクの正体を明かすことにした。
「そんな大事なこと、なんで早く教えないのよ。‥まあ、事情があるんだろうけどさあ。」
僕の説明を聞き終えると、ルー姉さんは僕の尻を平手で「ピシャリ」と叩いて、ミクの元に駆け寄っていく。
「どうしたんだい。何が上手くいかないんだい。ルー姉さんにやらせてみな。」
「かき混ぜれば固まるはずなのぉ‥‥、前にお姉ちゃんとやった時は上手くいったのぉ‥‥」
ミクに涙目で見上げられて、ルー姉さんは何かのスイッチが入ってしまったようだ。
「あ、あたしをお姉ちゃんだと思って、やらせてみな。どうやるの? こうかい?」
ルウ姉さんが手際行く生クリームをかき混ぜる。
「うん。そう‥‥そんな感じ‥‥。」
「どうやら上手くいきそうですね。」
声をかけられて振り向くとリリィとヴィーが微笑んでいた。
「そうだね。いろいろとね。」
僕も安心して小さくため息をついた。