表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/163

~異世界で貴族になったので、街づくりに取りかかります①~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

      ◇   ◇


 「卵も牛乳も、何んん‥にも無いじゃない!?」

「そりゃそうだ。何にも無いところから、ここまでにして来たんだ。まだ足りない物もあるさ。」

「でも砂糖は結構、質が良さそうね。そして生成過程で出来たカラメルソースかぁ‥‥」


王都からウルド領へ帰って来た僕は、早速、ミクを農産物直売所に案内した。店内を見回して不満を言っているミクだが、それを聞いた直売所のスタッフ達は面白くない。

「なーに、あの子。生意気なこと言って。」

「ユウ様に連れられて来たからって、私達の直売所にケチをつけるなんて何様よ。」


 「ユウちゃんその子は何なの?」

仁王立ちのルウ姉さんを先頭にした直売所のスタッフが、僕とミクを怪訝そうな目で出迎えた。


 「あ、紹介するよ。僕の妹のミクだ。僕の故郷から呼び寄せたんだ。」

「えーっ! ユウ様の妹様ですって?」

「そういえば、雰囲気がそっくり!」

「似ていらっしゃるわーっ!」

あっという間に、ミクは皆に囲まれてしまったが、ミクは面白くなさそうに口を尖らせている。

「あ、ごめん。コイツ僕に似てるって言われると機嫌悪くなるんだ。」

「あらまぁ。そうなのー?」

みんなますますミクに興味深々だ。


 「ミクには、直売所に新設するスイーツ部門の開発責任者を任せようと思って呼び寄せたんだ。」

「すいーつ部門?」

「ああ、甘い物専門の部門を創ろうと思ってる。店内の一角で販売して、評判が良ければ店舗を増設して、甘い物専門店を作りたいんだ。」

「すごい、甘い物専門のお店なんて‥‥ファーレの街にも何件もないのに。」


  皆、僕の妹だと聞いた途端にミクを歓迎ムードで迎えている。一人を除いて。


 「ユウちゃん、あたしはね、職場の輪を乱すような子とは、一緒に仕事は出来ないわよ。」

ルー姉さんは、相変わらず仁王立ちのままだ。

「ちょっとルー姉さん。ユウ様、男爵様になられたのよ。言葉に気を付けなさいよ。」

周りのご婦人が耳打ちするが、ルー姉さんは仁王立ちでミクを睨んでいる。ミクもルー姉さんをにらみ返したが、直ぐに目をそらした。

(生意気だけど根性無しだな。)

皆にそう思われたミクであった。


       ◇


 「何なの、あのボス猿みたいな女。」

代官所に帰って来ると、早速ルウ姉さんの悪口を言い始めたミクに、

「ひょっとして、ルー姉さんのことですか?」

リリィがお茶を配膳しながら尋ねると、

「そう。偉そうにしてぇ。」

口を尖らせている。


 「でも、頼りになるですよ。みんな頼りにしてるです。」

掃除をしていたヴィーが口を挟むと、「そうなの?」と言う顔でリリィを見る。


 「そうですよ。」と、リリィに微笑まれるとすごく肯定されたような気になる。

(美人はズルいなぁ。)と思いながらミクは、


 「ねえ、ユウちゃ‥‥お兄ちゃん。卵とか牛乳とかは、手に入らないの?」

ミクは、リリィやヴィーの前でも僕を「お兄ちゃん」と呼ぶことにしていた。

「手に入らないことは無いよ。公爵家で乳牛の牛舎も養鶏場も持ってるみたいだから。」

「じゃあお願い。手に入れて。卵と牛乳はスイーツには必須だから。あと、太陽光発電があるけど冷蔵庫は使えるの。」

「いや、冷蔵庫は、まだ使っていないんだ。カボチャプリンとかも深井戸の水で冷やしてる。でもポータブルバッテリーを使えばバッテリー式のクーラーボックスくらいは使えるよ。」

「じゃあ、それもお願い。何とかバターと生クリームを作りたいのよね‥‥。」


 僕も、今後の直売所の拡大と新たな商品開発のためには、卵と牛乳(養鶏場と牛舎)は必要だと思っていた。〇岩井農場みたいなこともやってみたいけど、まずは試行的に小規模に初めてみよう。

そしてミクのスイーツが上手くいったら商品をブランド化したいと考えていた。


 そこまで出来たら僕のウルド直売所の仕事は「一区切り」だと思っていた。


         ◇


 「へー、便利な道具があるものね。さすがユウ様。」

「いや、これはミクの発案でヴォルフ達が作ってくれたんだ。」

 直売所のキッチンで、遠心分離機を囲んでみんな感心している。今日はからミクが、新メニュー作りにチャレンジするのだが、遠視分離機は、牛乳から生クリームを生成する過程で必要な道具だ。

 ミクからは様々な電動調理器具を注文されたが、僕はそのほとんどを却下した。電気は、生活や防犯上の必要最低限で使うことにしているのだ。現在の太陽光発電システムでは、それくらいしか発電出来ないし、この世界にある魔石を動力としたシステムと比較した優位性も、あまり目立たせたくないからだ。


 「ケチーっ。」

 ミクに文句を言われたが、譲るつもりはなかった。

「ポータブル冷蔵庫を使えるようにしたんだから、文句言うな。」

「分ったわよう。何とかやってみる。」


 そんな経緯もあり、ミクは生クリームからホイップクリームを作ろうとしているが悪戦苦闘している。

「電動泡立て器だったらすぐ固まるのにーっ。」


 もう一時間以上やっているが、まったくホイップ状にならない。

「何か、やり方とか材料に足りない物があるんじゃないのか。」

「そんなことないわよ! お姉ちゃんとやってた時は上手くいった‥‥」

 僕の言葉に反論したミクだが、言葉を途中で飲み込むようにして、下を向いてしまった。


 「‥‥ううっ、お姉ちゃ‥‥お姉ちゃーん。」

 いきなり泣き出してしまった。急に現世日本のことを思い出してしまったようだ。


 「なーに、上手くいかないからって、泣きべそかいてんの? まったくしょうがないわねー。」

 用事から帰って来たルー姉さんが、ミクを見てあきれ顔だ。僕は少し迷ったが、今後のことを考えてルー姉さんにもミクの正体を明かすことにした。


   

 「そんな大事なこと、なんで早く教えないのよ。‥まあ、事情があるんだろうけどさあ。」

 僕の説明を聞き終えると、ルー姉さんは僕の尻を平手で「ピシャリ」と叩いて、ミクの元に駆け寄っていく。


 「どうしたんだい。何が上手くいかないんだい。ルー姉さんにやらせてみな。」

「かき混ぜれば固まるはずなのぉ‥‥、前にお姉ちゃんとやった時は上手くいったのぉ‥‥」

 ミクに涙目で見上げられて、ルー姉さんは何かのスイッチが入ってしまったようだ。

「あ、あたしをお姉ちゃんだと思って、やらせてみな。どうやるの? こうかい?」

 ルウ姉さんが手際行く生クリームをかき混ぜる。

「うん。そう‥‥そんな感じ‥‥。」


 「どうやら上手くいきそうですね。」

 声をかけられて振り向くとリリィとヴィーが微笑んでいた。

「そうだね。いろいろとね。」

 僕も安心して小さくため息をついた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ